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031.続・うっふんマジョリンにて

 クロロはゴクリと唾を飲みこんだ。

「王族の交代…」

「そう。王族以外が力を賜った。これが意味することは、国の守護神がその国の王族を見限ったということ。6つの国はこれで王族の交代が行われたの。中には王族軍対革命軍による内戦状態になった国も少なくないわ。でも、すべて革命軍の勝利に終わってる。そりゃそうよね。革命軍のリーダーは神様から力を賜ったばっかりで原点力を持っているもの。一騎当千の猛者よ。一般の兵士が勝てるわけないわ」

 クロロはしゅぱっと片手を伸ばして質問タイムを要求した。

「原点力ってなんですか?そんなにすごいものなんですか?」

「そりゃもう!原点力っていうのは守護神から賜った能力そのもののことだもの。血が薄まる前の原点、それが原点力よ。それぞれの守護神の能力によるけれど、エルベス王国の場合は空間の守護神でしょ。その原点力は、距離がどれだけ離れていても相手の状況を見ることができるし、大量の軍も一瞬で移動させられるほどの力を持っていたらしいの。奇襲も撤退も思いのまま。すぐに決着がついたらしいわよ」

 ほえ~…。そりゃすごいや。とクロロは感心した。とてもじゃないがそんな相手と戦いたくない。

「でも、もし今クロリア王国の一般人に神の降臨があっても、内戦状態になることなく、あっさり王族交代だわね」

 マジョリカが両手を上げて降参のポーズをとる。

「そもそももう王族はもう1人しかいないし、その1人も身体が弱いのか全然表に出て来ないじゃない?これ以上ないくらい簡単な革命劇になるでしょうよ」

「うわぁ…」

 クロロは口では生返事だったが、内心ちょっと穏やかではなかった。何せこの国には宰相のオーグルがいる。ハイルの話を聞いていると、そのオーグルは神の降臨どころか自分自身が神になりたいらしいではないか。もし、一般人にそんな能力が開花したらオーグルに生き血を狙われるのではないだろうか。きっとどのような手を使っても、なりふり構わずその人物を生け捕りにしようとするだろう。…恐ろしや恐ろしや…。

「それで話は神殿の話に戻ってくるんだけど…、現在王族はか弱い国王ただ一人。でも国自体は優秀な宰相のオーグルによって豊かに保たれている。そんな状況がもう10年以上も続いているこの状況で国民は何を考えていると思う?」

「そうだなぁ…。言ったら悪いけど神様が最初に力を与えた王族の人はもういてもいなくてもいいかなぁ。優秀な宰相さんがいれば何も問題はない…。あ…むしろヘタに神の降臨とかあって新しい王族が出てきたらなんかややこしいことになりそう?」

 マジョリカは頷く。

「そうよ。変に神の降臨があって王族の交代劇が起こって、国が揺れるなんて誰だって嫌だもの。次に王族になる人が今以上の政治を行ってくれるなんて保証はどこにもないしね。っというわけで今クロリア王国では守護神クロリア様よりもオーグル様に対する信仰心の方が上回っているのが実情ね。特に若い子たちはそう。神なんて古い!今はオーグル様みたいに自分の力で成り上がっていく時代だってね。だから守護神クロリア様を祭る神殿は結構蔑ろにされることが多くなってきたわ」

 ふとここでクロロはマジョリカに違和感を感じた。

 オーグルの話をするときに、何故かクロロから目を離していた。まるで、自分の目に映る感情を見られたくないような仕草だった。

 クロロが少し不思議気に見ていたのがわかったのか、マジョリカはパンパンと手を叩いて場の空気を変えた。

「…さてさて、ちょっと長く話しすぎちゃったわね。そろそろ本題のお化粧に入りましょうか」

 お化粧!そう聞いてクロロは今までのシリアスな雰囲気はきれいさっぱり忘れた。

 というか、話の発端になった神殿に行く理由も、ロリアから貰った神殿記にハンコが欲しかっただけだったりする。色々教えてもらうのはもののついでというものだ。


「クロロちゃんお肌が綺麗だから、お肌自体には何も塗らなくていいわね。よっし、目元を少しオランジ色系統で目立たせてっと…。頬紅は丸く円を描くように薄っすらつけるのよ。うん、それから口紅も付けましょうね。ほら、つやつや濡れたように輝いて綺麗よぉ~。さぁ、できた!鏡をご覧なさい」

 マジョリカはクロロに手鏡を手渡した。

 クロロはちょっとドキドキしながら鏡を覗きこんだ。途端、目にお星さまが輝くほど笑顔になった。

 そこに映っていたのは、健康で元気な雰囲気を残しながらも、確実に大人への階段を上りつつある少女が映っていた。そしてそれは紛れもなくクロロ自身である。

「~~~~っ」

 クロロは声も出ないほど感動いていた。本当はマジョリカ自身の顔面を見つつあそこまで厚化粧をさせられたらどうしようとちょっぴり不安だったのだ。しかし出来栄えはその予想を良い方向に裏切ってくれた。

「マジョリカさ~ん!ありがとー!」

 思わずマジョリカに抱き着いたクロロは感動でじゃっかん泣きそうになっていた。

「そこまで喜んでもらえると私も嬉しいわぁ!でも、泣いちゃダメよ!せっかくのお化粧が落ちちゃうわ」

 マジョリカは笑いながらクロロを席から立たせて、店の出口に誘導する。

「さっ!せっかく可愛くなったんだから商店街にでも行ってみなさい。可愛いクロロちゃんなら売り物も買い物もきっとちょっとおまけしてもらえるわよ。それにオースさんにもその姿見せるんでしょ」

 クロロはうんうん頷く。まだ感動が収まらないらしい。

「それから今日のお化粧道具一式を渡しておくわね。ち・な・み・に、他のお店でも言われたかもしれないけど、お代はオースさんからもらってるからね」

 クロロはさらに激しく頷く。髪が乱れまくっているが、メリーの腕は確かでクロロの動作が終わった途端、ちゃんと元の髪型に戻った。

「~~っ!ありがとうございましたマジョリカさん!商店街行ってきます!」

 マジョリカの店から出たクロロは、見送ってくれている彼女(彼?)に大きく手を振ると、商店街への道を歩き出した。クロロにとって幸いだったのは感動しすぎて身体がプルプルしていたので、規格外のスキップが出なかったことだ。今、スキップしたら大変なことになっていたのは明白だ。


 クロロが去ったのを見送ると、マジョリカはまた地下室に戻って行った。

「ふぅ、戻ったわよ」

「思ったよりも遅かったじゃねぇか」

 先ほどより小奇麗になったギルがマジョリカを迎え入れる。

「まあね。ちょっと話し込んじゃった」

 マジョリカは地下室のソファにドカッと座った。それを見たハイルとギルも向かいのソファに腰を落ち着ける。

「じゃ、改めて聞かせてもらうわよ…あんたたちどこ行ってたのよー!」

 マジョリカの怒鳴り声が地下室に響いた。



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