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籠沢市に大きなコンサートホールがある。
春加記念コンサートホール。
あの世紀のピアニストと謳われた曽根崎春加の出身地ということで建てられたコンサートホールである。
曽根崎春加がその業界ではもはや伝説と化しているように、このコンサートホールもある意味で伝説と化していた。
このコンサートホールには設立当初から不審死事件が相次ぎ、"曽根崎春加の幽霊"や"ピアノの幽霊"がいるなどといった噂が流れ、その噂がやがて"夜にホールのピアノを聴くと死ぬ"という都市伝説となった。
蓋を開けばその都市伝説に信憑性を持たせたいくつもの事件は人間が起こしたものだった。コンサートホールと同じ年数建っていたハイツの火災のときに、偶然にもそれが明らかになる。
しかし、そんな真実が明るみに出たところで一度広まり、尾ひれはひれがついた都市伝説がそう簡単に収まるわけもなく。しかしながら、"夜にホールのピアノを聴くと死ぬ"という噂よりもまことしやかに囁かれる話が生まれていた。
「ほら、あの人だよあの人」
春加記念コンサートホールの近くで、学生の二人組が職員出入口から出てきた背の高い青年を眺めていた。青年はやや大きめの鞄を手にしている。
その青年を示して声を上げた学生に友人とおぼしき少年がいぶかしげな目を向ける。
「本当にあれがかぁ? ただの普通の人っぽいけど。あ、でもよく見ると背ぇ高。羨まし」
「あの人で間違いないよ。手に持ってるのはあの人の仕事鞄で調律道具が入ってるんだ」
「ふぅん。なるほど。"死なない調律師"ね」
友人の言葉を信じることにしたのか、疑わしげだった少年が興味を示す。
「なぁなぁ、ちょっと軽く挨拶に行ってみないか?」
少年の提案に友人はぎょっと目を剥く。
「な、何言ってんの!? 知らない人にいきなり!? 挨拶!?」
「馬ぁ鹿、偶然を装って擦れ違えばいいだけじゃんか。チッスとか言やいいんだろ。楽勝じゃん。ま、俺が言ってる挨拶はそういうのじゃねぇけどな」
「……はっ?」
少年の一言にきょとんとする友人。間抜けにも見えるほどあんぐり口を開けた友人に少年はにやりと笑った。
少年の手には工作用のカッターナイフ。ぎちぎちと刃が出される。
少年の笑みは実に無邪気だった。
「"死なない調律師"が本当に死なないのか、気になんね?」
一応本編はここで終了です。
あと二文字残っていますが、適当に登場人物紹介でもします。
この作品の人物は実際にありそうな、でもなさそうなという微妙な名前と字の使い方をしているので、覚え書き程度の認識で見ていただければ。
それでは一旦失礼致します。




