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二章 五話


「そっち行ったよ!!」

「おう! 任せろ!!」

「よし、これで……三匹め!!」


 飛び掛かってきたグレイウルフを間一髪で避けながら、危なげながらも何度か斬りかかって息の根を止める。なんとか倒したグレイウルフを見下ろしながら、茶髪の少年は一息を吐く。

 この場所でグレイウルフの討伐を目的とした散策を始めてから既に2時間は経過しており、その成果はあまり良くない。現状で三匹、事前に得た情報では群れを成しているとのことだったが、これまでに見かけたのは全て単独でうろついているものばかり。

 こうなってくると、依頼にあった群れ自体が誤報である可能性も出てくる。それならそれで楽でいいのだが、どうやら三人の半人前冒険者たちには遣り甲斐に乏しかったのか、少年達が奥に行くことを提案してくる。が、彼らの力量を考えてか、マルシアはその提案をやんわりと却下する。正直なところ、一刀も時間はかかるがこの周辺で索敵を行った方がいいとは思っていた。少年達の実力で、先日のオークの様な相手に接敵すればどうなるか、火を見るよりも明らかだ。あの時の事を忘れているわけではないだろうが、遭遇はともかく敵の撃破そのものは順調な為か、一時的な興奮状態に陥っている可能性が高い。

 とはいっても、これまでの戦闘に関してはマルシアと一刀がそこはかとなくフォローしていた事もあって、彼らの純粋な実力とは言い難い。それ故にマルシアも彼らの提案に対してはあまり積極的ではないのだが……。


「やっぱりもっと奥に行くべきですよ」

「そうですよ。こんなところで待ってても、敵なんて来ませんよ」

「う~ん、でもねぇ……」


 渋るマルシアをなんとか動かそうと、少年たちは言葉を並べる。流石にそろそろ一人でのらりくらりとかわす事が難しくなってきたのか、後ろで傍観していた一刀に視線を向ける。


「どうしようか?」


 全却下、とはいかないでもそれなりに彼らの主張を押しのける程度の要素が欲しい、と言いたげなマルシアの視線に、一刀は意にも介さず言い放つ。


「いいんじゃない?」

「え? ちょっと、本気で言ってるの?」

「いいじゃない、行きたいって言ってるんだから。別にそれを無理やり否定する気はないよ。ただし、もしも何かあっても俺は知らないけどね」

「む……、それはちょっと無責任じゃないですか?」


 やはりというか、一刀の口から出た言葉は彼らの行動を否定するものではなかったが、その後半は彼らの行いに一切の責任を持たないという一言に、少年の一人が苦言を漏らす。


「おや、なんでかな? 俺は別に君らの保護者じゃないよ。それに、自分たちの都合に合わせて貰っているのに、いざという時の責任を丸投げしてるようじゃあたかが知れてるからねぇ」

「ぐ……」

「言っとくけど、また君らがあのオークとやらに襲われても、もう助けないよ? それに……」


 唐突に、一刀は腿に巻いているバンドから短剣を引き抜くと、それを二人の少年が並んでいるその間目がけて投擲した。

 ザシュッ、と少年達の背後から聞こえた音に、二人は恐る恐る背後を振り向く。彼らの視線の先にあったのは、眉間に短剣が突き刺さったグレイウルフだった。


「何があるか分からないんだ。常に周囲には気を付けてないと、次はどうなる分からないよ?」


 短剣を引き抜きながら、薄く笑みを浮かべる一刀。その表情にはどのような意味が含まれているのか……、少なくとも好意的なものではあるまい。


「……とりあえず、ノルマはあと一匹だね。さっさと見つけて戻ろうか」


 場を切り替えるかのように、マルシアが手を叩きながら言う。


「早くしないと帰る頃には日が暮れそうだからねぇ……。あと一匹は好きにやりなよ。奥に行くのもいいし、この付近で探してもいいでしょ」

「まぁ、そうだね……。任せてみるのもいいかな。出来る限りは私達の目の届く所にいてほしいけどね」

「分かりました。すぐに終わらせるので待っていて下さい」

「頑張ってね~」

「はい!」


 元気良く答えたのは少女の方だ。少女は少年達の背中を押しながら周辺の散策へと戻る。


「大丈夫かな……」

「あんだけ大口叩いたんだ。むしろ、この程度でフォローがいるようじゃあ、この先どう足掻いたって一人前にはなれないよ」

「そうなんだけどさぁ……」


 心配そうな表情を浮かべて少女達の背中を視線で追うマルシア。そんな彼女に冷たい言葉をかける一刀はと言うと、少女達が消えていった方向とは正反対の方を見ていた。


「どうかしたの?」

「……うんにゃ、なんでもないさ」

「それならいいんだけど……」


 マルシアの言葉に向き直った一刀は、特に何かを気にした様子もなく、少女たちが消えた森の方を眺めている。

 が、その瞳に先ほどまでの楽観さは無く、獲物を狙う肉食獣のような光を灯していた。


 夜。昼までさえ鬱蒼とした雰囲気を醸し出している森は、夜になると一層その暗く、深い雰囲気が強調される。夜の闇に目が慣れた者でさえ、その中を歩むには類稀なる勘か、もしくは付近の地理を熟知している必要があるだろう。

 そんな暗黒の森を、一人の少年が歩いている。足元に転がった石や、そこら中に張り巡らされた根に意も介さず、まるで視界の外で見えているかのようにその歩みは留まる事を知らない。

 やがて、少年はとある場所で立ち止まり、その足元に広がっているある物に目を向ける。


「これか……」


 その視線が向けられたのは、木の根の周りに散らかされていた何らかの生き物の死骸。明らかに自然死したとは思えない形、少年―一刀はその残骸を見た瞬間にこの場で何があったのかを悟る。


「食い散らかされた跡、だねぇ……、どう見ても」


 何らかの大型動物にでも喰われたのか? いや、この死骸自体、それなりに大きな動物と推測出来る。例えば、昼間探していたグレイウルフ程度には。

 そうなると、喰った方はかなり巨大な魔獣か、もしくはある程度の知性を持った生物かと思われる。前者であれば、さして問題は無いものの、後者であった場合、多少面倒になりそうな事を覚悟しながらも、その目を木の向こう、真っ暗な闇の中へと向ける。


「鬼が出るか、蛇が出るか……。個人的には鬼とやりあってみたいもんだがね」


 むしろ、鬼が泣いて逃げ去る程の暴れっぷりをかつて行っている一刀にしてみれば、どれだけ持つか試してみたい、という好奇心の方が勝っていると思われるが……。

 昼間のグレイウルフだけでは物足りなかったのか、その足取りはどことなく軽いものがある。ちょっとそこまで買い物に行ってくる、とでも言いたげなものだが、その実この森の中は魔獣が蔓延る巣窟である。その中に迷い込んできたモノは例外なく魔獣達の餌食になる、のだが……。


「さっきからなあんにも出てこないなぁ……」


 この森に入ってから一時間は経つだろうか。日は変わっていないが、それでも変わるまでそう時間があるとは思えない。

 可能ならば、さっさと終わらせたいものではあるが、いかんせん目標が見つからない。

 ここで言う目標とは、昼間の内にグレイウルフを追いかけ回していた際、一刀が感じた妙な視線の事だ。

 始めは腹を空かせた野生動物にでも狙われているのかと思っていたが、一刀が殺気を飛ばしてみても消える事はなく、しばらくその視線は一刀達の方を向いていた。

 明確な殺意のようなものは感じられなかったが、敵意は少なからずあったため、おそらくは知性のある魔獣の一種だろう。挙げられるものとしては、先日のオークや魔獣の代名詞でもあるゴブリン等が挙げられるが、姿を見ていない以上は断定できない。

 故に、こうして夜も更けた時刻に、一人で森の中をうろついているのだが、いかんせん目的の相手はおろか、獣にすら出会わない。こうなると、異様である以上に異変であると言える。

 昼間の視線が絡んでいる……、そうはっきりと言えれば楽なのだろうが、確信が持てない以上、決めつけるのは早計だろう。先ほどまで軽かった一刀の足取りも、変わることは無いがそれでもどこか慎重さが感じられる。

 出来る限りの隠行を駆使しながら進んだおかげか、ようやく一刀は目当ての物と思しき”モノ”を発見する。


「GU……RRRRRRR……」

「なんだ、ありゃ……」


 一刀から約十メートル程離れ、少し開けた空き地の様な場所、その中央には高さが三メートル程もある大きな岩がある。その根元で寝転び、大きないびきをかいているのは、オークよりも一回り大きな赤い体を持ち、頭に二本の角が生えた人型の魔物。


「さしずめ、赤鬼ってところかな?」


 丸太のような大きな四肢は、おそらく一般人であれば振り抜かれただけでミンチになりそうなものだ。一刀としても、それだけは避けたいところである。


「さて、どうするか……」


 昼間の視線は予想ではあるがこの赤鬼のものだろう。だとするなら、あの場で仕掛けてこなかったことには若干の疑問は残るものの、今ここでコイツを始末しておかなければ十中八九、村の方へと向かうだろう。阿鼻叫喚、地獄絵図となるのは必至だ。

 図体的にはヴァルヴィルドよりも大きいものの、どれほどの知能があるかわ分からないし、更に言うと魔法を使うかどうかすらも不明だ。意識のあるうちに相手をしたいとは思えない。……普通なら、だが。


「起こすか」


 ここに約一名、それを良しとしない者がいる。全世界を相手に大立ち回りを演じた大馬鹿者が。

 一刀は音も無く寝転んでいる赤鬼に近づくと、枕元に立っていつの間に持っていたのか、鞘に収まったままの刀の先端を赤鬼の頭部へと近づけ、そして……


「ほいっとな」


 バコン! と、盛大な音と共に刀を振り抜いた。

 頭に走った強烈な衝撃に、赤鬼は思わずその場から飛び起き、傍らに置いてあった斬ると言うよりは叩くと言った使い方をしそうな大振りな段平を掴む。

 普通であれば、首が吹き飛びそうな勢いで刀が振られたはずだが、赤鬼の首は繋がってるだけではなく、どうやら意識もはっきりしているらしく。刀を振り抜いた格好で止まっている一刀に視線を向ける。


「おや? 少なくとも気絶するくらいの勢いはあったと思うんだがねぇ……。やっぱり弱体化の影響が強いのかなぁ?」


 そんな赤鬼の視線もどこ吹く風。一刀は刀を持っていた手のひらを見つめ、その場で握っては開き、握っては開きを繰り返す。感触を確かめているのだろうか?


「GURRRRRAAAAAAAA!!」


 だが、当り前の事だが、赤鬼はそうやっておどけている一刀を黙って見ている程甘いくはない。周囲の木々がなぎ倒されかねないくらいの衝撃を伴った咆哮を発し、凄まじい形相で一刀を睨みつける。まさに殺す為に開いている、とでも言いたげな目は殺意の塊を容赦なく一刀へと向けてくるも、殺意の奔流に晒されている本人の顔色は変わらない。

 むしろ、その口には笑みすら浮かんでいる。


「GUUUUUUUUU……」


 段平を構えるなどといったことはしない。知能が低いからなのか、それともどんな体勢からでも一撃必殺の攻撃を出すことが出来るのかは分からない。ただ低く唸りを挙げるその姿は、一見すると構えはおろか刀を抜きすらしていない一刀を警戒しているようにも見える。

 脳まで筋肉でできている。多少力が強いだけでそう馬鹿にされる人間というのは、大概力で解決を行おうとするために、そういった謂われを受ける者も少なくはない。

 が、そういった力で解決しようとする者達が知恵を武器にするとどうなるか。答えは単純だ、手が付けられなくなる。


「RUOOOOOOOOOO」


 咆哮。凄まじい勢いを伴って衝撃波が一刀を襲う。不意を突く形で放たれた音の暴風に対し、咄嗟に顔をかばう。それはほんの数秒とは言え、確実に一刀の視界を塞ぐには十分な時間だった。

 次に目を開けた瞬間、一刀は逡巡する。目の前には既に赤鬼の巨体が肉薄しており、最上段から段平を振り下ろそうとしている光景が映ったからだ。

 防ぐか、かわすか。

 その場を大きく蹴り、一刀は横に飛び退いた。と、同時に、先ほどまで立っていた場所にまるで砲撃でもしたかのようなクレーターが出来あがる。飛来する小石や土片から顔を守り、即座に態勢を立て直す。


「GUUUUUU……」

「うわぁ……、なんじゃそりゃ……」


 結果として、防御を選択しなくてよかったと言うべきか。その場に出来たクレーターから、単純な力だけなら先日やり合ったヴァルヴィルドよりも上だろう。

また、一刀が衝撃波を防ぐために視界を塞いだ瞬間を隙と判断するなど、おそらくは知能自体も低くない。単純な脳筋だと侮っていたら、最初に一撃でやられていただろう。段平の威力も、無視は出来ない。防御をすれば容易に持っていかれることが目に見えている。


「全く、無茶苦茶なもんだ。これだから人外ってのは……。でも、まぁ」


 横薙ぎに振るわれた段平を姿勢を低くして避ける。と、同時にそのまま赤鬼の巨体の脇をすり抜け、背後に回った。


「楽しいのは、否定しないけどね」


 抜身の宗近を地面すれすれの位置から一気に冗談へと振り抜いた……いや、振り抜けてはいなかった。左脇から斬りこまれた刀身を止めたのは、凄まじく隆起した筋肉の塊だ。刀の基本である、引き斬る余裕すら与えられずまるで岩の手のひらで握りこまれたようにぴたりと止められてしまった。

 過去には鋼すら両断する程の腕を持っていた一刀だったが、この弱体化した体でかつての剣閃を繰り出す事は難しく、現に今剣を止められるという屈辱を受けている。

 そのまま無理やり斬ることも難しくはないが、その場合秘蔵の一本が見るも無残な姿になることは明白である。見れば、赤鬼は振り向くと同時に段平を薙げるように、既に構えを終えている。


 ならば、どうすればいいか。


 躊躇いを一切見せず、手を離した一刀は同時に振るわれた段平の風圧に乗って後方へと跳ぶ。

 宗近が赤鬼の背に差さっている以上、武器が無い。そう思われたが……、パンと頬を打ち鳴らすような音が辺りに響いた瞬間、一刀の傍には宙に舞う一本の鞘に収められた刀があった。それを掴むと、即座に刀を抜き放ち、赤鬼へと肉薄する。

 月光を受けて、淡く鈍色に光る刀身が空を走る。刹那、飛び散る赤い血飛沫。神速とも呼べる速度で切り抜けた一刀の刃は、赤鬼の二の腕辺りを斬り裂いていた。が……


「……浅い」


 深追いはしない。下手に潜り込んでも刀を振ることが困難になるだけだからだ。徒手空拳も、ここまで筋肉が多いと内にしろ外にしろダメージを与えるのにはそれなりの大技が必要になる。が、いかんせん今の一刀の肉体では、それらを使用したところで確実に倒せる保障はない。人間と構造が同じならば、急所を的確に突けばいいだけの話だが、そうも言ってられない。今斬った部分も、人間で言えば動脈部分に当たる場所だが、酷く出血してる等の現象も見られない。

 ならば……、と一刀は少しばかり朱色に染まった刀の刀身を持ち上げ、平青眼の構えを取る。身体スペックで劣る以上、型にはまって勝負するしか他は無い。

 構えた一刀に赤鬼は少しばかり警戒するが、攻めてこないことを好機と取ったのか、突進と同時に段平を脇構えにする。おそらく、突進がかわされても段平で薙ぎ払う二段構えだろう。そんな事を考え付くことに賞賛を送るべきか、脅威と思うべきかは分からない。ただ、一刀はそれを見ても一切動じない。

 もとより、避ける気なんてあるはずもない。

 ただ、集中するは一点のみ。


「肆の太刀……『桜花』」


 間合いに入った瞬間、一刀の姿がぶれ同時に五つの朱色の剣閃が夜闇に閃く。

 段平が振るわれる事は無く、斬り抜ける過程で入れ違ったお互いは背を向け合い、その場に佇む。


「GUOOOO……」


 やがて、十数秒の時を経て、ようやく赤い巨体はうつ伏せに地面に沈みこんだ。赤鬼の体には、前面から背面にかけて五つの斬撃の跡がある。まるで、開花を果たした桜のような切り傷が……。


「桜って……この世界にないのかねぇ」


 もとより赤い体が流れ出る血により更に紅く染まっている中から、愛刀の一本である宗近を回収しながらそんな事を呟く一刀。

 青白く輝く刀身を持つ宗近と、既に朱が紅にまでなっているもう一本の刀。それぞれを鞘に納めて懐にしまいこむと、一刀は赤鬼の骸へと近づく。


「ドギツイ顔してるなぁ……」


 改めてみると、外観上はオークと大差はない。ただ、体格と体色、そして頭に付いている角が違うだけだ。

 ……意外と差異は多いか。が、言ってしまえばそれだけだ。それなのに、体の大きさが一回り程違うだけでその実力はオークよりもずっと強い。ここに来たのが一刀以外であれば、すぐさま逃げに走るだろう。それほどまでに危険な魔物が人里近くに生息しているのは如何なものか。


「……ま、俺の知ったこっちゃないけどね」


 善人でなければ、聖人君子でもない一刀にとっては、例え人里近くに魔物が出ようが魔獣が出ようが、幽霊が出ようが知った事ではない。念の為、報告だけはしとくか程度だ。

 流石にこれ以上は目新しい物が見つからなかったのか、一刀がその場を離れようとした時、ある物が目につく。躊躇うことなく、それに近づくと摘み上げ、そのまま視線の高さまで掲げる。


「なにこれ? 胃袋?」


 先ほどまで赤鬼が寝転んでいた場所、そこに落ちていたのは赤い袋。しかも、何やら中身が入っているようで、多少重量感がある。上下に口があり、その両方が蔓のような物で結ばれている。どう見ても動物か何かの胃袋にしか見えない。だとすると、中に入っているのは消化中の食物か? それにしてはえらく水っぽい。


「血……?」


 袋の中から流れてくるのは鉄の匂い。最近ではよく匂う機会の多い血の匂いだ。何故このような形で保存されているのかは不明だ、更に言うとなんの血なのかも。とはいえ、無視出来るような物でもない。

 若干の嫌悪感を感じながらも、一刀は結局その胃袋らしき袋を懐に入れ、持って帰る事にする。コートの中に入れると、意外と言うか匂いはほとんどしない。

 この袋以外には特に目につく物はない。強いて挙げるなら、赤鬼が使っていた段平くらいか。こちらも手にとっては見るも、見た目に違わずその質量は人が持てるそれの限界を超えており、人間から多少逸脱している一刀にとっても、十分に”重い”と感じさせる。つまりは、使い道が無いということ。


「めぼしい物は、特に無いかなぁ……」


 確かめたいことも確認した事だし、そろそろ戻ろうかと踵を返す。が、ここで少し違和感を感じて足を止めた。が、その違和感もすぐに霧散したため、気のせいだということにする。

 その違和感が、やがてある出来事を引き起こすとも知らずに。



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