七話
「――対象、旧NATO国家の旗を持っています!」
報告された内容に各々の将に戦慄がはしる。
「――何ッ!?」
「――何じゃと!?」
一番驚愕を表したのがNATO国家【元帥】長谷川竜二と魔族、【現魔王】イシュタル・ブランシェルだった。
特に竜二にいたっては先ほどまで飄々とした態度が嘘のように狼狽え、脂汗をたらしていた。
「――かまわぬ! 向かってくる敵が何であれ、真っ向から打ち倒すのみ!」
魔王イシュタルは見た目通りのお転婆さで嬉々として命令を下す。それに我に返った竜二は叫んだ。
「――すぐにヘリと戦車を出撃させろ! 奴らを影も形も残すな!」
怒鳴りにも近い命令を受けた兵はすぐに連絡をいれる。
それから数分もしないうちにヘリが数十機飛び立ち、戦車が唸りをあげながら行進していく。
「――来たか。あとは各自やりたいことをやってよし。元帥としての命令はここまでだ」
旗を掴み、引き抜くと前を見る。群をなした攻撃ヘリがこちらに向かってくる。
悠の言葉を聞いた瞬間、今まで抑えていた衝動が爆発し、凄まじい殺気を放つ十人。そして大地を砕き、陥没させながら疾風の如く戦場を駆ける七人。
「――なんだお前ら、追いてくる気か」
「あ゛ぁ゛、だい゛じょ゛う゛どい゛る゛どあ゛ぎね゛ぇ゛がら゛な゛」
「えぇ、元帥に追いていけば目的は果たせるかと思いまして」
口調はいたって平穏だが、殺気は常に出ているような状態になっている轟大河と星野澪だった。
「好きにしろ――――行くぞ」
そこでやっと三人も動き出す。悠は唯一そこで誰よりも鋭く濃い殺気を振り撒きながら進んでいく。
『目標、ものすごい速さで進んできます!』
ヘリの操縦者が本部隊に報告する。
そして開始される攻撃。
ヘリからは機関砲やロケット弾が次々に撃ち込まれ、戦車からは戦車砲が撃ち込まれる。
地面が弾け、爆発が生まれる。だが駆ける十一人には当たらずに弾丸や爆風をものともせずに突き進んでいく。
『くっ! この化け物め!!』
一人のヘリパイロットが叫び、ロケット弾を撃ち込んでいく。その攻撃に十一人のうちの一人が飲み込まれたように見えた。
『やったか!?』
思わず呟き、気を緩めてしまったパイロット。次の瞬間には表情を凍り付かせる。
『(――なっ!?)』
どういうわけか、眼前に奴がいた。
ガラス越しに見る相手の風貌に恐怖する。
全身が火傷に侵され、骸骨を模したハーフフェイススカルマスクを被り、血と泥にまみれたボロボロの服を纏い、何よりもこちらを凝視する双眸が、殺気が心臓を掴み、握り潰さんとしている錯覚を覚える。
『(何だあいつは!)』
今すぐにでも逃げたい衝動に刈られるがどこにも逃げ場はなく、逃げられない。
十一人のうちの一人、内藤正樹は右腕に持った旗槍をヘリに向かって突き立てる。
旗槍といっても、槍は普通のもので問題なく使える。
『(バカめ! そんなもので貫けるか!)』
そう思っていたが、ヘリを揺らすほどの衝撃が襲う。そして何かの破砕音と体に違和感を覚える。
『――グフッ』
槍の穂先がガラスを砕き、男の左胸に突き刺ささっていた。
『な゛……ごぽっ!』
勢い良く槍を引き抜き、そのまま落ちていく。
ヘリパイロットは力なく項垂れるだけで操縦不能に陥ったヘリを持ち直させるだけの力はなかった。
やがて墜落し、爆発を起こす。それに続くように一機、また一機と戦車砲で落とされていく。
『喰らえっ! ――っ!』
戦車と対峙しているはずだというのにまったく恐れずに向かってくる。近くに着弾してもどういうわけか構わずに向かってくる。
戦車の群れにたどり着いた一人はまず、覗いている観測手を槍で突き殺す。
目玉を突かれ、後頭部まで突き抜けた槍は観測手を完全に殺したといっているものである。
槍を引き抜くと今度は戦車のハッチがこじ開けられ、強引に中に入ってくる。
『やめろやめろやめろ! ――ぐあっ!!』
『た、助け――』
一切の慈悲などかけず首を螺切り、動脈を掻き切る。
無造作に死体を放り投げて自身――斎藤薫が操縦席に座る。
「――飛ぶ的を撃ち落とすのは得意だぜ? 誰よりもな」
装填した戦車砲を撃ち、上空を飛行していたヘリに着弾。爆発と共に弾け飛ぶ。
それから一機二機と撃ち落としていく。
それだけにとどまらず、薫の乗った戦車は今度は周りの戦車に攻撃にしていく。
他の仲間も薫と同じように乗り込み、次々に駆逐していく。
戦争はまだ始まったばかり。