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060.人さらいたちの裏事情

 クロロの台詞に反応した男が彼女の方を見る。

「あらん?私たちのお店のこと知ってるのん?私たちも有名になったものだわぁ~」

「あ、そのごめんなさい。あなた達のお店のことは知らないんだけど、クリリ街で似たような名前の店を知ってたので…」

 クロロがそう言うと、辺りにいた男たちがバッとこちらを向いてきた。

 あまりに息ピッタリな動きに、ちょっとびっくりした。

「きゃー!やだやだやだーん!もしかして、マジョリカさんのお店に行ったことあるのー!」

「うっそーん!ということは、坊やマジョリカさんの知り合いなのー!?」

「あそこは、あの人に直接場所を教えてもらわないと絶対たどり着けないところだもの!」

「あぁ…。憧れのマジョリカさん…」

「あんなカリスマどこにもいないわよ…」

 皆夢見る乙女のようにぽうっと頬を染めて明後日の方向を見ている。マジョリカさんは結構その筋の人には人気があるようだ。

「ますますあなたたちに味方してよかったわ。マジョリカさんが信用できない相手をお店に招待するわけないものね」

 うんうん頷きながら自分たちの功績をたたえている。

 その様子を見たガイダンは顔を下に向けて「くっくっく…」と笑っている。その状況では表情が見えないが、なんだかとても楽しそうだ。

「やけに顔が広いじゃねぇか。まさかマジョリカ殿とも知り合いとはな」

「…とも?」

「俺がお前たちの味方をした理由がいくつかあるって言っただろう。あのガキの味方をしたのはあの店員集団どもだ。俺は個人的にはお前さんの味方をしたまでだぜ。クロロ殿」

 名前を呼ばれてクロロは目を見開いた。

「どうして名前を知ってるの?」

「俺はさっきの騒動を実は全部見てたのさ。さすがに俺の宿の敷地内で死人が出るとあっちゃ嫌なんでね。もしもの時は、宿屋の外で乱闘をしてもらおうとずっと陰から見てたんだ。そしたらあのガキがお前のことをそう呼んだんだよ。その瞬間俺はお前の味方になった」

「え?どうして?」

「ふふふ…。この宿には名前が2つある。『シロアリ』は表の名。本当の名前は『置時計亭』だ。クリリ街の『柱時計亭』とは兄弟宿でね。クロロっていやぁ、ここ最近で久しぶりに正規会員になったお客様の名前だったからな。覚えてたんだよ。ってことでようこそ『置時計亭』へ。正規会員様用のメニューや宿泊場所もありますぜ」

 ガイダンは悪戯が成功したような表情でクロロの方を見ている。

 クロロは開いた口が塞がらない。

「俺は『シロアリ』の客とはドライな関係を貫くが、『置時計亭』のお客様には極力協力するんでね。今回は手を貸させてもらったってことだ」

「えぇっと…ありがとう!」

 クロロはじゃっかん混乱していたが助かったのは事実なので素直にお礼を言った。

「そっちの話が終わったなら、そろそろ本題に入ってもいいか?」

 ゼリアは待ちかねたように言い、人さらい3人組に近寄った。

「おい、お前たちなんでパリシアを攫った!それに、そのときに使った身分証があっただろう!あれはどうやって手に入れた!」

 だがしかし、人さらいたちは口を閉ざし目を背けたままだ。どうやらだんまりを決め込むらしい。

 ゼリアは無言で剣を抜いた。

 それを見て焦ったのは小太りの男だ。

「ひっ、ひぃー!お、俺は言う。言うから痛いのだけはやめてくれー」

「って、てめぇ汚ねぇぞ!お、俺も言うぜ」

「っちくしょう。てめぇらもっと粘れよ!」

 だんまりタイムはとてもあっけなく終わった。この3人の小物感が半端ない。本来ならばこんな奴らがパリシアに手を出せるわけがなかった。

 リーダー的立場であろう髭面の男はしぶしぶ話し出す。

「…俺達も別に最初から人身売買をしてたわけじゃねぇ。最初は…まぁその辺の店からちょくちょく商品をちょろまかして裏で売ってただけだったんだ。だけどあるとき、妙なやつに声をかけられた。全身ローブで身を包んでて顔も見えなかった。そいつは、秘密のルートを教えるから、できるだけ若い娘を攫ってきてほしいって言ってきた。報酬も今まで稼いできたもんの比じゃなかった。最初はそんな危ない橋は渡れないと断ったが、相手がまぁ言葉巧みでよ。話を聞いてるうちにやってやろうじゃないかって気になったんだ。作戦や逃げ道なんかは奴が全部準備してくれてよ…。何度も繰り返してるうちに俺達も慣れてきた。だが、今回はさすがに緊張したぜ。なんせ貴族の娘を盗めと言われたんだからな」

 そう言って彼はパリシアの方を見る。

 彼女はそれに怯えて、咄嗟に兄の後ろに隠れた。

「俺達もさすがにそれは無理だと一度は断った。だってそうだろ。クリリ街の領主の娘だぜ。だけど、あっちもなかなか準備周到で、偽の身分証まで準備してやがった。これを見せれば娘をおとなしく馬車に乗せることができるってよ」

 ゼリアは目を見開いた。

「そいつがどうやって偽の身分証を手に入れたのか聞いたか?」

「…いいや。俺も一度奴に聞いてみたが、答えちゃくれなかった。」

「そいつに会うにはどこに行けばいい?」

 髭面の男はパリシアを見るとニタリと笑った。

「あいつはいつも攫った娘の届け先にいる。今回は王都のとある裏市場だったから、そこに行けば会えるかもな。…お前の大切な妹を囮にすれば」

 それを聞いた途端パリシアは、怯えたように兄にしがみついた。

「パリシアを囮だと!そんなこと絶対にしねぇよ!」

 ゼリアはパリシアを強く抱きしめた。じゃっかんパリシアが痛そうにしている。

「けっけっけ。じゃあ無理だな。裏市場に行くにはそこで扱う商品を見せる必要がある。あそこは買い主が依頼した商品を間違いなく持ってきたという証明がいるからな。ただの若い娘ならいくらでも代えがきくだろうが、今回は貴族の娘だ。必ず貴族色を確認されるぞ」

 ざまあみろという顔で笑う髭面の男にギリギリと歯ぎしりをするゼリア。

 その様子を見かねたクロロが助け舟を出す。

「ねえねえゼリア君。せっかくパリシアちゃんも助かったんだし、今回はここで引き上げた方がいいんじゃない?お館の人たちもきっと君たちのこと心配してるよ。パリシアちゃんも早く家族に無事な姿を見せたいよね?」

 クロロはそう言ってパリシアに笑いかける。

 だが、彼女はなぜかクロロのことをキッと睨みつけた。

 え?何で?

 予想外の反応にクロロが戸惑っていると、パリシアはゼリアの腕をギュッと握り、プイッと顔を背けた。

 うそーん。クロロの精神に100のダメージ。

 ゼリアはそんな彼女たちの様子に気付かない。

「ちくしょう…。そのローブの男を捕まえて偽の身分証を手に入れた方法を知りたいが、パリシアをこれ以上危険な目に合わせるなんて絶対だめだ。…一度館に戻って、親父たちにも相談しなきゃダメか…」

 悔しそうな表情からそれが不本意であるとわかる。

 だが、クロロもそれが一番良い方法だと思った。

「それでいいんじゃないかな?今回はパリシアちゃんを無事に助けられたし、なんだかんだでいろんな情報も手に入ったし!それに、お館の人に黙って出てきてるんだから早く帰らないとダメだよ」

 その言葉にパリシアが反応した。

「お兄さま!?まさかお父様たちに何も言わずにここまでいらしたの!?」

 ゼリアはバツの悪そうな顔をして、妹から目をそらした。

「それはいけませんわ!私を助けに来て下さったのはとても嬉しいのですけれど、次期領主のお兄さまに何かあれば、それこそ大変な事態ですわよ!どうりで先ほどから護衛の方々が見当たらないと思っていたのですけれど、そういうことでしたのね…」

 話しながらも真っ青な顔になっていくパリシア。

「人さらいたちが話しておりました。ここはシータ街なのでしょ?それならばここからクリリ街に戻るのに、少なくとも3日はかかります。…私とお兄さまと…クロロさんでしたっけ?では心もとないですわ…」

 さすが領主館の執事長が頭の良い子と言っていただけあって、パリシアは冷静に現状を把握できているようだ。

「大丈夫だパリシア。俺は結構実力があるし、そこにいるクロロも…凄まじい力を持ってるようだし…。というか、お前本当に何者なんだ?あんな戦い方できるなんて…どこの国の王族だ?」

 ゼリアがずっと気になっていたであろうことを尋ねる。

 この場にいる人々は実は皆そのことが非常に気になっていた。ゼリアの質問に、集まった全員がしーんとなりクロロの答えを待っている。ちなみに人さらいたちも聞き耳を立ててしーんとしていた。気になるらしい。

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