12 夢からさめて
金曜日の朝、ぼくは高熱を出した。
でも、ぼくだけじゃなかった。
クラスの半分が高熱を出した。
インフルエンザだった。
学級閉鎖になって、ドッジボール大会は1カ月延期になった。
お父さんとお母さんは、病気のぼくにやさしかった。
ぼくが回復してくると、お母さんは新しいノートを買ってきた。
交換日記をしようと言われた。
最初のページにお母さんからのメッセージがあった。
いっぱい話そう。
そう書かれていた。
めんどうくさいけど、なんかくすぐったいけど、つきあうことにした。
学級閉鎖が終わって、みんなで登校した。
ぼくの頭はいたくならなかった。
あれはやっぱり夢だったみたいで、だれも銅像のお化けのことは言わなかった。
みんなのようすは変わらなかった。
「おはよう雪雄」
「!おはよう」
いや、ちょっとだけ、変わったことがある。
あいさつされるようになった。
それ以上、何ってことはない気がするけど、ぼくだけじゃなく、みんなあいさつしあうようになった感じだ。
どうってことじゃないんだけど。
うん。
悪い感じじゃなかった。
「ちょっと、雪雄、いい?」
太郎君だった。
こっそり廊下で声をかけられた。
はじめてのことだ。
太郎君はひかえめな声で言った。
「魔王伝グレートエース、実はおれも好きなんだ」
びっくりした。
なんの話かと思ったら。
「フィギュアも持ってるし、カードもけっこうそろってる」
「え、本当?ぼくもけっこう持ってるよ」
「今度、うちに遊びに来ない?」
びっくりたまげた。
太郎君の家にさそわれた。
ぼくは真っ赤になって首をたてにふりまくった。
太郎君がほっとしたようにわらった。
「この年でも好きって、言いにくくてさ」
太郎君にも言いにくいことがあるのかとおどろいた。
気がついたら、ぼくは前よりも人とつながっていた。
そしたら、ぼくの中の魔王はおとなしくなった。
どっちかっていうと魔王派だったのに、主人公の勇者エースも悪くないと思うようになった。
魔王は相変わらず好きだし、ぼくの中にはずっといるのだけれど。
頭のいたみがなくなって、ぼくはすごく楽になった。
ぼくはだれかといっしょにわらうことがふえた。
お化け屋の葵君が、ぼくに会いにくることはもうなかった。