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052.領主館パニック再び

 パリシアの捜索に奔走する彼に最悪の報告が上がったのは、その日の昼過ぎだった。

「う、嘘だろう。…嘘をつくな!もう一度言え!」

「嘘ではございません!パリシア様の行方を追っていたゼリア様までもが行方知れずになってしまったとのことです」

「一体どうしてそのようなことになった!ゼリアの護衛は何をしていたのだ!すぐにここに連れて来い!」

 アゼパスが怒鳴ると、報告してきた使用人がすぐさま件の護衛を呼びに行った。

 それを見送ったアゼパスが椅子に崩れ落ちるように座るのを見て、一緒にいた執事長は気遣うように声をかける。

「大丈夫でございますか、アゼパス様…」

「大丈夫なものか…。もう倒れてしまいたいくらいだ…」

 さすがに気丈な彼も、トラブル続きでぐったりしてしまった。

 仰向きで片腕を額に乗せて大きなため息をつている。

 少しして、部屋の扉をコンコンと控え目にノックする音が響いた。

「失礼します。ゼリア様の護衛長を務めるピッケルを連れて来ました」

 ピッケルと呼ばれた人物は部屋に入るなり、アゼパスに土下座をした。

「申し訳ありません!護衛の途中でゼリア様に撒かれてしまいました。後を追ったのですが、街を出ていかれたご様子で…。最後にゼリア様を見かけたのは北門にある貸し馬屋の店員でございます。話によると、彼は数日前怪しい馬車を見たとのこと。北の森で突如道なき道を東に向かって進んで行ったそうです。そのことを聞いたゼリア様はその森に向かったそうで…」

「ならば、貴様らも早くその森へ向かえ!」

 アゼパスは怒鳴り散らした。

「そ、それが我々もその話を聞いてすぐに現場へ向かいました。しかしながら、ゼリア様のお姿はもうどこにもなく…。馬車が東へ抜けれそうな道も捜索したのですが、ついに見つけることができず…」

「それで、すごすご帰ってきたというのか!」

「も、申し訳ございません…」

 でかい図体を縮こめて謝罪を繰り返すピッケルの様子にアゼパスは徐々に頭が冷えてきた。

 このピッケルという男は真面目で他人にも自分にも厳しい性格をしている。昔は商人たちの護衛を務めた経験もあり、単にこの街の警護団として訓練された者たちよりも優れた能力を持っている。

 その彼が見失ったということは、おそらく誰が向かっても結果は一緒だっただろう。

 悪いのはピッケルではなく、一人で行動を起こしてしまったゼリアだ。大人げなく八つ当たりをしてしまった。

「…すまない。言い過ぎた」

「いえ…私が至らぬばかりに…」

「だが、もしゼリアにまで何かあれば私もおそらく妻も正気ではいられまい…。一刻も早く2人を見つけなければ…」

 アゼパスは渋い顔をしながら今後の対策について考え始める。

 しかし、そこでピッケルがとんでもないことを言い出した。

「ゼリア様についてですが、実は我々より先に彼を追いかけてくれた人物がいるのです。先ほどの店員がゼリア様に例のお話しをされているときに偶然居合わせた者で、持ち物などからおそらく旅人だろうとのことです。店員が我々をゼリア様に追いつきやすくするよう、先だって旅人に足止めをお願いしたとのことで…」

「何故そのことを先に言わない!そ奴が旅人を装ってゼリアを攫った可能性もあるのだぞ!」

 アゼパスは真っ赤になりながら再び怒りを露わにする。

「すみません…。我々もその可能性を考え、店員に詳しく話を伺ったのですが、その旅人は本当に偶然居合わせただけのようです。見た目もかなり小柄で幼かったらしく、あれでは人に攫われることはあっても、攫うことは不可能だと断言しておられました。なによりその人物はゼリア様と顔見知りのご様子だったと…」

 ピッケルは言い終えて、アゼパスからの非難を覚悟した。言うタイミングがなかったからとはいえ、重要な部分の報告が後回しになってしまったことには変わりない…。

 だが先ほどまでとは違い、彼が話終えてもアゼパスは黙ったまま動かない。

 不審に思い顔を上げると、アゼパスは先ほどとは打って変わって真っ青になって放心していた。今にも意識を失いそうだ!

 こりゃいかんと慌てて執事長に目を向けると、彼までもが真っ青になっている。

 何故!?

 彼は最後の砦であるメイド長に目配せをした。

 すると、さすがはメイド長。彼女も青い顔をしていたが、他の2人に比べるとまだマシだ。

 彼女はアゼパスに近づき両肩を掴むと激しく揺さぶった。

「しっ・か・り・して下さいまし、アゼパス様!まだ彼だと決まった訳ではありません!」

「ぐっ…おえ…メイド長…。やめてくれ、この状態で揺さぶられるのは厳しい…!」

 普段の彼女ならそんなことはしないのだが、見た目以上に彼女も動揺しているらしい。

 気持ち悪くなりながらも、ショック療法により多少の冷静さを取り戻したアゼパスは、ピッケルに恐る恐る尋ねた。

「そ、その旅人の特徴はもっと詳しくわかるかね…?」

「え…?ええ。店員に詳しくしゃべらせましたので…。見た目は12~13才程度。小柄で可愛らしい顔をしていたそうです。大きなリュックを背負っていたためおそらく旅人だろうと。髪は赤茶色で瞳は茶色。ごくありふれた色合いです。ただ旅人にしてはかなり幼いですね。うまくゼリア様に追いつけたとしても、足止になったかどうか…。もしゼリア様が何者かに攫われたのだとすれば、その旅人の身にも何かあった可能性が高いかと」

 

 ガターンッ!!


 ピッケルが客観的な意見を述べていると、突然目の前のアゼパスが椅子ごと後ろにぶっ倒れた。

 ピッケルは驚いて少々固まっていたが、すぐに立ち上がりアゼパスの無事を確認しようとした。


 ビッターンッ!!


 と、思っていたら次は横から大きな音がした。

 慌てて目をやると、今度は執事長が直立不動の恰好のまま床に倒れているではないか!

 どうなっているのだと、あわあわしていると…


 パタリ…


 今度は先ほどアゼパスが座っていた椅子付近から控え目な音がした。

 一体なんなんだとそちらを見ると、今度はメイド長が壁に縋り付きながら倒れていた。


 そして、彼は後々知ることになる。

 ゼリアを追いかけて行った旅人が国王並の重要人物であったことに。

 その彼の身が危険に晒されている事実に。

 それを知った彼もまた、アゼパス達同様ぶっ倒れるのである。


 一方、クリリ街の一角ではまた別の波乱を感じさせる会話がなされていた。

「ええ…ええ…。こちらも原因は未だにわかりません。…ですが、まさかもうすでにそんな所まで行っているとは…!わかりました。我々もすぐにそちらに向かいます」

 彼は1人にも関わらず誰かと会話しているように話していた。

「どうりでこの街で見つからない訳ですね。まさか、この短時間でそこまで移動しているとは…」

 彼は近くに待機させていた部下たちのところに戻ると命令を下す。

「全員お聞きなさい!私の耳が戻ってきました。先ほどリーリ様との連絡が可能になりました。彼女も今は能力が戻ってきているそうです。標的はこのクリリ街より北上中。おそらく防衛都市リゼンに向かっていると思われます。我々も準備を整え次第、そちらに向かいます」

「かーっ!やっと動けるのか!」

「隊長よかったですね、耳が戻ってきて!」

「正直、ここ最近あまりに漠然とした調査ばっかで嫌気がさしてたんスよ」

「同感だぜ!だが、本来はこういった方法で相手を炙り出すしかねぇんだってことが良くわかったよ。隊長様様だぜ!」

「隊長とリーリ様ばんざーい!」

「喋っている暇があるのならば、さっさと準備をして下さい。ここからが正念場ですよ。奴らに何度煮え汁を飲まされたことか!今度こそ取り逃がしはしませんよ…」

 そう反国家組織捕縛部隊の隊長ルベスがついにハイルの居場所を特定したのである。

 彼は早急にこの街から移動することを領主館に報告しに行った。

 しかし、残念ながら領主は体調がすぐれないということで直接の面会はできなかった。ならば執事長に報告しようとしたが、執事長もまた体調がすぐれないとのことでこちらも空振り。何ともタイミングの悪いと彼は内心舌打ちした。

 仕方なく、最後の手段としてメイド長に報告をしようとすると、なんとメイド長までもが倒れているとのことだった。

 こうなると一体何があったのか気になったが、箝口令が敷かれているのか誰からも詳しい状況は聞くことができなかった。

 一刻も早く移動を開始したいルベスだったが、さすがに他国で勝手をしすぎる訳にはいかず、結局翌日まで待機を余儀なくされたのであった。


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