6 公園のお化け
バスタオルは中央公園に飛んだ。
いつものせまい広場の上に来た。
「みんな」
ぼくはおどろいた。
いつもドッジボールの練習をしている7人が、広場のすみっこにかたまって座っていた。
泣いている人もいる。
こわがっている人もいる。
葵君が言った。
「みんな、公園のお化けにつかまってしまったんだ」
「何それ」
葵君が指さした。
よく見ると、広場のまん中にいる銅像の女の子が、いつものポーズをしていなかった。
台にすわって、足をブラブラさせていた。
「何あれ」
「この世に生れて長い時間がたつと、いろんなものがお化けになる。この広場もお化けになった。そして、あの銅像にとりついた」
「ええ!」
「銅像のお化けは、広場で遊んでいる子どもたちを見つけて、いっしょに遊びたくなった。そして、そのままあの世につれて行こうとしてる。分かるだろ?あの銅像のお化けは、悪いお化けだ」
「どうしよう!」
ぼくはアワアワした。
どうしていいかぜんぜん分からなかった。
雪がどんどん降ってきて、うそみたいに積ってきた。
銅像の女の子が右手を上に上げた。
女の子の手の上で雪と風がぐるぐる回った。
女の子が右手をみんなに向けた。
雪と風がみんなをおそった。
悲鳴をあげて、みんなはバラバラに走った。
広場から出ようとする人もいたけど、外には行けないようだった。
「どうしたらいいの!葵君!」
「悪いお化けは、まとまっている人の心が苦手だ。今、みんなはこわくてバラバラになっている。」
「それで?」
「あの中にいる子たちは、にげるだけで精いっぱいだ。どうしたらみんながまとまるのかなんて、考えることはできない。そして、あの中に入ることができるのは、お化けが呼んでいる子どもだけだ」
葵君はネコみたいな不思議な目でぼくをまっすぐ見た。
「おれはあそこに入れない。雪雄だけは入れる。みんなを助けられるのは、雪雄しかいない」
ドキドキした。
「ぼくはどうしたらいいの?」
「この白い石のお化けは、いっしょに遊んだ雪雄に味方する。この石を中指、薬指、小指でにぎって、指てっぽうをするんだ。白い石のお化けがタマになって飛んでいく。銅像のお化けに当たれば、ダメージをあたえられる」
「それでやっつけられるの?」
「それだけじゃたりない。子どもたちみんなの力をひとつにしないとたおせない。みんなの心がひとつになると、この石は美しくかがやく。そのとき、この石を雪玉の真ん中に入れて、銅像のお化け目がけて投げるんだ。それがとどめの必殺技になる」
葵君は、ぼくの手に白い石を乗せた。
「がんばれ、雪雄」
「どうやってみんなの心をひとつにしたらいいの?」
「これは雪雄の夢だ。思ったとおりにやってごらん」
葵君はやさしくわらった。
なんだか、勇気が出てきた。
そうか、夢か。じゃあ、なんでもやってみるか。
「がんばってみる」
「おうえんしてる」
葵君がパンパンと手をたたいた。
葵君の手の中に、枯れ葉が1枚出てきた。
葵君が枯れ葉を投げると、枯れ葉は大きくなった。
「さあ、乗って。この枯れ葉が雪雄をみんなのところにつれていくよ」
カサカサしていて軽そうなのに、枯れ葉は風に飛ばされることなくフワフワ浮かんでいた。
ぼくはバスタオルから、一人で枯れ葉に乗り移った。
ぼく一人が乗るのに、ちょうどいい大きさだった。
「いっておいで」
葵君が言うと、枯れ葉はスイーッと動き始めた。
そして、ぼくを銅像の広場へと運んで行った。