1 一人の公園
夕方の5時。
冬の公園はこがらしがぴゅうぴゅうと吹いて、寒かった。
ぼくはブルッとふるえた。
「バイバイ!」
「また明日!」
小学校のドッジボール大会が来週の金曜日にある。
6年A組のリーダー太郎君が、塾や習い事のない7人に声をかけた。
合計8人。
小学校生活最後のドッジボール大会で優勝するため、学校が終わった後に練習しようと太郎君が誘った。
それで、公園に集まった。
今、練習が終わったところだ。
場所は、町で一番大きな中央公園だ。
きれいで大きいほうの広場は、サッカーと野球をする人たちがいつも使っている。
だから、木に囲まれた、せまくて古いほうの広場で、ぼくたちはドッジボールの練習をしていた。
おどってるみたいな女の子の銅像が、その広場のまん中にある。
オニゴッコのときは、にげるのに便利だからあるほうがいいけれど、ドッジボールのときはジャマだなあと思った。
ぼくは、この練習にただなんとなく参加していた。
誘いを断ることも、うまくできなかったから。
みんなは勝利をめざして燃えているみたいだったけど。
ぼくはみんなとちがっていた。
ドッジボールのことだけでなく、ぼくはみんなと『同じ感じ』になれないことが、けっこうたくさんあった。
練習しているうちに、暗くなってきた。
家に帰りなさいと知らせるチャイムも無視して練習していたけれど、いよいよ帰ることになった。
「寒い!」
「カゼひくなよ!じゃあな!」
みんなどんどん帰って行った。
クラスのリーダー太郎君がぼくを見た。
「あれ?雪雄は帰らないの?」
「うん。もうちょっとしたら帰る」
「ふーん。じゃあな!」
さすがは太郎君。
みんなはたぶんぼくのことを、忘れている。
ぼくは目立たないから。
ドッジボールもへた。チビだし。力も弱いし。
でも、目立たないからドッジボールでも相手のチームにねらってもらえなくて、最後の一人に残ってしまうことがある。
もちろん、そこで活やくすることはなくて、すぐにやられるから特に意味はない。
太郎君が帰ると、ぼくは一人になった。
ぼくは一人になると、みんながいた時より元気になった。
このせまい広場のいいところは、子どもに人気がないところだ。
月曜日から、このドッジボールの練習が始まった。
ぼくは水曜日の今日まで、公園に残って一人で遊んでいた。
じつは昔から、この広場でよく一人で遊んでいる。
なれっこなのだ。
ここからはぼくの時間だ。
ウキウキしてきた。
レーザー光線発射!
よくねらうのだ、よし、今だ!
敵をやっつけた!
ぼくは公園を照らす灯りの下で、まっくろに見える木に手をのばした。
ぼくの手からは目には見えない光線が出ている。
出ているったら出ている。
ぼくは、魔王。
今、ぼくは、世界を破滅させようとしている。
なに!また勇者が来ただと!
ふん、おろか者め!
くらえ!サイキックトルネード!
すべて滅びよ!
ぼくは何度も練習しているポーズをばっちりきめた。
きまったからには、すごいワザが出てる。
出てるったら出てる。
すごくすっきりした。
「うおお!やられた!」
まっくろな木がとつぜんしゃべった。
ぼくはびっくりして、心臓が止まりそうになった。
なんと木のうしろから人が出てきた。
だれもいないと思っていたのに。
出てきたのは黒いダウンのコートを着た、高校生くらいのお兄さんだった。
茶色い髪のお兄さんは、ネコみたいな形の目をしていた。
お兄さんがわらって言った。
「おもしろいね。いっしょに遊んでいい?」