真相
「ふぅ……行った行った」
息を漏らしたのはラトジア混成国首領長のエリッサ。
ルシリア程では無いとは言えその体型は恵まれている。しかし服装がそれを活かさない。
タンクトップにホットパンツ。
大よそ一国のトップが着る服装では無いが、これがエリッサの仕事場での服装。
所謂残念美人だが、似合うのは彼女故にだろう。
……そんな服装のだらしないエリッサだが、その基礎能力は高い。
彼女はラトジアの象徴『救国の天使』と『開放の勇者』の二人の娘であり、勇者の能力である『魔力消費100%カット』を受け継ぎ、聖族の証である翼と、限りの無い寿命に美貌を持つハーフだ。
勇者ほどでは無いにしろズルかった。
「でもビックリした。……父さん、あんな顔出来たんだ」
勇者『ユーマ』は史実では勇ましく、その姿は真に勇者として語られている。
しかしエリッサの知る父親の姿は小心者だ。
事情があるにせよ駄目親父といって遜色なかった。
だが今日見た表情は明るい。優の顔は生気に満ちていたのだ。
回る椅子に背中を預けたままエリッサは天井を見上げた。
「きっと怒ってるだろうなぁ~」
恐らくある事を黙っている母。
この国が出来た所以であり、ルシリアに“救国”の名がついたその理由。
中央公園に存在する建物の中。この国の象徴たる『救国』『解放』の二人に関する像を見た、記憶の無い父の心境を考えてエリッサは顔を綻ばせる。
……再度机の上の現実を見て溜め息を吐いたのは管理職故、言うまでも無かった。
「なんで売ってんのセーラー服」
「……さぁ?」
繁華街。
全身鎧に人目を引く翼を持った聖女が服屋の中で談笑していた。
言わずもがなこの二人は優とルシリアだ。
二人に気づいた周りの者のSAN値がガリガリ削られている。
その結果として通りすがりの竜人族の男性、長耳族の女性は店内にいる二人の姿に気づき、目をとられたまま互いにぶつかった。
……ご愁傷様ではあるがこの後一つのドラマが起こり、一組のカップルが出来たのは余談だ。
「いやいや。この国色々とおかしくないか?」
「混成国だもの。それよりも――セーラー服似合うと思う?」
「あー……似合う、かな」
「思わず襲っちゃうくらい?」
「おい」
前かがみになり、下から見上げるように上目遣いでルシリアは迫る。
会話の内容はともかく、その表情はあざといが似合っているのだ。
二人の子ども達から「歳考えろ」と言われるのが目に見える。
「あ、でも家にあったか」
「なんで買うって言ったし。……あるのか?」
「確かあるはず――……帰ったらシようね?」
「……あはは」
腕を絡ませてくるルシリアに『エロいのはいいけど公衆の面前で』と優は切実に思う。
二人の会話を聞けば多くの人間は思うだろう。『時と場所を考えろ』と。
だがルシリアは優の耳元まで顔を近づけ、周りには聞こえないよう注意を払っているのだ。なんの問題は無かった。
しかしフルフェイスの中から周りに目を向けた優は、ここでようやっと自分たち二人が周りから注目を受けている事に気づく。
「……ルシリア移動しよう」
「わ、わ! ちょっと待って…!」
ルシリアの手を引き、鎧姿の優は歩みを進める。
つんのめりながらもルシリアは早歩きで店内を出、先を行く優に足並みを合わせた。
――移動する事20分。
「もう。急にどうしたの?」
「……なんか凄い見られてた。いや、見られてるんだけど……どういう事なのさ?」
注目から逃げようと優は歩いていたがそれは叶わない。
今現在でも木陰から雑誌記者らしき人物が、まるで有名人のゴシップ現場でもあるかのようにシャッターを切っていた。
流石に優は気分が悪く、どう言う事だってばよと図らずも理由が分かる中央公園のベンチに腰掛けたところだ。
「ルシリア、何か知ってるんじゃ無いのか?」
「あ、うーん……」
ルシリアの心境としては今此処では言いたく無い。
此処には諸々の事情が記されたモノがある。
早く言うべきだったとルシリアは後悔し、計らぬ所で知られた時の事を考えてビクつく。
いや、早々にばれる事ではあるのだ。ならば早く言うべきであろう。
「――……よし。ユーマ、ちょっと着いてきて」
「え、教えてくれないのか」
「ううん、教えるから」
覚悟を決め立ち上がったルシリアは優のガントレットのついた手を取り立ち上がらせる。
「なんでこんなに注目されてるか。なんで私が『救国の天使』なのか。……ちゃんと教えるから」
「お、おう……」
ただ、無駄に覚悟の入ったルシリア姿を見て、優は気圧された。
手を繋ぎ二人は公園のある一画にある建物を目指した。
「この中。ついてきて」
「此処は……教会、か?」
着いたのは神聖な空気纏う教会らしき建物。
二人は中に入って安置される像を見る。
「おい、あれ……」
「救国。私が救ったのはこの国の事。……約900年くらい前、新興国だったラトジアに科学を教えたの」
目の前にある像は良く知るルシリアの像と、今の鎧のような物を着たユーマの像。
「……それじゃあ」
「この国がファンタジーしてないのも、色々アナタの世界で見た事があるものがあるのも全部……」
ルシリアはちらりと横を見、
「お・ま・え・の・し・わ・ざ・かぁ~!」
「やめへ~! ほほひっはらないれー」
「ちくしょぉおおおお!」
剣と魔法のファンタジーを望んでいた記憶の無くした勇者。
彼の慟哭は厳かな教会の中に響き渡った。
――声に驚いた牧師が飛び出してきて、崇拝対象が頬を引っ張られている姿を見て腰を抜かしたのは触れないでおこう。
……教会の中ではお静かに……。
「ね、ねぇ……ユーマ?」
「……」
ルシリアが覚悟を決めた理由は優に怒られるのが目に見えていたため。
「ゆ、ユーマ君。優さーん」
「………………」
そして怒った時の優がとてつもなく冷たくなるから。
「ごめん。ゴメンなさい。黙ってた事謝るから。だから――ひゃうっ!?」
「――……黙って」
「――んッ!?」
「……絶対許さないから」
「で、でも、こんなぁ! んんんっ――!」
ラトジアのL付くホテル街。
翼を隠されて連れ込まれたルシリアはドの付くSの優に体の隅々まで弄られた。
……ホテルは色々と充実していた事だけ此処に記しておく。
「……うぅ。ひどい」
「おはようルシリア」
次の日。ルシリアは優より遅く起きた。
優のルシリアに行った仕置きは、失神して気絶させて貰う事すら出来ず、夜遅くまで続いた。
その結果ベットの上はぐちゃぐちゃ。そういうホテルであるからしてそこまで問題は無かったものの、普通のホテルならば色々と賠償金を払わなければならないレベルだった。
ルシリアは色々と染みができたベットから這い出て、床に落ちた。
「痛い……起こして」
「自分で起きろよ。天使様」
「……腰が抜けてるのよ」
色々とハッスルしすぎだ。
「それにあんなになるまでするし。……ちょっと黙ってたぐらいで大人気無い」
「悪いのはルシリアだ。……それに良い声で喘ぐのも悪い」
「このドSめ。……ちょっとそっちの道に行きそうになったんだけど……どうしてくれる!」
「冗談言えるなら起きろよ」
「冗談じゃ無いわよ……」
「……マジですか」
アヘ顔ダブ○ピースでもしそうだった、とルシリアは愚痴る。
いや、何処向いてやるのかは分からないが。
「ほら、手」
「ありがと。……うぅ……まだ入ってる。たぷたぷ言ってる」
危ない。非常に危ない。
「……服着れるか?」
「無理かも……着させて」
「はいはい」
ホントにバテているルシリアは素直に甘える。
まだ少々優は機嫌が悪いようだが、それでもやり過ぎたと思っているらしい。
「……くすぐったい」
「ちょっとじっとしてろ」
優は手っ取り早く創った魔法で体を綺麗にし、『取り寄せ』でイシスから持ってきた下着を履かせて服を着せる。
手馴れてきているとはいえ、やはり人にして貰うのはくすぐったいようで、ルシリアは逃げるように体をよじった。
ちなみにルシリアの普段着のワンピースは、羽根が出る穴からスカート部分の下までスリットが入ってあり、ボタンで留めれるようになっている。割と着易く考えて作ってあるのだ。
「ボタン掛け間違えたりしてない?」
「大丈夫。……後ろからパンツ見えたりしないよ」
「……ホントに?」
「ほんと」
ただ偶に上の方が外れていたりするとパンツが見える事があるので注意だ。
最近はジッパー式の物を何着か作っていたりする。
「背負うぞ」
「ん……」
ルシリアは優の背中に負ぶられてホテルから出る。
「むぅ。太もも揉まないでよ」
「やだ。気持ち良いんだもの」
「……途中変な気持ちになったらどうするのよ、もう……」
「はいはい。ならさっさと帰れば問題無いでしょ……『テレポート』」
ルシリアと優。
二人はラトジア混成国から一瞬でイシスの自宅へと帰還した。
イシスとラトジアの二つの地。イシスの周りに結界があり、空間が歪められている。そのため遠く感じられるが、ラトジア上空にイシスは存在しており、3000mの程度の距離しか無かったりするのが実際の所であったりする。
――ラトジア混成国
大陸の殆どが国土である世界最大規模の国にして人口最大の国。
交通の利便、警察の存在、人権の保障。
国内は平和そのものであり、一度訪れてそのまま住み付く者達は多い。
『天使』による発展をとげ、戒めたる『勇者』の庇護に置かれた国である。
また混成国最大の防御として最高戦力である『首領長』の存在は他国への牽制となっている。
討伐者ギルド・『討伐者の心得』より一部抜粋――