065.旅は道連れ
ガイダンからの意外な依頼に目を丸くするクロロ。
「悪い話じゃねぇぜ。護衛対象は5人。全員がそれぞれに馬車を持ってる連中だ。護衛のついでにそれに乗せてもらえばナカー村まで1ヶ月弱かかるところを8日くらいで行けるゼ」
ニヤリと笑うガイダン。
「え?そんな都合のいい話が転がってるものなの!?」
「馬鹿言え。こんな渡りに船みたな話は滅多にねぇよ。それにただの商人たちなら俺もクロロ殿に紹介はしねぇ。そいつらはこの『置時計亭』の常連でな。ちょうどクロロ殿が出かけてる間にここに到着したばかりだ。どうやら王都から来たらしい」
王都と聞いてクロロはドキリとした。
ハイルといいゼリアのことと言い、王都にはロクなイメージがない。
村にいたころは、王都ってどんなところだろうと夢を膨らませていたのだが、今ではこの国でクロロの近づきたくないランキング堂々の第一位だ。
オーグル、マジでやだ。
「で、どうする?やるか?やらないか?…俺としては最高にオススメの仕事なんだがな。最近は乗合馬車もほとんど動いてない状況だ。ここからナカー村までは、結構距離があるにも関わらず、途中ほとんど人の住んでいる集落もない。頼りになるのは街道の宿屋ぐらいだが、これもそう頻繁にあるもんじゃない。ヘタをすれば、街道で行き倒れってこともありえる。悪いことは言わねぇ。この護衛の仕事受けておけ」
ガイダンの言っていることも一理ある。
クロロが本気で走れば、8日よりももっと早くナカー村へ到着できるだろうが、急ぎの旅でもないしできれば道中色んな人と会って、様々な体験がしたい。
少し考えて、クロロは結論を出した。
「はい。その依頼受けます」
その返事を聞いた途端、ガイダンが破顔した。
「さっすがクロロ殿だ!いやぁ、頼んだかいがあるってもんだ。あんたなら護衛としての腕は保障できるし、『置時計亭』の客だから信用もできる!紹介した俺の面子も立つってもんだぜ!よっし、そうと決まればすぐに顔合わせだ。ちょっと待っててくれ。すぐに連れてくるからよ!」
ガイダンはあれよあれよという間にいなくなってしまった。
…え?何?もしかして、ガイダンさん…僕のためというより自分の面子のためにこの依頼僕にオススメしたの?…いや、別にいいけど…。
なんかちょっと騙された気分のクロロだった。
少々釈然としない気分クロロだったが、別に悪い話でもないので、素直に食堂の椅子に座ったまま、足をプランプランさせていた。実はこの椅子、クロロの身長では足が床に付かないのだ…。
しばらくすると、ガヤガヤという声と共に複数の男女が室内に入ってきた。
ちょうどガイダンを含めて6人なので、さっき言ってた商人たちなのだろう。
彼らは期待を込めた目で食堂内を見渡した。
だが一通り室内を見た後、怪訝そうな表情でガイダンの方を向く。
リーダーらしき人物が、彼らを代表して口を開いた。
「ガイダン、俺達に紹介してくれる護衛は何処だ?それらしき人物がどこにもいないじゃないか」
クロロは見事に彼らの眼中に入らなかったようだ。
「いやいや、ちゃんといるじゃないか」
その言葉に、再度彼らは室内を見渡す。
「…っく。まさかこれほどの腕前の持ち主とは…全く見つけることができない。…ガイダン、まったくお前はどれだけ優れた護衛を紹介しようとしているんだ。これほど見事に気配を消せる人物に払える報酬額をこちらが用意できるとは限らんぞ」
「リュックの言うとおりだわ。…悔しいけど、この私が全く気配を感じ取れないなんて…。世の中、上には上がいるものね…。まさか、こんな場所でこれだけの実力者に出会えるなんて。ぜひ、一度お手合わせいただきたいわ」
「本当、本当。こんな人物に出会えるなんて、私たちどんだけ運がいいんだって話だよ!」
やばい。なんかどえらい期待をされている…。
「僕です」と言いにくい雰囲気になってきた。
どうしよう。
クロロは困った顔でガイダンを見つめる。
ガイダンはばつが悪そうな表情をしている。
そこに、助け舟が入った。
「リュックもショルもハティもちょっとは考えろ」
「あなたたち奇跡的なくらい天然さんよね…」
その場にいた残り2人が呆れたように言う。
「だいたい、ショルが気配を察知できない人間なんてそうそういねぇだろ。そんな人物が偶然宿屋にいるか確率なんて、それこそ皆無に等しい」
「ということは必然的に結論が出るでしょ。…にわかには信じられないけど、ガイダンが紹介する護衛っていうのはそこに座ってる坊ちゃんなんじゃないの?」
姉御肌っぽい女性がクロロを指差して言う。
「いやいや、さすがにそれはないだろう。ガイダンに頼んだのはなるべく腕の立つ護衛だぞ。こんな坊やじゃ、こっちが守ってあげなきゃいけない感じになるじゃないか」
リュックと呼ばれた人物はそう言いながら、おもむろにクロロの方へ近づいてきた。
そして、少し屈んで座っているクロロに目線を合わせた。
「坊やはどこから来たんだい?この東側の地区にひとりでいたら危ないよ。俺が両親のところまで送っていってあげるよ」
なんということだ。
護衛対象に護衛されそうだ。
ここは毅然とした態度でゆかなくては!
クロロは椅子から降りて、彼らに向かって胸を張って言った。
「僕は名もない山奥の村からやって来ました。名前はクロロです。旅人をしています。今回はガイダンさんからの紹介で、皆さんをナカー村まで送る護衛の依頼を受けました!」
ババーンと腕を前に伸ばして、人差し指を立てつつ、堂々たる宣言をした。
護衛を依頼した商人たち5人はポカンとしている。
リュックがガイダンの方を見ながら恐る恐る口を開く。
「ほ…、本当かガイダン…。まさか、本気でこんな子供に俺達の護衛をさせるつもりか…?」
「そうだが?」
あっさり肯定した彼にショックを受けるリュック。
それを見て、ショルと呼ばれていた女性が慌ててフォローを入れる。
「ちょ…ちょっと待って。リュック大丈夫よ!きっとこの坊やはおまけよ!きっとこの坊やの保護者が本命の護衛よ!今はちょっとした事情で席をはずしているだけに違いないわ!」
「…あ、ああ。そういうことか!まったく驚かせやがって…」
「いや、彼1人だ」
ガイダンの台詞に再び固まる商人たち。
「大丈夫だ。こう見えてこの子の戦闘力はすさまじいぞ。俺がこの目で見たから断言できる。だいたいあんたらの方から護衛はなるべく腕の立つ人物を少人数でと言ってきたんだろ。この子はその点クリアをしてるし、これから先向かう方向もエルベス王国らしいから、ナカー村までの護衛としてはちょうどいいと思ってな。まったく、こんなに需要と供給の合う奴らが遭遇するなんてな。これぞ神の采配ってやつだ」
ガハハと笑うガイダン。
「…ガイダン。お前のことは信用している。今までだって色々助けてもらった。だが、この子が護衛として本当に役に立つのか俄かには信じられない。…すまないが、ちょっと彼を試させてくれないか?」
リュックは真剣な表情でクロロを見つめる。
ガイダンはぽりぽりと頬を掻きながら、小さな声で「やっぱこうなったか…」と呟いている。
ちょっと待て、こうなることがわかっていたのか。
僕は全然なんの準備もしてないぞ。
手ぶらもいいところだ。
「ええっと…僕は何をしたらいいんでしょう?」
クロロは困惑しながら尋ねる。
「簡単な話だ。そこにいるクラッチと少々手合せをしてほしい」
リュックが指差したのは、先ほど冷静なコメントをしていた男性だ。
「あいつは商人にしては珍しく戦闘ができる。本当なら彼がいるから護衛は雇わなくていいと思っていたんだが、最近ここからナカー村へ行く途中に賊が出ると言う噂を聞いてね。念のためにもう1人、戦闘に特化した人物を護衛に雇いたいと思って、今回の依頼をしたんだ。だから、最低限あいつと同等かそれ以上の実力はほしいんだ。もし坊やがそれ以下だった場合…残念だがこの話はなかったことにしてくれ」
リュックは厳しめな表情を作って、クロロに言う。
「そういうことだ、坊や。ガイダンが勧めるからどんな人物かと思いきや、こんな小さな坊やだったなんて予想もしてなかったぜ。だが、あいつのことだ。下手な紹介はしないはずだ。だから、俺の予想ではお前さんは見た目に寄らない実力を持っているとみている。だから最初から少々本気でいかせてもらうぜ。来な」
クラッチとやらは、やる気満々で宿屋の裏口を親指で指差した。
クロロは彼らの言い分に納得し、素直に彼の後ろについて行く。
だが、よく見れば右手と右足が一緒に出ているではないか。
実はクロロはこういった手合せは初めてなのだ。
村にいた頃は、なんちゃってだったし、顔見知りばかりだったので気軽にじゃれつく延長線だった。
どうしよう。本格的な手合せってどうやるんだろう…。
最初お辞儀とかした方がいいのかな…?
他人が聞いたら、結構どうでもいいことを気にしながら、先日のパリシア争奪戦以来の裏庭に出たクロロだった。




