014.心配事
クロロはハイルとギルの名前を伏せて謎の2人組と出会ったこと、そこで初めて自分が時の山で彷徨っていたと気づいたことを語った。土砂崩れの件は話そうか迷ったが、巨大丸太投げのことはあまり知られない方がいい、とハイルに言われたことを思い出し、そのことについては話すのをやめた。
クロロの話を聞いた村人たちは静まりかえった。
その後彼らは堰を切ったように話し出す。
「なんと!お前さんコモン山に入ったのかね!よく無事に出てこれたもんだよ」
「うわぁ、あんなところに入るなんて俺絶対無理、無理無理無理!」
「廃村って言ったらあれだろ、あの曰くつきの…」
「そうだぜ、昔罪人たちをコモン山に入れる前に一時拘留させてた…」
村人のあまりのビビりようにクロロは困ってしまった。
何日もコモン山で迷っていたために謎の愛着が湧いていたのだ。なんとかフォローしようと口を開く。
「大丈夫ですよ!たくさん食糧になる植物もあったし、水も美味しかったですよ!ちょっと時間の流れが違うだけですって」
それを聞くないなや村人の一人がクワッと目を開いて、ビシッとクロロを指差した。
「お前さん!よーく聞きなされ!よいか!我ら村人の軟弱さをなめてもらっては困るぞ!食べられる植物はこの辺りのものならよくよく知っているが、コモン山ともなれば話は別じゃ。誰も行くことがないために、そちらの方の植物事情についてはさっぱりぽんじゃ!」
さっぱりぽんとは何ぞやとクロロが疑問に思っているのにも気づかず、彼はいかに自分たちが身近なもの以外の知識を持たず、いかにか弱いかを力説する。そして他の人々もそれに同調するように頷いていた。それでいいのか村人たちよ。
「とにかく、コモン山で何日も生活できるというのはすごいことなのじゃ!お前さん見かけによらずやるのぉ」
「ははは…ありがとうございます」
クロロは苦笑いするしかなかった。
すると他の村人たちが気になることを口にしだした。
「それにしても、旅の途中で出会った2人組…もしかして…」
「あぁ、それは俺も思った」
「なぁ、クロロ君よ。その2人組誰かに追われてるような感じじゃなかったかい?」
クロロは驚いて村人たちを見まわした。
「え?どうしてわかるんですか?」
すると門番の青年が話し出した。
「実は君が来るすぐ前にも、この村に旅人らしき者が数人来たんだ。彼らは誰かを探してるようで、俺達に薄紫色の目で金髪の青年を見なかったかって聞いて回ってたんだ。隠し立てすると容赦はしないと言って、まるで尋問みたいだったよ…」
クロロは最初にこの村に来た時の嫌な雰囲気を思い出した。あれにはこういった経緯があったのかと納得した。同時に彼らが捜していたのはハイルに間違いないと思った。特に薄紫色の瞳の人間はこの村を見る限り1人もいなかったので、おそらく珍しい特徴なのだろう。
「そうだったんですか…。どおりで最初皆さんに警戒されてるなぁと思ったんですよ。…ところでその礼儀知らずな旅人たちはもうこの村にはいないんですか?」
「あぁ、君とちょうど入れ違いぐらいに村から出て行ったらしいよ。それもものすごく慌てて」
クロロは嫌な予感がした。慌てて出て行ったということはもしやハイルたちの居場所がバレたのではないだろうか。小さな村だし、宿の二階からならもしかしたらハイルたちの姿を目撃できたかもしれない。
冷静沈着だが寝起きがちょっと悪いハイル、言い合いばかりしていたけど根はまじめで優しいギル…2人に何かあったらどうしよう。せっかくあの山で生き残れたのに…。もう物言わぬ屍になっていたら嫌だ。
クロロは目に見えて顔色が悪くなった。例の2人組の心配をしているのがまるわかりだ。
だが誰もかける言葉が思いつかず、気まずい沈黙が落ちる。
そんな中オースが明るい口調で言った。
「まあまあ、クロロ君。彼らのことが心配なのはわかるが、今どこら辺にいるのかもわからないし、おかしな連中も彼らに追いつけたのかもわからない。…それに君が一緒にいた彼らはおかしな連中に襲われたら何の抵抗もできずにやられるほど弱いのかい?」
クロロは少し考えたが、フルフルと首を横に振った。
「ううん。力は弱っちいみたいだけど、色んな修羅場を体験してきたみたいだった。だからおかしな連中が近づいてきたら、何かしらの対処をすると思う…」
「そうかいそうかい。クロロ君がそう思うなら彼らは大丈夫だよ。信じてあげなさいな。それでもし次に会う機会があれば、大丈夫だったか聞いて、また困っているようなら力になってあげればいいのだよ。そうやって人と出会い別れるのが旅人だっていうのはもう知っているだろう」
「…うん!そうだね!きっと大丈夫だ。…よーし、なんか元気が出てきた!今日はこの村の名物をたっぷり食べて、久しぶりのベットでゆっくり眠ろうっと。ありがとうオースさん」
ちなみにクロロがハイルたちを弱っちいと表現したことにより、村人たちの中で彼らはひょろひょろで弱々しい印象になってしまった。村人の中には、今すぐ助けに行った方がいいのではないかと思う者も少なくなかった。そんな彼らは間違いなく善人であった。ここはコモン村。善き人々が集う善き村である。
翌朝、クロロは日の出とともに起きて村を散歩していた。ハイルたちのことは気になるが、気にしても仕方ないと割り切った。物事をズルズル引きずらないのが彼女の良いところである。
クロロが鼻歌交じりに散歩していると、村の門付近で2人の村人が言い合っているのが見えた。何事かと思いクロロもそこに近づく。
「だから俺は見たんだよ!誰かが夜中にこの村に入ってきたんだ!絶対だって!」
「いや…俺は昨晩見張り番だったが、誰もこの村には入ってこなかったぞ。夢でも見たんじゃないか?」
「そんなことないって!顔は暗くて見えなかったが、門の方から誰かが入ってきてたんだよ!お前は本当にずっと起きて門の前にいたのか!?」
「うーん…。寝てないのは確かだぞ。俺は村一番の真面目な青年だからな!あっ!だけど、門の前にはずっといたわけじゃない!途中で近くの茂みからガサガサ音がしたから何事かと思って見に行ったんだ。だがほんの一瞬だったし、よほどうまくやらないと俺が気づかないうちに村に入るのは無理だぞ」
「…そうかぁ、やっぱ見間違いだったのかな。そういえば俺昨日宿屋の食堂でたらふく飲んでたしな」
「お前…酔っぱらってたなら最初からそう言えよ…。それじゃやっぱり気のせいだろ」
「…なんか釈然としないけど、見間違いだったのかなぁ」
2人のうち1人が納得できないような顔をしながらも去って行った。どうも話の内容が気になったクロロは残った青年に声をかけた。
「おはようございます」
「あ、ああ。昨日の旅人さんだね。おはよう」
「先ほどの騒ぎは一体なんですか?村一番真面目な門番さん」
「聞いてたのかい?いやはやお恥ずかしい。ほんの冗談だったつもりなんだけど…。いや何を隠そう俺はこの村の最高ランクの真面目っ子でな。いつか真面目ギルドを開こうと思っている。真面目による真面目のための真面目な集まりだ」
クロロは聞きたいのはそこじゃないと心の中で突っ込んだ。今はもっと大切な話があるだろう。真面目ギルドってなんだ。なんか気になり始めてしまったじゃないか。できれば真面目な私も入れてほしい。
クロロは思考がおかしな方向にいっていることに気づく。なんてことだ、真面目に洗脳されていた。おそろしい。
彼女は頭をふり思考を切り替える。
「昨日の夜、不法侵入者がいたんですか?」
真面目な門番の青年は真面目話を打ち切られてちょっと残念そうだったが、質問にはちゃんと答えてくれた。
「いやね、さっきそこにいた奴が昨日の晩門から入ってくる怪しげな影を見たって言うんだ。たださっきも言ったけど、俺は一晩中ちゃんとこの門の前にいたし、離れたとしてもほんの少しの時間だから村への無断侵入は無理だって言ったんだよ」
「僕は結構簡単に村に入れてもらったんですが、やっぱり門番さんの許可がいるんですか?」
「うん一応ね。ただ本当に形だけのものだから、夜中に誰か来たって正直に村に入れてくれって言えばよほどおかしな連中じゃない限りお断りはしないんだ。もしも俺に気づかれずに本当に誰かが村に無断で侵入したとしたら、そいつは何か後ろ暗いことがあるに違いないよ。だってそうだろ、何もなければ普通に村には入れるんだから」
クロロは頷いてそれもそうだと思った。
村に入るのに特別な許可はいらないのに、無断で侵入するということは、村に入ったと知られたくない理由があるはずだ。
「まぁでもたぶんあいつの見間違いだから安心してくれていいよ旅人さん。だいたいこんな退屈な村に侵入しても金目のものがあるでもなし、何の意味もないからね!」
昨日から思っているのだが、この村は自虐的な人が多くはないだろうか。
クロロはなんだがハイルたちより村人たちのことが心配になってきてしまった。




