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004.ハイルのクロロ分析

 2人がギャーギャー言い合いながら、家から出ていくのを見送ったハイルは自分が笑っていることに気付いた。

 ここのところ張りつめっぱなしだった気がやっと緩んだようだった。

 クロロと名乗ったあの旅人に出会わなかったら、今もギルと2人でピリピリしていたに違いない。

 自分たちはもうここに逃げ込むのが限界だった。

 行く先には必ず敵が先回りしていた。

 自分たちの仲間の中に裏切り者がいることは明白だったが、個人の特定ができなかった。

 何度も殺されかけ、その度に密かに己の力を使って逃げ延びた。

 もう誰を信じたらいいのかもわからなくなり、最後は大親友で幼馴染のギルだけを連れて全力で逃げた。

 その結果、追手は自分たちに追いついては来なかった。

 ギルが自分を裏切っていないとわかり心底救われた。

 しかし、仲間たちをギリギリまで信じた代償はでかすぎた。

 心身ボロボロになりながらたどり着いたこの廃村が自分たちの墓場だと悟った。


 そんな時だ彼に出会ったのは。

 髪は赤茶色で瞳は茶色というありふれた色合いだが、存外綺麗な容姿をしていた。

 大きな目はクリクリとしており幼さが抜けていないが、鼻は少し高めだったし、口も少し大きかったように思う。

 小柄で幼い今の印象は、元気いっぱいのいたずら小僧のように見えるが、これが大人になったらさぞかし迫力美人になるに違いない。

 そこまで考えてハイルは、男の子に対して美人とは何事かと思い直した。

 まぁ、ただ知り合いにはそういった形容の似合う成人男性は何人かいるが…。みんな癖のある奴ばっかりだった。

 美人の男はどうしてこうあくが強いのか。

 …あいつらのうちの誰かが裏切り者なのだろうか…考えたくはない。みんな扱いに困るような奴らだが、そんな真似するような奴じゃない…。


 あの子も最初はかなり怪しい人物に見えた。

 追手にしては追いつくのが早すぎるのと、尾行の訓練をまるで受けていない行動だったのが彼を白だと確信させたが…。

 腑に落ちないこともある。彼は俺の瞳を見たはずだ。

 この薄紫色の瞳は一般人にはまず現れない珍しい色だ。

 そのため、初対面の人からはいつも驚きや好奇心の目で見られる。

 だが、クロロは全く無反応だった。

 これでも自分は人を見る目は養っている方だ。相手の目の動きやしぐさからある程度のことはわかる。

 だから、彼がこれに興味をもたず、自然体で接してきたことに驚いた。

 なぜだろうか。不思議と彼には無条件に惹きつけられるものがある。

 もし別の場面で出会っていたとしても、彼のことは信じられる気がした。


 気になるのはどこからやって来たのかということだ。

 この『時の山』に入るための道はこの村を通るか、隣国側の坑道を通るかしかなったはずだ。

 彼はこの村を見たのは初めてのようだったから、後者から来たことになるが…それならばよほど運がよかったのだろう。

 この山は昔罪人の裁きの場として使われていたらしい。

 山に強制的に入れられた犯罪者たちが、生きて帰ってくれば無実、そうでなければ有罪だったとされたそうだ。

 しかしながら、今では根拠のない裁きであることや人を殺める行為には違いないということから、この制度は廃止になった。

 この村は山に入れる犯罪者たちを一時的に置いておく拘留所だったのが、不要になり打ち捨てられたというところか。

 あのクロロという少年はそんな山に入って、ここまで無事に来れたのだ。

 旅の知恵もさることながら、かなりの強運の持ち主だと言ってもいい。

 それか、ここが本当に人を裁く山ならばクロロは全く犯罪行為を行っていないことになる。

 それはそれで信用できるものだ。


 本当は彼をこちらの事情に付き合わせるのは心苦しい。

 彼の世界は今美しく輝きに満ちているのだろう。

 目に映るもの全てが目新しく刺激に満ちており、それが楽しくて仕方ないという瞳をしていた。

 それに比べて俺の世界は…今醜く汚れきっている…。裏切り者は誰だ?追手は今どこまできている?志半ばで終わるのか?もう考えるのを放棄してしまいたい…。

 しかし、先ほどまでは生き延びることさえ絶望的だったが、運は俺に味方した。

 この好機を逃してなるものか!俺にはなさねばならぬことがある!


 彼といるとその明るい雰囲気から、こちらの気分も上昇するような気がする。

 こんな状況でなく、彼がもっと大人であったなら、仲間に勧誘しているところだ。

 きっとみんなを明るくしてくれるだろう。

 …2人が出て行ってからだいぶ時間が経った。そろそろ戻ってきてもいい頃だが…。

 おっと、家の出入り口の方で何やら話し声がする。

 また言い合いでもしているのか?ギルがあんなに突っかかるなんて珍しいな。

 腹も減ったし出迎えてやるか。  

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