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二日目と数日後

「んぅー……お早うユーマ」

「ん、おはよう」

 

 優の目の前には笑顔の素敵な女神の顔。

 ルシリアの目の前には出会った経緯からしてヒーロー的な存在である優の顔が。

 俗に言う朝チュン(二日目)である。妬ましいことこの上ない。

 

「……なんか昨日はゴメン」

「ううん。気にして無いよー……こってり貰ったし」

「……さらりとそういう事言うの止めて。恥ずかしいんだ、まだ」

「えへへ」

 

 天使が子悪魔的な笑みを浮かべる。

 恐ろしい組み合わせだ。

 

 まぁそんな事は置いといて優が異世界に来たと認識して三日目。

 

 優の『擽り』の後、口をふさがれて拘束され、仕返しと称して襲われた優。

 その割にはヤっちゃってる最中、優は生き活きとして――いや、これ以上は当人同士の事だ。

 余り言及しないでおこう。……もう遅い気がするが。

 

 

 行為自体は経験としては二回目。

 一回目は優の表情に気まずさが感じられていたが、少し記憶が戻ったためか今日の顔に気まずさといったものは伺えれない。

 気まずさと言うが具体的には、記憶が戻らないため、別人に近い自分の妻のルシリアを好きになっても良いのか、と言う戸惑いと、好きになるならば早く記憶を引っ張り出さないといけないと言う焦りだ。

『別人に近い自分が寝取っているんじゃないか』と思う罪悪感のような複雑な気持ちもあったが、直ぐに割り切れた。

 

 それと言うのも、優は彼女との馴れ初めから今に至るまで。

 彼女視点で見ているだけな訳だが、その記憶には実際に自分が居て、愛情をもって接してくれている彼女の姿があった。

 

 そして優は記憶を見て、記憶を失ったユーマは再度彼女に惚れた。

 

 陳腐な事。

 彼女は彼にとって運命の相手であった、と言う事だ。

 

「……なあルシリア」

「うーん、なぁに?」

「別人みたくなったけど……俺のこと好きで居てくれるのか」

 

 ぎゅ、と優はルシリアを抱きしめてその見上げてきた瞳と目を合わせた。

 優の顔には少しだけだが不安があった。

 

「うん。だって記憶が無くなってても変わってなかったし。……それに前よりも面倒臭くないし、どっちかって言うと今の方が好き」

「……あーそうだな。確かにアレは面倒くさい」

 

 ルシリアの記憶。1200と40年に及ぶ彼女とユーマの物語。

 そこにいたのは後悔と自責で苦しんでいた自分の姿だ。

 ……記憶を失くして良かったのか悩む所ではあったが、優はルシリア答えを聞いて前向きに考える事にする。

 一度記憶を洗い流して陰鬱とした感情を忘れる、というのは良い事でもあるのだ。

 

「うじうじ1243年間もトレイシアの事で悩んでた。アレで良かったのかってさ」

「そうだなぁ……惚れた弱みとかなんとか言って付き会ってくれてありがとう。前の俺も助かってた……と思う」

「……うん。それなら良いんだ」

 

 へへへ、とルシリアは笑った。

『割り切れば良い』『あの人達とアナタは違う』と何度も言ってくれていたのは彼女だ。他の誰でもない。

 少々恥ずかしい蘇りかたであったが、戻った夜中での記憶。その最中で何度も慰められていたのは記憶に深く刻み込まれていた。

 

 ただ、その原因となった勇者召喚を行い、道具のように勇者ユーマを扱ったトレイシアという国。

 他人事のように未だに優は考えているが、端から見ても怒りが沸々と湧いていた。

 

「不老不死の化け物(勇者)と魔王を倒すための奴隷としか勇者を見て居なかったあの人間達。……どっちが化け物だよ」

「……ホントにね。私から見たらユーマの方が人間らしいよ」

 

 ルシリアもその時の事は色々と思う所がある。

 人間とは総じて驕る。

 優を召喚した国は勇者という化け物を『使役』していると勘違いをする。

 ――勇者を『所有』している故に我々は強いのだと。

 違う。勇者のユーマが強かったのだ。

 勇気を纏う者。もしくは勇気を導く者。

 勇ましく、皆の希望になる人とは違う存在。

 ……それが勇者だ。

 現に優は……ユーマは勇者だった。

 王なんて出来そこないの人間の所有物でありながら、絶望した人々救った。

 勇者は勇者だと認められていた。

 たとえ奴隷に落とされていたとしてもだ。

 

 ルシリアは優の首筋を撫でる。

 

 ユーマの首に付けられていた奴隷の首輪は今はない。

 魔王を討伐した後、奴隷商の店に行き奴隷の首輪を外してもらったのだ。

 実にあっけなかった。

 それ故に使われていたと言うどうしようもない怒りは、ユーマもルシリアも収まらなかった。

 

 その結果がトレイシアという国家の崩落であり消失だ。

 実行したのは全てユーマであったが、止めずにその様子を眺めていたルシリアも

 

「……でも人であろうとするアナタが私は好きだった。人と同じように誰かを愛そうとして、嫌われても愛そうとするアナタの事が」

「……」

「私も長く生きてたけど、ユーマに会うまで忘れていたんだ……」

 

 優の胸にルシリアは顔を埋める。

 トクリ、トクリと一定のリズムで優の生きている証拠はルシリアの耳に入っていた。

 

「何回も言うよ。私を助けてくれて、――愛してくれてありがとう」

「……こちらこそ」

 

 そっと優はルシリアの美しい髪を撫ぜる。

 離さないように、離したくないと想いながら。

 

 

 ――キュ~…

 

「お腹減った」

「ふふふ。ご飯準備しよっか」

 

 締まらない。……でも仲の良い夫婦だった。

 

 -------------------------

 

 気候の良い日々に恵まれ、天空のこの島での生活にも馴れてきた頃。

 一日の大半がエロエロであった生活は鳴りを潜め、日向ぼっこをしながらお茶を啜ったりと老成したような前の生活に切り替わってきたある日。

 

「見聞を広めるため下界に降りようと思う」

 

 外観は神殿。内観は和風とカオスな家の軒先で、洗濯物を干しているルシリアの背後から優は言った。

 

「何で?」

 

 至極意味が分からないというような顔でルシリアが優に返す。

 ルシリアの表情。

 それもそのはずである。

 ……此処に居る元勇者は下に降りたく無いが故に、此処(天空)に引きこもっているのだから。

 自給自足で生活出来ているのもそのせいである。

 いや、魔法というものがあるから下手な自給自足より快適ではあるのだが。

 

「あ、そっか。そこの記憶は見せて無かったけ」

「……えぇ?」

 

 そうだった、と「ポン」と手を叩いた。

 下に降りるとしたらルシリアが一人で降りていた。

 そのため『記憶の呼び覚ましには関係無いだろう』と高を括っていたのである。

 

「うーんっと……ユーマはファンタジーな世界をお望みなのよね?」

「……この世界はそうしたものだと思ってるんだけども……え、違うの?」

 

 洗濯物をバサリ、と伸ばしてルシリアは困った顔だ。

 

「はぁ……そっかぁ。なら直接見た方が早い、かなぁ? ……うん、記憶見せるよ」

「うん、わかった……」

 

 神殿の階段に腰掛けていた優は腰を上げて洗濯物の掛かっている方へと向かい、そこにいる奥様と額をあわせた。

 

「…………おう、マジ?」

「マジでガチです。……これでも降りる?」

「あー…でも見てみたい、かなぁ」

 

 優が何を見たか。

 それはまぁ『1200年の年月』というものだった。

 

 

 下に降りるのも準備が必要なようで。

 提案してたその日は、準備が必要。ということで二人して昼寝をした。盛ってはない。

 

 ……で、翌日。

 

「なんだか魔法(コレ)じゃない感がする……」

「出てるのは魔力で出来てるから一応ファンタジーの部類でしょ」

「そうだけどさぁ……」

 

 優が着ているのはファンタジックな鎧……のように見えてどこか違った。

 背中からは翼のようなスラスターが四機ほど。

 魔力を込めると四枚の翼のように『魔力で出来た何か』が展開され宙に浮く。

 ……ファンタジーよりストラトスな感じだった。宇宙飛び回る感じだ。

 

「でもこれユーマが作ったんだよ?」

「おい昔の俺」

 

 なんとまぁ元悲劇の勇者様は世界観をぶち壊すような物を作っていたようで。

 いやはや、これも男の性なのかもしれない。

 

「あ、ちなみにその出てる奴。物があたったら切れるから。……こんな風に」

「わぁ大根もスッパリ!」

「ご覧下さい! 桂剥きも簡単に!」

「いやそれは違う……って出来てるんだねー」

 

 ルシリアのワンピースの下から出てきた大根は一刀両断。

 そして見事な桂剥きがひらひらと地面に。無駄機能である。

 

「じゃ、とりあえずその鎧は標準装備。下降りてる時は外しちゃ駄目。スラスターは二機だけ噴かしてたらホバリング出来てたと思う」

「なるほどねぇ……でもやっぱり」

「魔力=ファンタジーでしょ?」

「……はい」

 

 イチャイチャとしながら、おしどり夫婦な二人は仲良く島から降りて行った。


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