表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぼくの永遠のヒーロー

作者: 碧桜


ひらがなが書けるようになった6才の4月に空くんは大好きなお兄ちゃんに手紙を書きました。


『きょう、さくらがさいたよ。おにいちゃんがおしえてくれたとおり、すごくきれいだったよ。ぴんくってかわいいね。いろってすごくきれいだね。おにいちゃん、ありがとう。』


そして、公園で集めたきれいな桜の花びらを一緒に封筒に入れました。

封筒には『おにいちゃんへ』と書き、ノリで封をしました。



空くんは赤ちゃんの時に、病気で視力の殆どを失ってしまい、物の形や色を見分けるのが難しくなってしまいました。

けれど、気が付いた時にはそれが当たり前になっていたので、少しも気にはなりませんでした。


目の事が気にならない訳は、他にもありました。

空くんには誰よりも強くて大好きな、4才年上のお兄ちゃんがいたからです。

目がよく見えなくても、おにいちゃんがいてくれるならこんなに嬉しい事はありません。

物心がついた頃から、お兄ちゃんは空くんのヒーローでした。

いじわるな子が空くんの目をからかうと、お兄ちゃんがやって来て空くんを守ってくれました。

この時だけは、目がもっと見えたらなぁと、空くんは思いました。

だって、空くんを守るお兄ちゃんの姿はカッコいいに決まっているからです。


「兄弟だから、僕たちは似てるんだよ。」

ある時、お兄ちゃんが教えてくれました。

そう言って、空くんの顔を、空くんの指や手で触らせた後、自分の顔を触らせて、「鼻の形が同じだね。」とか、「でも口の形は少し違うね。」と、笑いながら教えてくれました。

面白いお話もたくさんしてくれました。

夜、寝る前には必ず空くんの両目を触ってお祈りもしてくれました。

「空くんの目が治りますように。治ったら一緒にいろんなモノを見ような。」

そう言って、頭を撫でてくれました。

空くんは嬉しくて「お兄ちゃん、大好き!」と言いました。

するとお兄ちゃんも恥ずかしそうに「兄ちゃんも大好きだよ。」と言いました。



ある日、お昼寝をしていた空くんは、突然お母さんに起こされて車に乗りました。

何を聞いても、お母さんは答えてくれません。

しばらくして急に車が止まり、お母さんに抱き抱えられた空くんは建物の中に入って行きました。

嗅いだ事のある匂いで、空くんにはここが病院だとわかりました。

「どうして病院に来るの?」

空くんは聞きましたが、お母さんはやっぱり答えてくれません。


やがて、お父さんやおじいちゃんおばあちゃんも病院にやって来ました。

嬉しくなった空くんは言いました。

「みんなみんないる!!お兄ちゃんは?」

答えてくれたのはお父さんでした。

本当にお父さんの声なのか分からない位、低くて悲しい、静かな声でした。

「お兄ちゃんもいるよ。だけど、お話は出来ないんだよ。遊べないんだよ。」

「ねむいの?じゃあシーッだね。」

空くんが静かにそう言うと、お父さんは空くんをギュッと抱きしました。


早くお兄ちゃんがおきたらいいな。そうしたら、あそんでもらおう!!

空くんは思いました。



やがて、ずっとどこかへ言っていたお母さんが戻ってきて、空くんに言いました。

「空くん。お兄ちゃんは、体を置いて遠い所に行ってしまったみたいなの。それでね…空くんに、お兄ちゃんからプレゼントがあるんだって。おにいちゃんがずっと空くんにあげたくて仕方なかった、魔法のプレゼントだよ。」

お母さんの話が難しくて、空くんにはよく分かりませんでしたが、お兄ちゃんのくれる魔法のプレゼントって何だろうと、空くんはワクワクしました。

「空くんが寝ているうちに、お兄ちゃんが大好きな空くんに魔法をかけてくれるよ。」

そう言うと、お母さんは痛い位の力で空くんを抱き締めました。


魔法のプレゼントっ何だろう?

きっと凄い魔法なんだろうな。

だってお兄ちゃんはぼくのヒーローだもの!!

そう考えて、空くんはニッコリ笑いました。



今年もまた春がやって来ました。

空くんの左目は相変わらず良く見えませんが、右目に見えないモノは何もありません。

でも、どんなモノも見せてくれる右目でも、ただ一つ、お兄ちゃんの姿だけは見せてくれません。

「僕には2つの目で見えるのに、空くんは2つ共見えないなんて不公平だ、僕の目を1つあげられたらいいのにってお兄ちゃんはずっと言っていたの。苦しんだり悲しんだりする人を助けられるのはやっぱり人だと思うから、僕は空くんを助けたいって。」

ずっと後になって、お母さんが教えてくれました。


もう一度お兄ちゃんに会いたくて、寂しくて、こっそり泣いた事もたくさんありました。

でも、お母さんから話を聞いたその日から、空くんはもう泣かないと決めました。



何十通も書いた手紙がお兄ちゃんに届く事はありません。

切手を貼ってもポストに入れても、お兄ちゃんには届きません。

それでも手紙を書けば、少しだけお兄ちゃんに届く気がしました。

「おにいちゃんはぼくのえいえんのヒーローです。ぼくはこのみぎめにはずかしくないひとにぜったいなります。おにいちゃんみたいに、やさしくてつよいヒーローになって、こんどはぼくがだれかをたすけます!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ