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036.ルベス

  一方こちらは、再び街の警備に戻ったルベスだ。部下たちが一度領主のもとへ人さらいたちを連行するというので、一応報告がてら自分もそれに立ち会うことになった。

「街での警備ご苦労であった。それでどうだった?こいつらは反国家組織と何か関係があったか?」

「いえ…。取引を行っていた店もくまなく調査しましたが、特にそれらしいものは…」

「何をしている!ただでさえお前たちは今、役立たずだというのに、新しい手がかり1つ掴んで来ないとは何事だ!こっちはお前の言うとおり、大急ぎで検問の通達をしたり、正規の警備団を動かしたりしたんだぞ!なのに何の成果も出せずじまいだ!もう奴らについての目新しい情報があるまで、私に会いに来るな!いいな!」

 領主のアゼパスはルベスからの報告内容に腹を立て、言いたいことを言うとすぐにルベスたちを部屋から追い出して、バタンッと乱暴に扉を閉めた。

 ルベスは苛立ちを覚えながら、領主館の廊下をやや乱暴に歩く。領主の横暴な物言いが癪に障ったのもあるが、彼の言い分が半分は正しかったのもまた事実だったからだ。

 ルベスの本来の仕事は街の警備ではない。エルベス王国の第ニ王女リーリからの声を聞くことだ。リーリは王族特有の特殊能力を持っている。その能力とは伝達だ。耳の周囲に銀髪を持つ貴族限定ではあるが、どんなに遠くからでも相手の言葉を聞くことができ、同時に自分の言葉を伝えることができる。

 そして重要なのはもう一人。第一王女のラーラだ。ラーラはリーリの双子の姉である。こちらは、遠見の能力を持っている。彼女は対象となる人物の顔を知っているか、その人物の持ち物が手元にあれば、どんなに遠くでも対象者の居場所を特定できるのだ。

 ちなみに、王族の能力の詳細やその発動条件などは国家秘密になっている。世間一般に知られているエルベス王国の王族たちの能力は「どれだけ離れていても特定の人物の居場所を特定できる」ということだけだ。それでも、戦を仕掛けようとする国や、犯罪者たちには十分な抑止力となっている。


 ルベスにクロリア王国へ行くように指示があったのは、半年ほど前だった。クロリア王国国内でひそかに活動をしているという反国家組織のリーダーを捕えよとのことだ。詳しい事情は知らされていないが、クロリア王国側がエルベス王国側に協力を要請し、エルベス王国はそれを了承したらしい。

 ルベスは国王の命を受け、クロリア王国に派遣された。

 そのとき受けた任務の詳細はこうだ。


『クロリア王国に協力するふりをしろ。そして隙を見て、必ず反国家組織のリーダーを生け捕りにし、ここへ連れてこい。確かめたいことがある』


 なぜ生け捕りにする必要があるのか。そしてなぜここに連れてくる必要があるのか。その詳細を聞こうとしたが、国王は口を閉ざしたまま語ろうとはしなかった。

 反国家組織…生け捕り…そしてこれだけ追い詰めてもまだ逃亡を続けられるその能力の高さ…。これらのことからルベスにはある予感が脳裏をよぎった。もしかしたら始まるのかもしれない。このクロリア王国で、300年前エルベス王国にも起こった出来事が。


 そんな予感を胸にリーリからの情報得た奴の居場所をクロリア側に伝え、徐々に彼らを追い詰めていった。嘘の情報を流すことも考えたが、せっかくクロリア側に兵力があるのだからこれを利用しない手はないと思い、ここまでは正しい情報を伝えてきた。

 しかし、つい最近もうあと一歩というところで突然リーリから困惑した声が届いた。曰くラーラが『時の山』付近で突然奴を見失ったというのだ。ラーラは死人を見つけることができない。もしかしたら、奴に何か不慮の事態が起きたのかもしれないとのことだった。追い詰められて精神的にも肉体的にも疲弊しているはずだ。何かあってもおかしくはない…。

 仕方なくクロリア王国側にそれを伝えたところ、念のため『時の山』にほど近いコモン村へ調査隊を送るとのことだった。ただすでに奴との追いかけっこでかなり兵を消費いていたため、急遽雇ったあまり質の良くない者たちを派遣したようだったが。

 しかしながら、ルベスは彼が死んだとは到底思えなかった。これまで幾度となく追い詰めてもするりと躱してきた奴だ。おそらく今回なんらかの原因で一時的に見つからなくなっているだけで、またひょっこり姿を現すに違いない。ある意味自分は奴をライバルだと思っている。こんなところでくたばるような輩ではないはずだ。

 だからルベスはクロリア王国の王都を離れて、クリリ街へやって来た。奴が生きているとすれば、まず情報収集と食糧などの調達のためにこのクリリ街へ姿を現すはずである。

 その予想は見事に当たった。3日前コモン村付近でクリリ街へ向かう彼を発見したとの連絡が入ったのだ。調査隊の一部は彼と接触したようだが、その後連絡がない様子から、返り討ちにあったのだろう。

 しかし、奴は必ずこの街に寄るはずだ。だから昨日の朝、急遽検問を行うように領主に進言をした。絶対にこれで彼は見つかるはずだった。

 だが、ここでも彼は見事にその捜査網をすり抜けたようだった。なぜ見つからなかったのか、門番だけでなく、ひそかにルベス自身の部下たちにも見張らせていたが、特に怪しい人物は見当たらなかった。

 もしや、クリリ街ではなく防衛都市リゼンに向かったのかと勘ぐったが、調査隊によると奴らはコモン村からこのクリリ街へ続く街道の林へ逃げ込んだとのことだった。つまり、彼は確実にこの街へ向かっていたことになる。…だがどうにもこうにも見つからない。


 これでは手詰まりだと感じたルベスは、昨日リーリにまだ奴を見つけることはできないか聞こうとし、耳に意識を集中させた。そこで彼は自身の違和感に気づく。

 リーリの存在を全く感じることができないのだ。普段であれば、リーリとの意識の繋がりを感じることができるのに、今はそれがない。

 ルベスは焦った。どれはどういうことだ。いくら集中しても何も感じることができない。リーリからの声が聞こえないばかりか、こちらの声もリーリに届いていない!こんなことは今までなかった!

 ルベスはしばらく取り乱していたが、現状をアゼパスに伝えておかなくては後々面倒なことになると思い、洗い浚い報告をした。

 すると、反国家組織のリーダーの居場所がわからないばかりか、情報伝達の能力までなくなったのであれば、お前は何のためにここにいるのだと責められた。

 まったくもってそのとおりだったので、ルベスは反論することができなかった。

 そのため、「自分に今できることは、街に潜んでいるかもしれない反国家組織のリーダーを地道に探すことだけだ。一時的にでいいので自分と部下たちをクリリ街の警備団所属にしてほしい」と頼みこんだのである。


 そして現在、ルベスは国家組織に関する情報を全く得ることができず苛立ちのピークを迎えていた。

 彼は知らなかった。まさか先ほど助けた(?)少女が探し人の命の恩人であったことを。そして、まさかその彼を布団に簀巻きにして街に持ち込んでいたことを。

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