3 また一人になる
金曜日。また、同じだった。
ドッジボールの練習の後、一人で遊んでたら、葵君がやってきた。
ぼくはワクワクした。
昨日までと同じように、たくさん遊んだ。
二人とも、ヒトダマをたくさんうった後、葵君が、思いついたみたいにぼくに聞いてきた。
「おそくまで公園にいて、怒られないの?」
「お父さんもお母さんも仕事がいそがしいから。やることやれば、なにも言わない」
「友だちと遊ばないの?」
「べつに。どっちでもいいけど、めんどくさい」
「そういえば、雪雄はどうして魔王になるの?」
「ぶっこわすのが楽しいから」
葵君は、ふーんと言った。
ぼくは、息が苦しくなった。
すごくイヤなことを聞かれたと思った。
思わず、葵君に向けて、指てっぽうをうってしまった。
そしたら、ヒトダマが自分で飛んできて、葵君をかばうみたいにして、はじけて消えた。
葵君は目をまん丸にしていた。
ぼくはなんだか悲しくなった。
ぼくは、葵君を置いてきぼりにして、走って家に帰った。
うちのクラスは団結力がある。
リーダー太郎君のおかげだ。
去年の合唱コンクールも優勝した。
女子は感動して泣いてて、男子もうれしそうだった。
ぼくは、気持ちがプカプカしていて、そこにいないみたいだった。
だれにも声をかけられなかった。
自分から話しかけたい人もいなかった。
ぼくは、みんなとひとつになれなかった。
お父さんとお母さんは、いっしょうけんめい働いている。
本人たちがそう言ってた。
よけいな手間をかけさせるなと言われる。
ぼくは、怒られるのはこわいから、怒られないように静かにしてる。
不器用なんだと思う。
ぼくは、自分の居場所をうまく作れない。
そういうのがへたくそだから、せっかくの楽しいことも、ダメにしてしまう。
そんな自分を知るたびに、イライラする。
頭がいたくなる。
ゲームは1日40分以上できないように親が設定してる。
そんなのすぐ終わる。
空想の中で、魔王になるのは自由だった。
魔王になっているときだけ、ぼくは幸せだった。
土日、ぼくは落ちつかなかった。
月曜日、ドッジボールの練習の後、ぼくはいつも通り一人で遊んでいた。
葵君が来てくれることを期待していた。
だから、いつもは出さないような大きな声が出てた。
「ファイアートルネード!」
大きな木に向かって両手をのばして、ワザを出したときだった。
「まだいたのか雪雄」
「うわ、なにやってんの。おまえ、まだそんな遊びしてんの?」
クラスのリーダー太郎君と、スポーツ万能の達也君だった。
見られた。
体中が熱くなった。
顔も真っ赤だ。
はずかしくて死にそうだった。
太郎君がまじめな顔で言った。
「達也、そんな言い方すんなよ。雪雄、俺たち、てぶくろわすれて取りに来たんだ」
「魔王伝グレートエースのぱくりだろ?うちの幼稚園の弟がやってるぞ」
「達也」
「はいはい。お、てぶくろあった。じゃあな」
「雪雄もいっしょに帰る?」
太郎君がてぶくろを手にはめながら、ぼくに聞いてきた。
ぼくは首を横にふった。
達也君はさっさとてぶくろをして、帰りはじめていた。そうしてくれたほうがよかった。
太郎君は手をふった。
「じゃあまた明日」
太郎君たちが帰っていった。
ぼくは公園で一人になった。
もう魔王にはなれなかった。
見られてしまって、はずかしくて、どう思われるかこわくて、そんな気持ちになれなかったからだ。