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13 冬の公園の声

 ある日、公園に意識が芽生えた。

 最初はぼんやりとしたものだった。

 自分がここにいて、何かを見ているという感覚だった。


 大きな公園全体ではなく、その中の小さな広場だけが、意識の見渡せる範囲だった。

 本当は、公園の意識というより、小さな広場の意識といったほうが正しいのかもしれない。


 しかし、意識は、自分は公園だと思っていた。



 



 公園は、数年前から、男の子が一人遊びをするのを見てきた。


 雪雄という名前だった。


 雪雄は世界を破壊しつくして、終わりにしたいと願っていた。

 数年間、変わることなくずっとそうだった。



 公園はそんな雪雄を見守っていた。



 だんだん公園は、はっきりとものを考えられるようになってきた。

 いろいろな物事がもっと分かるようになってきた。




 雪雄が友達とドッジボールをしている。


 しかし、全然楽しそうじゃない。

 他の子どもたちも、一見、はしゃいでいるようなのだが、よく見ると表情が暗い。


 女の子たちは、こそこそと皮肉な視線を向け合っている。

 男の子たちは、なんだかイライラしていて乱暴だ。

 まじめそうで疲れきっている子どももいる。




 公園は雪雄のことを長い間、心配していた。

 そうなのだ。

 公園は、ぼんやりと見ている間も心配だったのだ。

 はっきりと自覚した。


 他の子どもたちのことも心配になった。



 公園は子どもが遊ぶ場所だ。

 その遊びに、喜びも幸せも見えてこないなんて。

 息苦しいという子どもの心の声ばかり聞こえてくるなんて。



 今日明日、生きる死ぬということのない世界のはずなのに、なぜ公園で遊ぶ子どもたちがこんなにギスギスしているんだろう。


 この子どもたちが大人になる。

 この息苦しさを背負って大人になり、一体どんな世界を作ろうというのか。


 雪雄など、この世界を滅ぼしてしまいたいと願い続けている。




 公園は、子どもたちが心から楽しく遊ぶ姿が見たかった。

 自分の苦しさしか見えていないような子どもたちの世界を変えたかった。



 公園は、なんとかしたいと強く願った。

 

 





「聞こえたよ」







 サラサラの茶色の髪と猫のような瞳をもつ、高校生くらいの男の子が広場の銅像の前に立っていた。


「おれはお化け屋の葵。あなたの心からの願いに呼ばれてきた」


 葵は、銅像を介して、公園に話しかけてきたのだった。






 公園は考えていた。

 子どもたちに、本当の仲間になる機会を与えたいと。

 一人ではない、信頼できる関係ができれば、心が支えられるのだということを知ってほしかった。


 その関係を知れば、自ずと世界は変わる。





 公園は、葵の力を借りて、子どもたちみんなの敵になることにした。

 敵である自分を打ち倒すために、子どもたちが心をひとつにしてくれたら。


 共通の目標は、何よりも人をまとめ上げる。

 それが憎い敵を倒すということなら、短い時間でも強烈に心がつながるはずだ。




「分かった。協力しよう。でも、対価として、これが終わったら、あなたをおれにください」


 公園は、葵の申し出に同意した。







 公園はやりとげた。







 力を使い果たした。

 考える意識も薄らいでいくようだった。


 公園は思った。


 かつて自分は、人だったのかもしれない。

 何か心残りがあって、だからこそこれほどまでに、雪雄たちに入れ込んでしまったのかもしれない。


 自分が公園のお化けになったのは、雪雄の苦しい声が響いてきたからだ。

 雪雄を始めとする子どもたちの心のささくれは、きっと人であった時、自分にも身におぼえのあったことなのだろう。


 子どもたちをどうしても助けたかった。






「雪雄たちを見てきたよ。みんなの心はつながっていた。あなたの志は果たされた」






 葵が訪れて、その後の子どもたちの様子を教えてくれた。

 公園は満足した。




 公園の意識はどんどん薄らいでいった。


 葵の声が聞こえた。





「あなたのやさしさは、おれが知っている。おれが全部、見届けた」





 公園はうれしかった。

 最後の最後にとてもうれしかった。

 自分はもう自分ではなくなるけれど、消えてなくなることに納得できた。










 白い光が、小さな白い石に吸い込まれていった。




 葵は、手のひらの上の小さな石をぎゅっと握った。

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