六話
ゆるゆると投稿していきます。
――ナナ村の全滅から約一週間が経ち、アルト大国にはかつてないほどの軍勢が集まっていた。
王国軍、新成NATO国家、魔族の軍勢。総勢にしておよそ二百万以上が隊列をなしひしめき合っていた。
「…………『賢者』は、どこにおるのだ?」
国王は家臣に尋ねるように声を低める。
玉座の間にいる王はいまだ来る気配のない『賢者――クレムリン』を探していた。
しかしこの間から姿をくらませたので早急に部下に探させていた。もともと王国直属というわけでなく、興味で居着いて自身の知恵にしていたため、万が一に海を航られて他国に伝えられても困るため、捕らえなければならなかったのだが……
「はっ、感知魔法、探索魔法を飛ばしたのですが見つけられず、代わりにこれを……」
そういっておずおずと紙を差し出してきた家臣、王はそれを見分するために受け取る。
見てみるとそれは確かに賢者、クレムリンの手記だっだ。
『――――これを王が読んでいるということは私がすでに王国圏外にいるということだ。そしてすでに感知、探索の魔法の及ばんほどの距離にいるはずだ。此度まで王の国で色々なものを見せてもろうた、様々な『銃』と呼ばれる魔道具、それを操る軍隊と呼ばれる軍、人と魔族とが同じ国にいるということ――そして、光と陰を。
私は昔のあの者が作り上げた国の方が好きじゃ。人と魔族が互いに笑い合っとった、それが今は顰めっ面で睨み合うばかり……。
私は旅に出る。少々向かいたいところが出来たのでな。お主らで始めた戦争に私を巻き込まんでくれるか?
心配せずとも他言はせんよ、私も殺されたくはまだないからの。信用できないのならば追ってなどいくらでも出してこい。
さらばだ、愚王。もう会うことはないだろう――――クレムリン』
「………………」
そう書かれた手紙を王はぐしゃりと握り潰す。
そのまま紙をほおると立ち上がり、玉座の間から出る。
「――お待ちしていました陛下。さ、こちらへ」
玉座の間の扉を開けるとそこには一人の騎士が立っていた。
優男の風貌をしているが滲み出る殺気と鍛え上げられた体がただ者ではないことを物語っていた。
「ふむ、ご苦労。ベイリス」
王国軍剣客がひとり――ベイリス・マグナ。
ベイリスに労いの言葉をかけると二人は歩き出した。やがて二人の足が止まったのは目的地に着いてからだった。
ひしめき合っているものたちを見下ろせる場所にいた。
「陛下、これを」
渡された石――魔力を使い、音を石自体が振動して辺りに拡散させ、元よりも倍以上の音量を出すこができる魔石――拡音石を使い、全軍に声を響かせる。
「――――王国軍の民たちよ、騎士たちよ、魔法師たちよ、NATO国家の兵たちよ、魔族のものたちよ。ぬしたちの主に変わって我、アルト・ヴァン・テレウスが告げる――」
「ここ数日の襲撃に怯える民たちもいるだろう。正体が分からず得体の知れない恐怖に捕らわれている兵たちもいるだろう――――何を恐怖する? 何を怯える? 我らは何も恐れる必要はない! 我らは歴史上に無いことを成し遂げたのだ! 魔族との共存――そして! 神の使徒さえも我々には勝てなかった! 使徒ですら我々には勝てなかったというのにどうして他の有象無象に負けようか!!」
力強く、民衆に。少なからず恐怖していた兵たちに語りかけていた。
「この国王が断言しよう――この戦、勝てる!!」
聞いていた兵たちが、民が歓声の唸り声をあげる。 やがて歓声は伝染し、ひとつになった。
「――敵を感知! 対象は…………十一名!」
感知魔法を最大限まで使い、何者かを感知した魔法師が告げる。
「標的としてマーキングしろ! 全部隊よーいッ!」
アルト大国にいたすべての兵が迎撃体制に移行する。
「―――ばぁ゛ぁ゛……あ゛ぢら゛ざん゛、や゛る゛ぎら゛じい゛せ゛」
「――全員、国印を立てろ」
手に持っている槍を力強く地面に突き立てる。
風で靡く旗が十一旗――――これであちらもいやが応にも気付くだろう。
「――さぁ、我らが復讐、果たさせてもらおう」
愚かな者たちは再び過ちを起こし、過去の人物となった者たちは復讐を誓う。
――のちに、『地獄の六六六日』と呼ばれる戦争が幕を開けた。