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062.兄妹

 ゼリアは驚いてパリシアをガン見した。

 俺の可愛い可愛いパリシアは天使のような性格をしていて、こんな物言いをする子じゃなかったはずなのに…。

 兄が自分を見る目が驚きに満ちていることに気付いたパリシアは、罰の悪そうな顔をした。

「あ…。ごめんなさいお兄さま。こんな言い方するつもりじゃなかったの…。その…見たところこのクロロさんという方は旅人さんみたいだし、私たちに付き合ってクリリ街へ戻ったら、時間のロスになるんじゃないかと思って…」

 しゅんとしながら言うパリシアにゼリアはほっとした。

「そうかそうか。パリシアはクロロに気を使って言ってくれたんだな。お兄ちゃん気づいてやれなくてごめんよ」

「どんでもないことですわ!お兄さまがお謝りになる必要なんてありませんわ」

 2人は見つめ合いながら、2人の世界を作っている。

 当事者のクロロはそろそろ自分もしゃべっていいかなぁと思いながら発言する。

「ん~…。実は僕もパリシアちゃんの言うとおりだと思ってたとこなんだ。僕が頼まれていたのは、ゼリア君が無茶をしないように見張ってることだけだったし、パリシアちゃんを救出した今はその心配もなくなったし…。僕はここからまた旅を再開しようかなぁと思ってたとこなんだ」

 その台詞が意外だったのか、パリシアが初めて険のない瞳でクロロを見た。

「え…。もしかして、クロロ…。お前ここで俺と別れるつもりか…?」

 ゼリアが唖然とした表情で言う。

「うん。本当は僕、エルベス王国へ行く途中だったんだ。もともと使おうと思ってたルートからは外れちゃったけど、ここからでも行けるらしいからね」

 ニカッと笑うクロロ。

 それとは対照的に元気のなくなるゼリア。思いの外クロロと離れるのが嫌なようだ。

 あれだけひどい初対面だったのに、人生わからないものだ。

「そっか…。本当はここまで協力してくれた礼もしたかったんだがな…」

「いいよ、お礼なんて。パリシアちゃんが無事だったんだから」

「…クロロさん本当にいいの?ここでお兄さまとお別れしてしまって」

 パリシアは恐る恐るという様子でクロロに尋ねる。

「うん、僕も本当は寂しいし、もうちょっと一緒に旅できたらなぁと思うんだけど、ゼリア君たちは街に帰ってやるべきことがあるから、そういう訳にもいかないでしょ?だから、ここでお別れかなと思うんだ。…でも、本当にお別れするのは明日になると思うけどね。ほら、外を見てごらんよ。なんだかんだでもう、お昼をだいぶすぎちゃってる。この時間から旅の準備をして街を出たら夕方になっちゃうよ。今日はこの宿に泊めてもらって、明日の早朝に出発することになるはずだよ。っということで、ガイダンさん。今日は『置時計亭』に宿泊させて下さい。連れのゼリア君とパリシアちゃんは会員じゃないけど泊まることはできますか?」

 クロロがガイダンに頭を下げる。

「原則会員様以外お断りなんだが、身分がしっかりしてる人なら、連れとして扱えるぜ。クリリ街の領主アゼパス殿の子供たちなら問題ない。ごゆっくり。…ちなみに、連れの2人は1泊として、クロロ殿は何泊の予定だ?」

「うーん…。せっかくこの街に来たし、色々探検したいんで僕は3日くらいでお願いします」

「はいよ。合計銀貨4枚だな」

 クロロは銀貨4枚をガイダンに手渡す。

「確かに。それじゃあこれがカギだ。連れは2人部屋でクロロ殿は1人部屋を用意させてもらう。荷物を置いてちょっと休んできな。ちっと遅くなっちまったが昼飯を作ってやるからよ。…おい、てめぇらいつまでくっちゃべってんだ!用が済んだならとっとと帰りやがれ!ついでに、その人さらい共も街の警備隊に叩きつけてやんな」

「えー。人使いあらいわねぇ。…まぁいいわ。それじゃあ、コイツら連れて行くわねぇ~。あ、そうそう。坊やたち、明日は朝日が昇る頃この宿の前にいてね。旅の準備はこっちでやっておくからぁ~。さぁ、みんなそろそろ行くわよぉ」

「「「「「「はーい」」」」」」

 男たちはなぜか一糸乱れぬ歩き方で列を作り、先頭に続いていく。まるで軍隊のようだ。なんなんだこの光景は。

 男たちの異様な行進を見学後、クロロたちは与えられた部屋へ荷物を置きに行く。


 ガイダンが用意してくれた部屋は、宿屋の隠し通路の先にあった。

 どうやら建物自体が『シロアリ』の客とは別のようだ。

 ゼリアとパリシアの部屋とクロロの部屋はお向かい同士だった。

 ゼリアとパリシア、クロロは一度別れて、それぞれの部屋に入って行った。


 ゼリアはクロロと別れ、部屋に入ると開口一番にほっとしたように呟いた。

「やっと、クロロと毎回同じ部屋、同じテントで寝てたのからおさらばできた…」

 兄の呟きが聞こえたパリシアはバッと彼の方に向き、

「ど、どういうことですのお兄さま。ままま、まさかここに来る間、クロロさんと同じ部屋や同じテントで寝起きしておりましたの!?」

 ゼリアはしまったと思った。どうやら無意識に心の声が外に漏れていたらしい。

「い、いや…その…」

 たじたじしていても、パリシアの追及は止まらない。

「なんということですか!お兄さまは次期領主という大切なお体ですのよ。それをあのように得体のしれない旅人と、し、しし寝室を共にするなどと!」

「いやいやいや。クロロは得体が知れなくは…いや、たしかに得体が知れないが別に悪い奴じゃないぞ。それに本当にただ一緒に寝ていただけなんだ。ほ、ほら特に野宿は身体が冷えるから、なるべく寄り添ってだな…」

「んまぁ!寄り添ってだなんて!な、なんてはしたない!」

 パリシアは顔を真っ赤にしながらプリプリと怒っている。

 普段あまり怒らないパリシアなのに、先ほどからなんだか様子がおかしい。

「パリシア、さっきからどうしたんだ?いつも優しくて思いやりのあるお前が、さっきかららしくないもの言いをして…。はっ!もしかして、人さらいに連れられて何日も馬車に入れられていたから、精神が不安定になっているのか!?お兄ちゃん気づいてあげられなくてごめん!」

「違いますわ!そうではありません!いえ、それも多少はあるでしょうけども、原因は人さらいたちよりもあのクロロさんという方にあるのですわ!」

 目を吊り上げながら怒りを露わにしているパリシアに戸惑うゼリア。

 こんなに感情を爆発させてるパリシアを見るのは初めてだった。

「だって…だって…あの人…」

「わー。ゼリア君たちの部屋ってこうなってるんだー。見せて見せてー!」

 絶妙なタイミングで、ガチャっとドアを開けてクロロが部屋に入ってきた。

「女の方ではありませんかーーー!」


「え?」

「ええっ?」


 しばし部屋の空気が固まった。

 特にクロロは自身も固まった。

 あれ?もしかして、今僕の話してた?

「パリシア…お前気づいてたのか!?」

「あたりまえです!お兄さまにとって危険そうな人物は直感でわかります。最初、助けていただいたときから気づいておりました。女性はお兄様にとって誰でも危険人物ですわ!」

「な…なんだってー!」

 クロロは思わず叫んだ。

 兄のゼリアと思考回路が全く同じだ!

 さっきから邪険にされていたのはこういうことだったのか!

 兄愛怖っ!

 どんだけ相思相愛だこの2人。…将来大丈夫だろうか。

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