079.ナカー村での襲来
翌朝、皆で宿の朝食を食べているときにショルがクロロに尋ねる。
「ところで、昨日は曖昧になっちゃったけど、結局クロロ君は悪の組織のボスであるハイルの居場所を知ってるの?知らないの?」
クロロは飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。
「グォッホッ!ゲッポ…。ショルまだ覚えてたんだ…」
「当たり前よ!クロリア王国の全貴族の敵をそうやすやすとほおってはおけないわ!」
完全にハイルが悪者だと思っているようだ。
「あー…。正直に言うと、ハイルがどこにいるかは本当に知らないんだ。しばらく前はクリリ街にいたけどね」
それを聞いたショルは悔しそうにフォークをパンに突き刺す。
そしてそのままパンをもっしゃもっしゃと食べた。
フォークでパンを食べるとはまた斬新な方法だ。
「結構近くにいたんじゃない!…もう少し早く居場所を知っていれば、シータ街からも彼を捕える応援部隊を派遣できたのにー!」
パンをプスプスいじめるショル。
いくらパンでも可哀想だからやめてほしい。
「でも、なんでショルはハイルが貴族狩りの犯人だと思うの?」
「だってオーグル様が捕えよって命令をするくらいの人物よ。悪い人に決まっているわ」
何の疑いもなくそう口にするショル。
周りを見て見ると、他のメンバーもうんうんと頷いている。
…思ったよりオーグルは貴族や国民からの支持が厚いらしい…。
「うーん…。でも、僕が思うにハイルを捕まえても貴族狩りは収まらないと思うよ?」
「どうして?」
ショルは首を傾げる。
「僕が聞いた話だと。その貴族狩りの黒幕はそのオーグルって人だからだよ。なんでも、貴族を攫っては生き血を抜いて飲んでるらしいんだよ」
その台詞に一同は、カチーンと固まった。
アゼパスと同じような反応だ。
「ば、馬鹿なことを言わないでよ!あのオーグル様がそんな悍ましいことをするわけないわ!」
ショルが顔を真っ青にして言う。
「僕も直接見たわけじゃないんだけど、そのハイルって人が言うにはそうらしいんだ。昨日ショルは興奮してたから覚えてるかわからないけど、そのハイル自身も貴族なんだよ。それで自分の家族がいなくなったからオーグルの屋敷に忍び込んで探してみたんだって。そしたら、そこで貴族の生血を抜いて飲んでるオーグルを見ちゃったらしいんだ」
「そんなわけないわ!それはハイルが作り上げたただのホラ話よ!」
ショルのパンはすでにパン粉になってしまっている。
もはや鳥のエサにしかならなさそうだ。
「…まあ、そう興奮するな。今の段階じゃどっちが真実かなんてわからない。それより早く食べろ。今日は1日で買い出しを終わらせなくっちゃならないんだからな」
クラッチが仲裁に入り、この話はいったんお開きになった。
ショルはまだ何か言いたそうな顔をしていた。
「さて、今回の買い出しは皆手早くすませるよ。本当ならいつも通り各個人で自由にしてもらうんだが、この村では何が起こるかわからないから、2チームに別れて行動する。ショル・クロロ君・俺のチームと、ハティ・テリーヌ・クラッチチームだ。この村に入る時にすでにショルの貴族色が見られているからな。ショルは腕の立つクロロ君と一緒に行動する方が安全だからな。…別にクラッチが弱いと言ってるわけじゃないぞ!クロロ君が強すぎるだけだ!」
「おい、全然フォローになってねぇぞ。まあ事実だから仕方がないが…」
クラッチは諦めたように言う。
そうこうしながら、一行は2チームに分かれて買い出しを開始する。
夕方にはまた宿屋の食堂で落ち合う手はずだ。
リュックとショルは慣れた感じで旅に必要な物や、見たことのない商品のチェックなどをしながらどんどん用事を終えていく。
思ったよりも店が密集していたので、予定していた時刻よりだいぶ早く用事が済んでしまった。
途中で果物屋の陰から怪しい人影が飛び出してきたが、クロロが見事にその人物の腕を掴み、その場でクルリと回転して、元来た場所にポイッと戻したり、肩をぶつけに来た人の足をクロロが踏みつけたり、屋根の上から奇襲を仕掛けた人をクロロが横抱きでキャッチ&リリースしたりしたが、まあ大した問題はなかった。
「さ…さて…あらかた必要な買い出しも終わったし、ちょっと早いが宿屋にモドルカ…」
「そ…そうね。ソウシマショウ」
リュックとショルはちょっと片言になりながら帰路につこうとした。
彼らの後ろにはこちらに敵対行為を働いた村人たちが死屍累々と転がっている。
何も知らないであろう村人たちが、彼らを心配している。
「おやおや、果物屋の倅じゃないか。こんなところでおねんねかい?もういい年なんだから、ちゃんとお布団にはいりなさいな」
「こら!あんたはもー!いくつになったと思ってるの!あんたの肩は誰のためにあるの?そう、それは小鳥のピヨリンを乗せるためよ!さぁ、とっとと起きて!ピヨリンが家で待ってるんだから」
「まったく…お前はいい年して、あのピヨリンのように空を飛べると思ったのか?…なさけない」
…どうやら襲い掛かってきた者たちは皆この村の人たちらしい。
ご近所さんや身内からかなり酷い言葉を投げつけられている。
自業自得だが。
じゃっかんピヨリンとやらが気になる。
「うぅ…だってよおばちゃん…。あの女を捕まえたら村長が娘とお付き合いさせてくれるって言うから…」
「…ぐぅぅ…、ちょ…ちょっと待て…。なんだそれ…俺も村長から同じこと言われたぞ…」
「そんなぁ…。あの子とお付き合いできるのは君だけだ!さぁ、羽ばたけって言われたのに…騙された…」
襲撃してきたのは皆若い男性であったが、どうやら不純な動機があるようだ。
「あんたたちはアホなのかい?あの村長の娘はとっくに王都に嫁に行ったよ。それをまるでまだこの村にいるかのように振る舞ってるだけだよ。聡い村人は皆わかってるってのに。だいたい、村長の娘の姿はここ最近見たことなかっただろう?あれだけの器量良しだ。王都でもさぞかしモテたんだろうね」
おばちゃんの台詞にガーンとショックを受ける若者たち。
確かに思い起こせば素敵なあの子をここしばらく見かけていない。
「誰の入れ知恵か知らないけど、村長もあくどい事を考えたもんだよ。娘は身体を壊してなかなか外に出れないなんて言い訳してさ。私はたまにあいつの家で家事手伝いとかするんだけどさ、娘がいる気配なんてどこにもないんだから。いくら身体を壊してるって言っても食事くらいするだろ?なのに食糧の減りが明らからに一人ぶんなんだ。そこにある日王都から村長宛の手紙が送られてきたのさ。差出人の名前を見たら、あいつの娘なんだよ!しかも大層なファミリーネームまでついてたからね。それですべてわかったよ」
おばちゃんは、少々大きな声で周りに聞こえるように話す。
おそらく今集まっている人皆に聞いてほしかったようだ。
何も知らなかった村人からは「マジかよ」「怪しいと思ってたんだ」「畜生…騙された」などなど様々な言葉が飛び交う。プチパニック状態だ。
「そうだよ!皆聞いとくれ!わかってると思うがもうすぐ村長の任期が終わる。そこからはまた皆の投票で新しい村長を選ぶ。そこで頼みがある。あの村長のことだから再び立候補するだろう。だけど、あいつにだけは清き一票を入れちゃダメだよ!なにやら悪いことに手を貸してるようだしね」
おばちゃんは襲撃をしてクロロに返り討ちになった若者たちに視線をよこす。
「あいつが村長になって村は潤った。だけど、おかしいじゃないか。なんでこんなにいきなり発展したんだい?そのお金は何をして手に入れたんだい?私は嫌な感じがしてたまらない。もしかして、私たちが知らない間に今回みたいに旅人を攫って、人身売買みたいなことをやってるんじゃないのかい?私はそんなお金を使ってまで、村を発展させようとは思わないよ!」
おばちゃんは興奮気味に語る。
周りからは「そーだ!そーだ!」とか「騙されてた」とか「うぇぇん…あの子がもう貰われたなんてうそだぁぁ…」とか聞こえてくる。ちなみに最後のが一番悲痛そうだ。カワイソウニ。
おばちゃんはしばらく周りの意見や質問に答えていたが、それがひと段落すると、クロロたちの方に歩み寄ってきた。
「うちの村のもんが迷惑かけてすまなかったね?その詫びと言ってはなんだが、私の職場がこの近くにあるんだ。よかったら寄って行ってくれよ。村の名物でもご馳走するからさ」
リュックは即答を避けた。まだ、このおばちゃんが完全に良い人だとは信じ切れなかったからだ。もしかしたらこれも一芝居売ってるのかもしれない…。ここは断った方がよ…
「この村の名物!?食べたい、食べたいよ!やったー!」
リュックの思いなど知らずクロロは元気よく右手を挙げてついて行くことを了承してしまった。
「クロロ君ちょっとま…」
「あら。私もその名物とやらに興味があるわ。ありがたくごちそうになります」
やはりリュックの思いなど知らず、ショルはウキウキとおばちゃんに頭を下げている。
「よしきた!それじゃあついておいで。なぁに、場所はすぐそこに見えてるよ」
おばちゃんは前方に見えている建物を指差す。
「ほら、あれがナカー村の神殿だよ。私はそこの神官をやっているクリアだよ。よろしくね」




