012.神殿と守護神
オースと別れたクロロは買い物の予定を変更して、村の探検をすることにした。
とは言っても、そんなに大きくない村なのですぐに見終わってしまった。
ただ、その中にクロロの村になく、コモン村にだけあるものを見つけた。
そこは、何かを祭っているような建物だった。
一見すると東屋を大きくしたような建物だ。
建物の色は全体的に薄紫色で統一してある。
中央にはツルツル頭で長いひげを生やしたおじいさんの像が立っている。
クロロはこれが何かわからず、その辺にいた村人に声をかける。
「すみません。この建物はなんですか?」
声をかけられた老婆は驚いたようにクロロを見る。
「お前さん神殿を知らんのかね!?どこから来たのか知らんが、二度とそんな罰当たりなことを言ってはダメだぞ。いいかよくお聞き。ここはこのクロリア王国の守護神クロリア様を祭った神殿だ。今の儂らがこうして平和に生きていられるのもクロリア様が見守って下さっているからだ。ちゃんと拝んでおくんだぞ」
クロロは神殿や守護神の話しは聞いたことがなかった。
おかしい、ちゃんと常識は村で教わっていたはずなのに…。
「教えてくれてありがとうおばあちゃん。でも僕、神殿や守護神って聞いたことがないんだ。できればもうちょっと詳しく教えてほしいな」
老婆はカッと目を見開き唾を飛ばす勢いで話し出した。
「よく私に尋ねた!私は何を隠そう神殿の元神官である!私が基本的な事を今、ここで叩き込んでやろう!さぁ、中の椅子に座りんさい!授業じゃ!授業を始めるぞい!」
クロロは老婆に気圧され、気づけば神殿の中にある椅子に腰かけていた。
すると神殿の中を掃除していた若い女性がそれに気づいて声をかけてきた。
「おや、ロリア元神官。お若い方を連れてどうされました」
「リベアよ信じられるかい?この子は神殿も守護神も知らずにこの年まで育ったようなのじゃよ。だから儂が手ずから教えてやろうと思うてな!」
リベアと呼ばれた女性は、信じられないという顔でクロロを見た。
クロロは先ほどと同じような反応をされ、少し居心地が悪くなってきた。
「うぅ…すみません」
クロロの様子に、リベアは自身の反応を後悔した。
「こちらこそ変な目で見てごめんなさい。大丈夫ですよ。今からロリア元神官が丁寧に教えて下さいますからね」
「そうじゃ!儂が徹底的に教えてやるからしっかり覚えるのじゃぞ!」
「…大丈夫ですよ。こう見えてロリア元神官は子供たちに、いろんな歴史などを教えたりしていましたから。…鬼のロリアと言われていましたが…」
それを聞いてクロロは今更ながらとんでもない人に声をかけてしまったと気付く。
クロロが半泣きになりながら、リベアに無言の助けを求めた。
彼女は気の毒そうな顔をしたが、そっぽを向いてしまった。
「で、では私は別の用事がございますのでこれにて…。頑張ってくださいまし見知らぬお方…」
リベアは見事にフェードアウトした。
残されたのは恐怖に竦むクロロと、久々の獲物を見つけたロリアだけだった。
「さて、まずはお前さんの名前を聞こうかの」
「クロロです…」
「声が小さい!もっとしっかり声を出しんしゃい!」
クロロは内心「ヒィー!」と思いながらも持ち前の元気の良さを出す。
「クロロです!旅人です!今日コモン村に到着しました!」
「よかろう!ではクロロよ!今から神殿と守護神について説明するからよく聞くんだよ!」
「はい!」
「よいか守護神とは各国の最初の王に力を分け与えた神の名を指す。そして各国名は守護神の名前が由来になっておる。このクロリア王国の守護神は時の神クロリア様じゃ。ここまでで何か質問は?」
クロロはピンと片手を上げた。
「はい!力を分け与えるとはどういうことですか」
「ふむ。そのことも知らぬか…。守護神は人とは異なるものであり、その力は絶大じゃ。力の詳細については各国の王族やその側近たちにのみに伝承されておる。ただ一つわかるのは各神様が何を司っていたかじゃ。クロリア様は時の神であらせられるため、時間を操ることができたと言われている。そしてその力の断片を最初の王が賜ったのじゃ」
「どうやって賜ったのですか?」
「それはわからぬ。だが、神の力は断片とはいえ強力なもので最初の王は複数の刺客に襲われた時、そ奴ら全員の心臓の時間を止めて葬ったと言われている」
クロロは生きたまま心臓を止められる人の気持ちを考えて身震いした。恐ろしいことをするものである。
「まぁ、最初の王も好きでやったわけではなかろうが…自分が生き延びるために必死だったのだろうよ。話は戻るが、その王の子孫にもその力は受け継がれている。今の国王にも何らかの力が宿っているはずだ。ただし、子孫は王族の血が薄まれば薄まるほど力も薄まっていくという。おそらく今の王に最初の王と同じことをしろと言っても無理だろう。ここまでで質問は?」
クロロは少し考えたが首を横に振った。
「よかろう。では次は神殿についてじゃ。神殿は各守護神を祭っており、皆がお祈りをする場所じゃ」
「お祈りって何をするんですか」
「お祈りというのは、今こうしていられるのはあなたのおかげですありがとう、これからもよろしくお願いしますとお礼とお願いをすることじゃ」
クロロとはこくこくと頷いた。
「神殿は普通どんなに小さな村でもあるはずなんじゃが…なんでお前さんの村にはなかったんじゃろうな…。まぁ、ないものは仕方ない。各国の神殿は祭っている神様によって色が決められておる。時の神クロリア様は薄紫色、となりのエルベス王国の守護神は空間の神エルベス様で、神殿は銀色をしておる」
あまり見ない色の建物だと思ったら神様の色だったようだ。
単なるオシャレだと思っていた。
クロリア様、ごめんなさい。
「まぁこんなところじゃな。これは余談じゃが、子供の名前を神様の名から取る両親も多い。儂もクロリア様からロリアという名を頂いている。クロロといったか。お前さんもおそらくクロリア様から名前を貰ったのだろうよ。よかったな。さて、儂の話は以上じゃ」
クロロはおやっと思った。
「えっ?これだけですか?」
ロリアは呆れたような顔をした。
「本来ならもっといろいろ教えてやりたいのじゃが1日では到底終わらん!だが手元に資料もないし、お前さんはこの村の住人じゃないからの。もしそうなら明日からみっちり何時間もかけて授業をしてやるんじゃがな。ひっひっひ」
不気味な笑い声をあげるロリアにクロロはさらに恐怖した。
「さて、最後にクロリア様のお姿だけは覚えていきなさい。中央にある像がそうじゃ。クロリア様は髭の長い老人で」
「頭ツルツル」
クロロは思ったことを思わず口に出してしまった。ハッとして口を押えるも時すでに遅し。ロリアにわしっと頭を掴まれた。そしてその手に徐々に力が入っていく。老婆とは思えぬ締め付け力だった。
「ものには言い方というものがあるのじゃよクロロ君…。よいか。クロリア様が歳を取っているお姿であるため、この国では老人は大切にされる。特に髪の毛のないおじいさんはな…よくよく覚えておきなさい。二度とツルツルなどと言ってはいけぬよ…」
鬼のロリアが降臨してしまった!
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう言いません。頭を…頭を放して下さいませんでしょうか…」
「わかればよろしい」
そう言ってロリアはクロロの小さな頭を解放した。
「それではまた何かわからないことがあれば訪ねてきなさい。なんでも答えてあげるでな」
クロロは自身の頭をなでくり回してどこも変形していないことを確認し、ロリアに感謝の言葉を述べた。なんだかんだ言いつつ、わかりやすく教えてもらえたので助かった。また何か困ったことがあれば訪ねようと思えた。




