表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/209

037.採集のち神殿

 オースのお店を出たクロロはまた商店街を見て回り、夕方前には柱時計亭に戻った。

 そして美味しいお料理を堪能し、すやすやと幸せそうに眠った。

 クロロを取り巻く人間模様はかなり複雑になっているのだが、彼女自身はちょっと誘拐されかけただけで、大した問題なく楽しい一日を過ごしたと言えよう。


 翌朝、クロロは昨日アリスに約束した布生地を作るため、材料探しに出かけた。ちなみに今日はいつもの男装だ。

 街の門から出て、スタタタタターっと走って行ったクロロ。彼女自身は普通に走っているのだが、そのスピードは馬を軽く凌駕していた。

 このクロロの奇行を目の当たりにしてしまった人物がいる。街の門番だ。彼は瞬く間に小さくなっていく彼女の姿を見て「あぁ…俺、一昨日の検問の疲れがまだ取れてないんだ」と結論付けた。ちなみに彼はこの日の午後、急遽休みを取った。

 背後で可哀想な門番を生成してしまったクロロは爆走を続ける。

 しばらく走り続けると、目的地に到着した。そこは2日前に馬車で通った林だった。実はクロロはここで偶然ジョウブ菜の群生地を発見していたのである。だからクロロはアリスに布生地を提供しようと思ったのだ。さすがに素材収集の目途がたっていなければ、そのような提案はしなかっただろう。

 林の中をぐんぐん歩いていくとそれはあった。湧水によってできた沼、その中心部には陸地があり、そこ一面にジョウブ菜が群生していた。

 ただし、この沼は地元の人々の間では底なし沼と恐れられていた。足を入れたが最後、どこまでも沈んでしまう。しかも中心部の陸地までは結構距離があるため、普通の人間では飛び移るのは不可能だった。

 しかしクロロには全く問題のない飛距離だった。彼女はジョウブ菜を見つけると嬉しそうな顔をして、ぴょーんと飛び跳ね、沼を軽く飛び越えて陸地に着地した。

「うわっはぁ!たくさんあるあるあるぅ~!」

 多くのジョウブ菜があることに大興奮のクロロ。

 ぷちぷちぷちぷち…。

 一心不乱に採集をしまくった。ちなみにジョウブ菜は根っこごと引っこ抜かず、茎の部分を切って採集する。そうすると、残った根っこからまたジョウブ菜が生えてくるのだ。村でもこうやって採集していたおかげで、いつも一定の量を確保できていた。

 ここで威力を発揮したのは、オースから貰った懐刀だ。よく切れること切れること。あまりに使い勝手がいいのでクロロはご機嫌だ。…ここにハイルやギルがいれば間違いなく悲鳴をあげただろう。見るからに業物のそれを植物採集に使うとは何事だ!と。

 そんなこんなで満足いく量のジョウブ菜をゲットしたクロロ。お次はキレイネだ。

 キレイネはその辺にちょいちょい生えているのをのんびり引っこ抜いていった。こちらは根っこごとでいい。これもたいした時間はかからず十分な量を確保できたので、そろそろ街に帰ることにした。

 

 道中何の障害もなく街に到着したクロロ。ちなみにこのときの門番は別の方向を向いていたため、彼女の爆走劇を見ずにすんだ。

 一旦宿屋に戻って採集してきた植物を置くと、ちょうどお昼どきだったので、ルンルン気分で商店街へ行き蒸かしたお芋と串焼きを購入した。昨日のことで学習したクロロは今度は商店街を抜け人通りの多い道を歩き、街の中心部にある時計塔を目指した。そして、ちょうどその下に座れそうな場所を見つけたので、そこで昼食とした。ここなら人通りも多いし、昨日のようなことは起こらないだろう。

 この街には時計塔を中心に街を南北に貫いている大きな通りがある。この道が属に大通りと呼ばれるものであり、最終的には領主館まで続いている。

 これに交差するように東西へと伸びている道がある。これは大通りより道幅は狭いが、馬車が十分すれ違えるような大きさの道だ。東側は宿屋がたくさんある区画。旅人や商人が数多く利用している。西側がさきほどクロロが通ってきた商店街だ。

 クロロは食べながら周りの様子を観察して満足すると、次の目的地へと足を向けた。

 北側の大通り沿いにある神殿だ。スタンプを貰うついでにいろいろなことを教えてもらうのだ!


 クリリ街の神殿はコモン村のものより2倍ほど大きかった。中に入ってみると天井は高く、複雑な文様が描かれた太い柱も数多く配置されていた。もちろん中央にはクロリア様の堂々たる姿が祀られてる。それらはすべて薄紫色で統一されており、差し込んでくる太陽の光をほのかに反射している。まるでここだけ別世界に迷い込んだかのように神聖で見る者の心を洗うような光景だった。

 クロロも例外ではなく、しばらくは美しい光景にぽかーんと口を開けて見入っていた。

 祈りを終えた老人がお隣を通り過ぎたことで、クロロはハッと我に返る。いかんいかん、一瞬我を失っていた。だけど、こんなに素敵な光景を見れて幸せだぁ~。この街でこれだけすごいなら、王都のはどんな風になってるんだろう。他の国の神殿は色が違うって言ってたけど、中の雰囲気も違うのかなぁ。気になるー!

「よおし!旅の最中は不思議な場所巡りと合わせて、世界中の神殿を見よーっと!」

「おやおや珍しい。お若いのに神殿に興味をお持ちになっていただけるとは。嬉しいことですね」

 クロロが心の中の声をついつい口に出すと、後ろから誰かに話しかけられた。

 クロロが振り向くと、そこには灰色髪に白髪混じりの中年男性が立っていた。簡素な神官服に身を包み、柔和な微笑みを浮かべている。いかにも上品で優しそうな人だった。

「はじめまして。可愛い旅人さん。私はこの神殿で神官をしているタンドと言います。いやいや、お若い方がこの神殿を見て感動してくれているのが嬉しくて、ついつい話しかけてしまいました。迷惑でしたか?」

 クロロの顔色を窺うように首を傾げるタンド。その仕草が思いのほか可愛らしく、クロロは彼に対して好印象を持った。

「そんなことないです!僕、実はこの神殿にはいろんなことを聞くために来たの!話しかけてくれて嬉しいです!あのあの、いっぱい聞きたいことやお願いがあるんですけどいいですか?」

「おやおやそうでしたか。これは嬉しい。最近はここに来てくれる若い人がとんと少なくなってしまい、寂しく思っていたところです。神殿とは本来祈りの場所とは別に、様々な相談事をする場所でもあります。私でお答えできる範囲であれば、どんどん聞いてください。ささ、立ち話もなんですから、個人的な相談部屋にでも行きましょう」

 タンドはクロロの様子から、おそらく少し長めの話になりそうだと判断して、祈りの場とは別の個人相談室に案内した。後にこれが大正解であったとわかる。


 案内された部屋は机と椅子があるだけのいたってシンプルなものだった。大人が4人も入ればいっぱいになってしまうくらいの大きさだが、光がたっぷり入る窓があって天井も高いので圧迫感はない。

「うふふ。こうやって若い方とお話しするのはいつぶりでしょう。嬉しいですねぇ。さてさて、小さな旅人さん。早速ですが、聞きたいこととはなんでしょう?」

 机に両肘をついて手を組み、優しい笑顔。さらには、窓から入ってくる光が彼の顔を輝かせる。とりわけ美しい顔立ちというわけではない彼だが、なんかもうあなたが神様です!っと言いたくなるような光景だ。

 なんという自然効果。クロロは思わずタンドを拝んだ。

「おやおや。どうしたんですか?私はクロリア様ではありませんよ?」

「気にしないでください。ちょっといいものを見たので…。それより聞きたいことですけど…まず、この世界の不思議な場所ってどこにあるか知ってますか?」

「不思議な場所ですか?」

 クロロはこくこくと頷く。

「僕は、この世界の不思議な場所を巡って旅をしたいと思ってます。でも、それがどこにあるのか具体的に知らなくて…。ちなみに『時の山』はもう行ったんです」

「なるほどそういうことですか。そうですねぇ…。私も『時の山』くらいしか具体的な場所はわかりませんね…」

 タンドの回答にクロロはしょぼんとした。

「そうですか…」

 明らかにガッカリしたクロロだがタンドの次の言葉でパッと元気になった。

「ですが、エルベス王国にも『時の山』同様、不可解な一帯があると聞いたことがあります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ