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由依は加瀬谷の危険を察し、まず五人をどうにかして止められないかと追いかけるが、人混みの中ですぐに見失う。
であるなら、加瀬谷を探そうと館内を駆け回る。由依は人に触れることはないから、何人もの人を通り抜けて人混みの中でも支障なく動ける。しかし、一度にかなり多くの人数を通り抜けたら、少し気分が悪くなった。
人混みを抜け、なんとか地下と二階に続く階段に辿り着く。いつもの傾向から行くと加瀬谷は演奏前のピアニストの元にいるはずだ。ここの特殊なピアノを加瀬谷は奏者ごとの得手不得手に合わせて調整している。どのような調整をしたか簡単に報告に行っているのだ。
と、居場所に見当がついているのはいいが、由依は疲れてへたり込んでしまう。
おそらく、こう人が多い中で、あの五人が何かすることはない。ないとは思うが……
由依が息を整えていると、一階が満席になったのか、二階に上る客が増えてきた。その中に例の五人の姿もある。
どうやら五人は一応普通に演奏会を見ていくらしい。それならば演奏中は大がかりなことはしないだろう。演奏中に加瀬谷が出てくることもないから狙い打ちなどという行為もできないはずだ。
由依は一旦胸を撫で下ろし、地下への階段を降りた。
その夜、事態は大きく動き出す。




