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027.二度目の別れ

「さて…少し話は逸れてしまったが、宰相の話に戻ってもいいかな?」

「う゛、話を折ってごめんなさい。どうぞ続けて下さい」

 そしてまたハイルが話始める。

「貴族の生き血を啜る宰相の目的だが…。実のところそこまでは探れていない。が、推測することならできる。あの宰相は、神に並々ならぬ執着心を持っていた。昔の彼を知る者によると、いつも神殿では神に祈りを捧げるというよりも、祈りを捧げられている神の姿を熱心に見ていたとのことだ。いつか自分があの地位になりかわり、偉大な力を手に入れて多くの人々から神と崇め奉られたい…彼はそういう考えを持っていたのではないかと思う。そして彼は多くの貴族の血を啜れば自分にも神の力が宿ると、突拍子もない発想に至ったのでは…というのが俺の予想だ」

「ううむ。俄かには信じられん話ですな」

 オースが難しい顔で唸る。

「まあ、私にとってはたいした関係はない話ではありますが」

「…やはり、協力してはいただけませんか…」

「そうですな。確かに宰相殿の行為は非常に恐ろしい物ではありますが、私は貴族ではないので特に被害をこうむることもありませんし」

「しかし、そうとは言い切れません。オーグルの目的が自身に特別な力を宿すことならば、貴族以外にもあなたやクロロの特殊な能力を狙ってくる可能性もある」

 クロロは自分の名前が出てきてビックリした。ハイルには悪いが完全に他人事として聞いていたのだ。

「それはしばらくはないでしょう。いくら風通しが良くなった王宮とて、商人や旅人のことをいちいち調べているとは思いませんしね。よほど目立つか特殊なことが起きない限り、私やクロロ君の力がバレることはないですよ。ねぇクロロくん」

 それにはクロロも同意した。そもそもクロロは目立ちたがり屋ではないし、ハイルたちに自分の力が一般人から見ると特殊なものだと教えてもらったので、最近は結構控え目にしているのだ。

「うん。僕のことなんて宰相さんの耳に入ることなんてないよ。それに今は貴族の人をどうこうするのに夢中そうだし…」

 クロロはハイルを気の毒そうな目で見た。

 その目線を受けたはハイルはバツの悪そうな顔をして言った。

「すまないな。俺もちょっと余裕がなかった。確かにオース殿やクロロ君が狙われることはほぼないだろう。脅かしてすまなかったな。ここまで協力してくれたことに感謝する。ありがとう」

 ハイルはそう言うと、立ち上がってオースとクロロに背を向けた。続いてギルも同じようにする。

「長く付き合わせてしまってすみませんでしたね。俺達はもう行きます。これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきませんからね。お世話になりました」

「世話になった。いつかまたな」

 2人はそう言うとあっさり荷台から出て行こうとした。

 その背にオースが問いかける。

「これからどうなさるつもりか」

「この街には俺達の仲間のアジトの1つがあるので、まずはそこを訪ねてみますよ。大通りに出れば、人に紛れることもできますからね」

 ハイルは背を向けたまま答え、今度こそ荷台から出て行った。

 ギルは一度だけクロロの方を振り向き、ニヤリと笑ってこう言った。

「いつか全部終わったら、ちゃんと責任とってやるからな」

 何のことか一瞬わからなかったクロロだが、その意味に気づいて彼女は頬に手をグーで当てて「ひぃぃ」」と真っ赤になった。ギルはその様子を見て笑い声を上げながら、荷台を出て行った。

 そのやり取りで色々悟ってしまったオースは、ひそかにギルの出て行った方向を睨みつけていた。


「行っちゃった…」

 荷台に残されたクロロは寂しそうに呟いた。ちなみに、ギルの爆弾発言は聞かなかったこととした。

「うむ。なかなか大変な人たちだったんだね。まあ、この先また出会うこともあるかもしれないけどね。本当に必要ならば神様はまた彼らにめぐり合わせてくれるさ。さあ!気を取り直して、宿に戻ろう。美味しいご飯を食べながら、今後の予定でも話し合おうじゃないか!」

「それもそうだね!わかった!」

 クロロはわざと明るい口調で答えた。

 厩を後にして宿へ戻る。その道中、ハイルとギルが去った方向を一度だけちらりと見たが、もちろん彼らの影も形も残っていなかった。


 宿に戻ると受付のリイがすぐにご飯だと知らせてくれた。クロロは一度自分の部屋へ行って荷物を置き、食堂へ入っていった。オースの姿を探すと、そのぽっちゃり体系ですぐに見つけることができた。なにやら女性達に囲まれてはいたが。

 クロロが近づいていくと、向こうから声をかけてくれた。

「やあやあクロロ君遅かったね!こっちで一緒にご飯を食べよう!」

 お言葉に甘えて、同じテーブルに着くと周りの人たちからも次々に声をかけられた。

「あらまあ、あなたがオースさんの言っていた小さな旅人さんね。たくさん食べるって聞いてたから、ちょっと大目に注文しておいてあげたわよ」

「きゃー!本当に小さいわぁ。可愛いー!なでなでさせてぇ!」

「こんなに小さいのに旅なんてして大丈夫?私のお店で店員やらない?」

 …最後の一人はえらく野太い声で、非常にたくましい筋肉をしていた。…何なんだろう、ちょっとクロロの知らない世界の住民のようだ。悪い人ではなさそうなので、まぁ、いいか。

「こらこら、そんなにいっぺんに構ったらクロロ君がビックリしてしまうよ。すまないねクロロ君。彼女たちはこの街に店を構えてる人たちなんだ。そしてクロロ君には悪けれども、君が女の子だということをすでに彼女たちには伝えてある」

「うえぇおあぁぁあ!?」

 クロロはびっくりしておかしな声を上げてしまった。

「ふふふ、安心してよ。この宿に出入りできる人間はそうそう人の秘密を外に漏らしたりしないわ。それを見越してオースさんは私たちに声をかけて、あなたの秘密を教えてくれたの。あのオースさんに信用されてのことですもの、光栄だわ!」

「そうそう、明日は期待しててね!」

「もうばっちり決めちゃうわ!あなたを見たときから腕がうずいてたまらないのよー!」

「え?え?何のこと?」

 明日って何?何の話?とクロロが混乱した。

「ハッハッハ!まだクロロ君本人には話してないんだ、ちょっと待っておくれよ。私はこの街でしばらく商売をするから、その為の準備や手続きがあって、明日の朝でクロロ君とはお別れになるんだけど、その前にクロロ君にサプライズプレゼントがあるんだ。紹介しよう。この街で腕利きの職人たちだよ」

 そういうとオースは周りにいる女性たちを手で示した。

「初めまして。私はアリスよ。洋服店を営んでいるの」

「初めまして。あたしメリー。メリリンって呼んでね!美容院を営んでるわ!」

「初めましてん。あたしマジョリカっていうのん。お化粧品屋をやってるわ。よろしくねぇん!」

 アリスは背が高く長髪でウェーブのかかった黒髪が美しい女性だった。よく見ると彼女の女性らしいラインが際立つ薄手のワンピースを着ている。色が真っ赤なのに下品ではなく、むしろ彼女の黒髪と合わさって上品な雰囲気を醸し出している。クロロは自分がそのワンピースを着ている姿を想像したが、がっかりするほどちんちくりんだった…。

 メリーと名乗ったのは元気いっぱいの雰囲気の女性だった。例えるなら、夏に咲く黄色いマヒワリのようだ。肩までの髪をふんわりと内側に巻いており、洋服は上が黄色のシャツに茶色いベスト、下はぴっちりとしたオレンジのパンツで、動きやすそうだった。

 最後に名乗ったマジョリカは…、長い睫はキラキラしており、垂れ目の瞼は緑色で彩られ、頬は上品なピンク色、唇はぷるんぷるん。髪は短髪でくすんだ金髪の七三分け、そしてその体系は巨体でギルと同じくらいだった。タンクトップとズボンがその身体によく似合っている。ただ…この人男性だよね?

「いっや~ん!きょとんとした顔がまた可愛いわぁん!」

「まぁまぁ、きっとゴンザインにビックリしてるんだよ」

「んまぁー!ゴンザインなんて呼ばないでちょうだい!私はマジョリカよ!その名は遠い過去に捨てたのよ!」

「はいはい。マジョリカ落ち着いて。ますますクロロ君がビックリしちゃうわよ」

 ますますというか、すでにビックリしすぎて一周回って落ち着き始めているクロロだった。

「にぎやかな人たちだろう?これでも、この人たちは一流の腕を持つ職人さんたちだよ。明日の朝はまず彼女たちのお店に行ってくれないかな?」

 オースのお願いにクロロは首を傾げた。

「どうして?」

「ふふふ、それはクロロ君をクロロちゃんにするためだよ。ここは大きな街で治安もいいし、ここでは男装する必要もあまりないからね。せっかくだから目いっぱい可愛くしてもらいなさいな。可愛い女の子だと、お店の人もたくさんオマケをしてくれるかもしれないよ?」

「えぇぇぇ!!」

 オースのまさかの提案にクロロは嬉しい悲鳴を上げた。


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