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 春加記念コンサートホール。

 世紀に一人の逸材と謳われたピアニスト・曽根崎(そねざき)春加(はるか)の故郷である籠沢市(かごさわし)に作られたコンサートホールである。

 曽根崎春加は若くして亡くなった天才ピアニストで誰もがその死を悼んだ。そんな彼女を称え、建造されたのがコンサートホールである。

 三十年ほど前のことだったろうか。コンサートホールの開場記念公演で若き無名のピアニストが話題を呼んだのは。

 その公演は曽根崎春加に憧れるピアニストたちに募集をかけ、数多の選考を勝ち進んだピアニストが主演の演奏会だった。見事選ばれたのは無名の新人。かなり若かった。

 しかし無名であったため名前はあまり知られていない。その後、彼とも彼女ともわからぬそのピアニストが名を馳せることはなかったから。

 何故ならば──




 公演初日の翌朝、そのピアニストが死んだからである。服毒自殺だった。

 五日続くはずだった公演は中止。その事件は話題となりなかなかに世間を騒がせた。

 ただ、自殺だったため、当人の名前が公開されることはなく、また無名の人物だったため、人々も名前を気にしなかった。


 世間的に名もなき人物が死んだためにその事件は早々に忘れ去られた。

 しかし、そんな数年後、春加記念コンサートホールで再び事件が起こる。

 ピアノ調律師が頭を強打して死亡。しかもこれは事故ではなく殺人と断定された。

 死亡推定時刻は深夜で、ピアノの調律の最中に死亡したものと思われる。春加コンサートホールは夜には宿直の警備係が二人ほど交代で定期的に巡回しており、その夜、ホール内にいたのはその二人の警備係と調律師だけだったという。表玄関及び職員出入口はある時刻を過ぎると自動ロックされ、出入り不能となるため、出入口は宿直室脇の特別出入口のみ。他に入った者も出た者もないと警備係二人が口を揃えて述べた。

 警備係二人のうちの誰かがやったのではないか、という話も出たが、充分な証拠もないため、結局捜査は迷宮入り、数年前に時効を迎えた。

 それから数年置きにぽつぽつと人死にが出た。それは事故であったり、不審死であったりしたが、どれにも共通することがある、と囁かれ始めた。


「春加記念コンサートホールのピアノの音を夜に聴いた者」


 根も葉もない噂といってしまえばそれまでだが、どの事件も朝に発見されたり、夜中に発見されたりで時間帯がある程度噂と合っている。また、発見現場がコンサートホール内かその近辺なのである。そのことが噂に信憑性を孕み、果てにはこんな都市伝説を生んだ。


 春加記念コンサートホールのピアノを夜に聴くか弾くかすると、死ぬ。






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