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007.バレてた

 その後しばらく雑談をしていたが、日が落ちてきた。そろそろ寝支度をする頃合いだ。

 ハイルは寝る前にみんなで水浴びをしたいと言い出した。

「えっ!」

「うぇっ!」

 なぜか固まるクロロとギル。

「どうしたんだ2人とも?せっかく近くに水場もあるし、追手の心配が少ない今がチャンスだぞ」

「い、いやそれはそうなんですけど…」

「そそそ、そうだよな!でも、3人で一緒に行かなくてもいいんじゃないかっ?」

「何を言っている。万が一のことも考えて3人で一緒に行動した方が安全じゃないか」

「そ…それもそうなんだが…」

すると、クロロがピンと手を伸ばして無駄に挙手をしだした。

「ハイ、ハイハイ!じゃあ、最初は2人が水浴びをして下さい!僕がその間周囲を見張っておきます!その後僕が入るので、見張りをお願いします」

「そうだな!そうしよう、そうしよう!」

 あれだけ喧嘩ばかりしていたのに、やけに気の合う2人。

 ハイルは多少の違和感を感じならがらも、その案を採用することにした。

「じゃあ、そうするか。準備をしてくる。ギルの分もついでに持って来るからちょっと待っててくれ」

「いいのか。悪いなハイル」


 ハイルが部屋から出て行って、気まずい沈黙が2人の間に流れた。

 先に口を開いたのはクロロだった。

「ギル。さっきのはなんだったんだよ」

「何ってなにがだよ」

「とぼけるなよ。なんで3人で水浴びに行くのに最初反対したんだよ」

「いや、何故って…お前こそなんでだよ」

「し、質問に質問で返すなよ!僕はちょっとあれだよ…そう、歳の近い人と一緒に水浴びとかしたことがなかったから動揺しただけだもん!」

 そう言うクロロの目は思いっきり左右に泳いでいた。

「……」

 ギルは呆れた目をした。

「なんだよその目!」

「お前…嘘がヘタだな…」

 それからギルは大きなため息をついて、頭を掻いた。

「はぁ~…しょうがねぇな。短い付き合いになるだろうから、あんまりお互いの事情に首を突っ込むのもどうかと思うんだが…。俺もお前に対してだいぶ失礼なことしちゃったしな…。これは責任取らなきゃいけないかもしれねぇし…」

「どうしたんだよギル。歯切れ悪いなぁ」

 ギルは真剣な顔をしてクロロに向き合った。

「お前、女だろ」

 疑問形ではなく確信的な口調でそう言われ、彼女はピキッと音が鳴りそうな具合に固まった。


「い、いいいつから気づいてたのぉ~!」

 クロロは両手で頭を抱えて呻いた。

「最初にお前を後ろから羽交い絞めにした時からだ。いやに身体が軽くて柔らかかったからそこで女だと確信してた。でも、話し始めたら男で通そうとしてたから、こいつは俺達を騙そうとしてると思って、余計に警戒してたんだよ」

 クロロは抱えた頭を地面に付ける勢いでどんどん項垂れていく。

「うわぁ…なんてこった。次からはあんまり身体を触られないようにしよう…」

「変な言い方すんじゃねぇよ!」

 ギルは慌てて言ったが、クロロは聞いちゃいなかった。

「旅に出て初遭遇の人にいきなりバレてるよ僕。もっとしっかりしなくっちゃぁ~!」

「せっかくだ。訳も聞かせろよ」

「訳?特に深い訳はないんだよ。これも村の掟で、女の子の一人旅は余計なトラブルに巻き込まれやすいから、女の子が旅立つときは必ず男装するんだよ。ちなみに旅立ちの前日までは髪を伸ばしておいて、その日が来たら父親が娘の髪を切るっていう習慣もあるんだ」

 クロロは短くなった自分の髪をいじりながら答えた。

 余談ではあるが、彼女の父親は旅立つ娘の髪を切るのにぶっつけ本番は恐ろしかったので、村人の協力してもらって必死で練習をしていた。その甲斐あって彼の髪切りの技術はすでにプロ並みである。


「そうだったのか。なんか込み入った事情があるかと思ったが、それも村の掟とやらだったのか」

「うん。僕はまだほんのっちょと色んなところとが小さいし、性格もこんな感じだから結構バレない自身があったんだけど…ぬかった。まさかギルに見抜かれるなんて。ハイルさんならともかく」

 ギルはクロロの「ほんのちょっと」というところに疑問を抱きながらも言い返した。

「おい、なんでハイルはよくて俺はダメなんだよ。てか、俺とハイルで態度違いすぎるだろお前」

「え~…。だってギルは乱暴だし粗雑なんだもん。ハイルさんはなんかクールなキレ者って感じ」

「誰が乱暴で粗雑だ!俺はこう見えても責任感があって繊細な男なんだぞ。…だからお前のことも責任取んなきゃいけねぇかと思ってるんだよ」

「責任?何の?」

 クロロの純粋な疑問にギルは真っ赤になって目を逸らした。

 その態度にますます意味がわからなくなるクロロ。

「その…。最初に身体を触っちまったり、さっきも感動のあまり抱きついちまったり…これは…その…嫁にもらわないといけないんじゃないかと…。その、今すぐは無理だが今回のゴタゴタが全部済んで俺達の野望が成就してからになっちまうが、お前が責任取れというのならだな…」

 ギルが必死に言い募っている間、クロロはポカンと口を開けて目を真ん丸にしていた。

「せ、せせ責任ってそういうこと!?」

 クロロはビックリしていた。

 まさか、そんなことくらいでお嫁に貰われる話になるなんて思ってもみなかったのだ。

「何驚いてんだよ。普通ちょっとした接触ならまだしも、あんだけ露骨にさ…触っちまったら考えちまうだろ」

「えっ。そういうものなの?もしかしてこの世の中って僕が思ってたより厳しいのかな…」

 

 クロロが考え込もうとしたとき、ハイルが戻ってきた。手には古い服が何枚か握られている。

 「家の中を漁ったら、まだ着られそうな服が何枚か残っていた。虫食いだらけかと思ったが、質の良い箪笥に入っていて無事だったようだ。せっかくの水浴びだ。服も一緒に洗って、乾くまではこれを使おう」

 服を見つけられてハイルは機嫌が良さそうだ。

 ちょうど良いのでクロロはギルが言っていたことについて聞いてみることにした。

「ねぇハイルさん。ギルから聞いたんだけどもし男の人が女の人をに触ったり、抱きしめたりしたらその人をお嫁さんにしないといけないんですか?」

 クロロは不安そうにハイルを見上げる。

 彼はちょっと驚いた顔をした。

 そして「はぁ~」っとため息をつく。

「お前たちは俺のいない間どんな会話をしていたんだ…。クロロ、こいつに恋愛相談は絶対にするな。こいつはものすごくお堅い騎士家系の人間なんだ」

「お堅い騎士家系?」

「そうだ。こいつの一家は女性関係に関して凄まじく固い考えをしている。手をつないだらお付き合いの合図、抱きしめたら嫁に欲しい、キスでもしようもんなら生涯を約束したも同然だな。一般市民はここまで堅く考えてはいない」

 その言葉にクロロはホッと胸をなでおろす。

「あぁ…そうだったんですか。よかった。ちょっと抱きしめただけでいきなりお嫁さんは厳しいなぁと思ってたんですよ。それじゃあ泣いてる女の子を抱きしめるのもダメになっちゃいますもん」

「まあ、そうだろうな。大丈夫だ。君の感覚が正常だ。ギルが異常だ」

 それを聞いたギルはハイルに言い返す。

「オイッ!聞き捨てならねぇぞ。俺は確かに考え方がちょっと堅いと思うが、お前は緩すぎだ!もっと女性に対して真面目に生きろ!クロロ、こいつはこいつで恋愛関係はダメダメだからな!こいつは全く興味のない女性に対しても思わせぶりな態度を取って、彼女たちを翻弄して楽しむっていう最低な男なんだ。絶対に言うことを真に受けるんじゃねぇぞ。こいつの外見に騙されて泣かされた可哀想な女性は山のようにいる」

「まぁ、山のようにはさすがにいないがな…。女性は感情が素直に外に出ているときが一番美しいんだ。それなのに、みんな俺の気を引こうと取り繕ってばっかりで本当の姿をなかなか見せてくれないものだから、ちょっとばかり悪戯をしてみてるんだ」

 クロロはなるほどと頷いた。

 2人はまだ何か言っているが、つまるとこギルはガッチガチのお堅い感じでハイルは真逆のユッルユルの女性関係らしい。性格からして逆だと思っていた。正直女だとばれたのがギルでよかった。


「さぁ、無駄話はこの辺にして水浴びに行こう。この辺の水は澄んでいて気持ちよさそうだ」

 ハイルがキリのいいところで会話を打ち切り、外へ歩いて行く。

 2人もそれについて行った。

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