14 夢の先
1ヶ月後、ドッジボール大会が開かれた。
ぼくのクラスはものすごく団結した。
決勝戦で負けた。
みんなで泣いた。
ぼくも泣いた。
すごく悔しかった。
その日のお母さんとの交換日記に、悔しい気持ちをたくさん書いた。
お母さんからの返事は、雪雄が思ってることを教えてくれてうれしい、という変なものだった。
そろそろこっちも思春期なので、そういうのはやめてほしい。
なんだか、背中がむずむずした。
「昨日の魔王伝、見た?あのスペルカード、俺、持ってるんだ」
「うそ!見せて!」
「じゃーん!出でよ!ブレイドロードディスティニー!」
「すごい!キラレアカードだ!」
ぼくは、太郎君の部屋で魔王伝グレートエースのグッズを見せ合っていた。
今まで一人でこっそりやっていたことを、大っぴらに話せるのがうれしくて楽しくてしょうがない。
ぼくは、太郎君って、すごく大人っぽい子だと思っていた。
でも、魔王伝の話をするときの太郎君は、ぼくが言うのもなんだけど、すっごいガキっぽかった。
太郎君、こんなわらい方するんだと知って、うれしくなった。
太郎君、こんなことでムキになってプンプンするんだと知っても、うれしくなった。
太郎君とぼくは同じ中学に行く。
中学校でも魔王伝仲間だ、とかたくちかいあっている。
外が暗くなってきた。
そろそろ帰らないとダメかなと思って、太郎君の部屋の窓から外を見たときだった。
「あ」
葵君だ。
葵君が、バスタオルに乗って向こうの空を飛んでいた。
一人じゃなくて、髪の長いお姉さんもいっしょにバスタオルに乗っているみたいだった。
「太郎君、あれ見て」
ぼくが太郎君に声をかけてから、また窓の外を見たときには、もうだれもいなかった。
「どうしたの雪雄?」
「ごめん。何でもない。見間違い」
本当に見間違いの気がしてきた。
葵君ってぼくの夢だよね。
たぶん、夢だよね。
ぼくは、太郎君の家から帰るしたくをしながら、なんとなく思っていた。
助けてくれてありがとう。
どうしてかな。
葵君だけにじゃなくて。
なんかこう、世界中に。
なんでかな。
ぼくには、そう思えてならなかった。
そう思わずにいられなかったんだ。
おわり
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけましたら、とてもうれしいです。