5 出発
コンコンコン
ベッドの中で丸くなっていたら、何かをたたく音がした。
いきなりだったから、ドキッとした。
コンコンコン
また、音がした。
おそるおそるフトンの中から顔を出してみた。
音は、カーテンの後ろ、窓からしたみたいだ。
コンコンコン
ぼくはこわくなった。
ぼくの部屋は2階にある。
2階の窓の外から、だれかが窓をたたいているんだ。
コンコン
「雪雄。いるんだろ?葵だよ」
ぼくはびっくりしてベッドから飛び起きた。
勉強つくえの後ろにあるカーテンを、いそいで開けてみた。
本当に葵君だった。
半分、白くくもった窓の外で、葵君が手をふっていた。
ふわふわ浮かぶ白いバスタオルみたいな布の上に、あぐらをかいて座っていた。
ぼくはポカンとしてしまった。
葵君は不思議すぎる。
葵君が窓のカギを指でさした。
ぼくはあわててカギをはずして、窓を開けた。
冷たい風が入ってきた。
寒い。
「葵君!どうしたの?」
「大変なんだ。助けてよ、雪雄」
葵君はこまったような顔をしていた。
ぼくもこまった。
「ぼくには何もできないよ」
「雪雄にしかできない。助けて」
何のことか分からない。
葵君はまっすぐぼくに手をのばしてきた。
「行こう、雪雄」
「パジャマだし」
「パジャマじゃない」
ん?
ぼくはびっくりした。
いつのまにかぼくは、外遊びをするときのかっこうになっていた。
くつもはいてる。
「さあ、行こう」
「これ、夢?」
「そうだよ。雪雄の夢だし、だれかの夢だ」
夢か。
夢ならいいかと思った。
葵君にきらわれてないのも分かって、すごくほっとした。
ぼくは勉強つくえに上って、葵君の手をつかんだ。
葵君の手はあったかかった。
「さあ、いっしょに行こう」
葵君に手をひかれて、ふわふわ空中に浮かぶ白いバスタオルに乗った。
こわいから、葵君のダウンのコートのせなかにくっついた。
「出発!」
電車ごっこみたいだと思った。
たてに長いバスタオルの前に葵君。後ろにぼく。
運転手とお客さん。
雪が降ってきた。
そんな空を、ビューンと飛んだ。
こわいけど、おもしろい。
こわいだけの現実より、夢のほうがずっといい。