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020.ボロボロの追手

 それからハイルとギルはオースに言われた通り、宿の2階の彼の部屋で明日の朝まで身を隠すことにした。クロロは別に逃げ隠れする必要がないので、また村の中をうろうろし始めた。クロロにとっては、2人のことも大切だが、自分の旅が最優先なので、なにか面白い情報がないかと暇そうな村人を見つけては、積極的に話しかけていった。あまり有力な情報はなかったが、それなりに有意義な時間だった。

 時は過ぎて夕方ごろ、村の入り口の方に人が集まっているのを見かけた。

 何か楽しいことがあるのかと思い、彼女もそこへ近づく。するとギャーギャー騒いでいる集団がいた。

 服装や荷物を見る限りどうやら彼らも旅人らしい。

 だけど、なんだかボロボロだ。

「てめぇら!誰でもいいから早く医者を呼んで来い!すぐにだ!こっちには何人もけが人がいるんだ!早くしろ!」

 そう言われるも村人たちの反応は薄い。それどころか彼らを軽く軽蔑の眼差しで見て、ひそひそ話をしている。

「ねぇ、あの人たちって数日前にこの村にやって来て、いきなり私たちを脅してきた人じゃない?」

「そうよそうよ。人を探しているだのなんだの…。せっかく昨日いなくなったのに、今度は怪我をこさえて戻ってきたわ。いい迷惑よ」

「この村のお医者様はお年寄り1人だから来るのにはまだ時間がかかるって言ってるのに…。それをあんなに急かして…。恥ずかしくないのかしら」

 どうやら騒いでいるのはクロロと入れ違いに出て行った旅人たちのようだ。

 ハイルたちの話と合わせて考えるに彼らが例の追手ではなかろうか…。

 あの人たちの怪我はおそらくボンボンの実によるものだろう。なんか思ったよりもボロボロになっている。

 中には骨がおかしな方向に曲がっている者もいるではないか。まさかあの実でこんな風になるとは…なんて打たれ弱いんだ!あんな状態でよく村まで戻ってこれたものだ。

 でも…村人、特に奥様方から評判がすこぶる悪い…。

「こりゃこりゃなんの騒ぎかね!急げ急げというから来てみれば…。昨日出て行った小僧どもではないか」

 聞き覚えのある声にクロロが振り返ると、不機嫌そうなロリアが到着したところだった。付き添いのリベアも一緒だ。

「ロリア様!この者たち、怪我をしている模様。手当をお願いしたいんですが」

 そう言ったのは今朝出会った真面目な門番の青年だった。服装が変わっていることから、今の彼は非番のようだ。

「お前がこの村の医者か!遅い!とっとと俺達の治療をしろ!こっちは怪我人だらけなんだ!」

「なんだい、なんだい!せっかく来てやったのにその言いぐさは。私はいいんだよあんたらの怪我を放置したって。痛くもかゆくもないんだしね。ああ、それかわざと痛い方法で治療してやろうかね?もしくは、治療する振りだけして実は悪化させるのも悪くないね!そこのあんた、どれがいい?」

「うぐぬぬ…。言いたい放題言いやがって…」

「そりゃこっちの台詞だわね。偉そうなこと言ってるんじゃないよ!今度そんな口を聞いたら治療なんざしてやんないよ!…わかったらおとなしくしとくんだね。リベア、あやつらは神殿で治療をするよ。ここまで来られたんだ。神殿までも行けるはずさね。あんたは一足先に行って準備を整えておいておいで。頼んだよ」

「はい。わかりました」

 そういってリベアは走って神殿に向かった。

「ほらあんたらもぐずぐずするんじゃないよ!治療してほしかったら神殿に来な!…まったくこの平和な街道で何をしたら大の大人がそろってそんな大怪我するんだね…。ふむ…軽く見たところ打撲や骨折が多いようだね。さてはあんたらが追っかけてる奴にでもコテンパンにされたのかね」

「違う!あいつら、いつの間にかおかしな武器を持ってやがったのさ!まさかあんな小さな木の実みたいなもんが爆発するなんて誰が思うかよ!って、いてててて」

「そんな体で興奮するからだよ。だけどそんだけ元気があれば大丈夫だね。しばらくはこの村で養生しなよ」

 ロリアの言葉をきっかけにその場はお開きとなった。

 クロロは野次馬の中の一人に声をかける。

「すみません。さっきの人たちなんですけど、昨日出て行った人みんな怪我して戻ってきたの?」

「ん?ああ、昨日からこの村に来た旅人さんか。そうだなぁ、あいつらもうちょっとたくさんいた気がするなぁ。何人かは怪我しなかったから誰かさんを追って先に進んだのかもしれねぇな。薄情なこって」

 クロロはなるほどと頷き、礼を言って宿に戻って行った。


 クロロは今日も宿の食堂で夕食を取ることにした。

 その際、少し多めに頼んでおいて、ちょいちょいパンなどを人の目に映らないよう早業で袋に放り込んでいく。後でお腹を空かせているハイルとギルにあげるのだ。昨日から見た目よりたっぷり食べるクロロは多めに料理を注文しても不振に思われることはなかった。

 夕食を堪能した彼女はオースの部屋へ向かった。

「オースさーん、ハイルー、ギルーいるー?」

 控え目な声で尋ねると、中から入っていいという返事があった。

「おじゃましまーす」

 彼女が中に入ると、ハイルとギルだけが部屋にいた。オースはまだ戻ってきていないようだ。

「二人ともお腹減ったでしょ?僕さっき食堂でご飯を食べたんだけど、その時のパンとか持ってきたんだ。よかったら食べてよ」

「そりゃありがてぇ!実は腹ペコペコだったんだよ。恩に着ぜクロロ!」

「同感だ。まったく…君には世話になりっぱなしだな。少々自分が情けなくなってくるよ」

 そういえば、初対面の時も食糧を強請られた。その時と今の様子が、必死にご飯をちょうだい、ご飯をちょうだいと言っているか弱い子犬のように思え、意図せずフッと笑顔が漏れた。その笑顔はいつもの太陽のような様子と違い、慈悲に満ちた優しく美しいものだった。

 いつもと違うクロロの笑顔にハイルとギルはしばし彼女に見とれてしまった。そしてハッと正気に戻り、ギルは顔を真っ赤にし、ハイルは逆に真っ青になっていた。クロロを女性だと知らない彼は、何を血迷っているんだと自分に絶望してしまったようだ。

「??二人ともどうしたの?ご飯たべないの?」

 いつまでも食事に手を付けないことを心配したクロロはコテンと首を傾ける。そのときには、先ほどの雰囲気は綺麗に消し飛んでおり、いつもの無邪気な様子に戻っていた。

「い、いや…なんでもない。せっかく君が持ってきてくれた食糧だ。ありがたくいただくよ」

「おおおおう。ナンテウマソウナパンダ」

 二人はぎくしゃくしながらも食事を食べだした。

「そういえばオースさんの馬車の中には何か食糧はなかったの?僕、てっきりそれ目当てで二人が馬車の中にいたと思ってたけど…」

「ああ。馬車の中には商売用の食糧などもあったが、いくらなんでも無断で拝借するわけにはいかないだろ?それでは賊と変わらない。もうおんぶにだっこで申し訳ないが、食糧の問題もクロロ君に頼んでどうにかしてもらおうかと思っていたんだ…。迷惑ばかりかけてすまないな…」

 そう言うとハイルは食事中にも関わらず頭を下げた。同時にそれを見ていたギルも一緒に頭を下げる。

「わわわ、別にいいって!頭を上げてよ!結局オースさんの協力も得られてたし、食堂で食糧は確保できてるんだから問題ないってば!ささ、明日は朝も早いんだからご飯を食べてちゃっちゃと寝よう!」

 クロロは照れくささから無理やり話題を変えて、二人に食事を促す。

 そしてそのまま雑談をしていると部屋のドアがガチャリと開く音がした。

「おやおや、にぎやかですね」

 そう言って入ってきたのはオースだった。水の入ったタライを持ち、丸めた布団を2組背負っている。

「ああ、これはお二人の身体を清めるための水と寝床ですよ。旅の汚れをそのままにしておくのも気分が悪いでしょうし、床にじかに寝ると身体を痛めるかもしれませんし、話を聞く限りここのところゆっくり寝ていないのでしょう?よかったらこれらをお使い下さい。ちなみに布団の使い心地は保障しますよ。ふわふわで気持ちがいいのなんのって!」

 ニコニコ笑顔でオースはタライを床に置くと、背負っていた布団を敷いた。クロロのことといい、彼は一度懐に入れた人間にはたいそう親切にする気質があるようだ。

「まさかこんなことまでして頂けるとは…本当にかたじけない」

「クロロといい、オース殿といい俺達は本当に良い人間に出会えた。畜生!嬉しすぎて涙が出そうだ…。クロリア様、この出会いに感謝します」

 この日2人は久方ぶりの上等な布団でたっぷり睡眠を取ることになった。

 …そう、たっぷりと…。

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