7 勇者になれない
「いやー!来ないで!」
「あっちいけ!化け物!」
広場はみんなの泣き声と悲鳴でいっぱいだった。
積った雪がジャマをして、みんなうまく走れないみたいだった。
銅像のお化けはおかっぱの女の子だった。
銅像が人間みたいに動いているだけでこわかった。
銅像のお化けは、雪や風をあやつってみんなをこわがらせながら、歩いて一人ずつつかまえようとしているみたいだった。
銅像のお化けが達也君にせまった。
達也君は大きい木の枝をふり回して、銅像のお化けと戦おうとしていた。
達也君のふるった木の枝が銅像のお化けに当たった。
木の枝が折れた。
銅像のお化けは、動けなくなってしまった達也君に手をのばした。
あぶない!
「バーン!」
ぼくはとっさに指てっぽうをうった。
指てっぽうから白い光が飛んだ。
銅像のお化けに命中した。
キャアアアと銅像のお化けは悲鳴をあげた。
達也君がびっくりした顔でぼくを見た。
「おまえ、雪雄か!」
ぼくは枯れ葉の上で首をたてにふった。
夢と思っても、達也君と話すのはちょっとこわかった。
「いやー!こないで!」
クラスメイトの理香さんの悲鳴が聞こえた。
ハッとしてそちらを見ると、こんどは、銅像のお化けが理香さんにおそいかかっていた。
「あっちへ!」
ぼくが言うと、枯れ葉はスーッと動いて理香さんのほうへ行った。
「バーン!」
ぼくの指てっぽうは、また銅像のお化けに命中した。
キャアアアと銅像のお化けはさけび、また別のところへ走っていった。
そういうことを何度かくりかえしたけど、きりがないみたいだった。
「ちょっと、雪雄!あんたなんとかできるなら、なんとかしてよ!」
気の強い真美さんが泣きながら言ってきた。
ぼくはちょっとムッとした。
「そうだよ!もうこんなこわいのヤダ!雪雄君、早くたおしてよ!」
真美さんと仲のいい理香さんまで言ってきた。
そんなこと言われても。
えっと。
「あの、みんなの心がひとつにならないと、えっと、たおせないので」
「ふざけてんじゃねえ!グダグダ言ってねえで、さっさと一人で行けよ!おまえがやらねえなら、おれがやるから、その乗り物よこせ!」
ぼくは達也君につきとばされて、枯れ葉から落ちた。
雪に受け止められて、いたくはなかったけど、冷たかった。
やけにリアルな夢だ。
達也君が乗っても、枯れ葉はぜんぜん動かなかった。
ぼくの夢だからね。そりゃ、そういうものなんだろう。
「くそ!おれじゃだめか。おい!雪雄!おまえ、さっさとやれよ!」
達也君が枯れ葉から下りて、ぼくを引っぱった。
なんだか、やな感じだった。
「なんかおかしいよね、雪雄だけ」
「だいたい、こんな化け物、なんで出てきたんだ?」
「もしかして、雪雄のせいなんじゃない?いっつも何考えてるか分かんないし」
気がつくと、ぼくのまわりに助けたみんなが集まってきていた。
みんな責めるようなこわい目つきでぼくを見ている。
こういうのも、みんなの心がひとつになったって言うのかな。
右手の白い石は、まったく光っていなかった。
ぼくの心は、今、真っ黒だ。
白く光るわけがない。
こんな夢、おもしろくない。
みんなの輪に入れないぼく。
とうとう夢の中でも、そんなぼくになってしまった。
すごい力をもっていて、目立ってもこれだ。
ぼくは、とことんダメなやつだ。
もうやだ。
魔王になろうか。
銅像のお化けといっしょになって、全部、滅ぼしてしまおうか。