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記憶と経験

「なるほど、確かに俺だ。……キザっぽかったけど確かに俺だ」

 

 1246年。

 (ゆう)……勇者ユーマがルシリアと出会った年月の記憶。

 ダイジェストに編集され、見せられていた時間は30分ほど。体感時間にしてざっと1時間。

 ルシリアの記憶の優は目が死んでいたりしていたものの、優が思うに自分であると判断できた。

 ……失くした記憶の中で初夜だとか夜の営みだとか見せられた時には止めてくれ、と優は懇願していたが見せられたのは余談だ。

 

「信じてくれた?」

「……あぁ。確かにルシリアは俺の大切な人だったみたいだ」

「だから改めて、」

 

 目の前に座っていたルシリアは優の背後に回り、彼の首元に抱きつく。

 

「――初めて、スル?」

「――っ!」

 

 ルシリアは耳元で囁く。

 それだけで優の脳髄は溶けそうだ。

 優はルシリアの記憶を見たものの、それは全てルシリア視点のもの。

 実際に今いる優が経験したものではない。

 故に「ちょっと良いかも」と思った優は男としてなんの罪も無い。

 強固な意思の持ち主ではあるが、背中の感触にやられた。

 まったく罪作りな胸である。

 

 ……が、しかし。

 

 ぐぅ~…

 

「あ」

「……色気ェ……」

 

 ルシリアの腹の虫が鳴った。

 

 

 

 

 エシディスの実の揚げ物。

 揚げている最中に実が油の中で弾け、中から出てきた果汁が油の熱で固まる。

 油から揚がったそれは金平糖のような星の形をしており、味は甘辛い。

 それをおっかなビックリで優は堪能しつつ、白いご飯を食べる。ご飯が進んだ。

 ……ちなみにお米は日本が恋しくなった勇者の旦那様が見つけてきたもの。

 日本人の食へのこだわりは世界を超えるのだ。

 

「ごめんね?」

「いや、うん……しなくて良かったです」

「……ちょっと後でお話ししようか」

 

 食事をして冷静になった優の返しに冷ややかな視線が突き刺さる。

 しないか、するか。

 よくもまぁ真昼間からそんな話が出来るものだ。

 

「だって俺ルシリア……とは初対面みたいな状態なんだ。そんな、ねぇ?」

「そんな事言ってたら春売りも水売りも廃業しますぅー」

 

 ジトー。

 屁理屈のようなルシリアの言であるが、確かにそうだ。

 ……そうだが、基本的に初めて会った人と致すのは花売り(春売りとも言う)じゃない限り、流石にどうかというのが優の思う所だった。いや、夫婦の間柄な訳だけど。

 

「……いや、うん。ショック療法で戻るかな、って思ったんだけどね」

「あー……なるほど」

 

 確かにそれをするのは衝撃的ではある。

 ……しかし。

 

「でもいきなりそんな無理です」

「……ハァ。そういえば初めてに至るまでが長かったなぁ……」

 

 勇者ユーマと聖族に分類されるルシリアの二人が出会ったのが聖暦769年。

 そこから別れてユーマが三年間で魔王討伐を果たし再会がしたのが773年。

 この時肉体年齢はともかく増田優と言う男は24歳であったので、そこから2年後の26歳。

 恋仲になり、肉体関係を持つまで2年掛かっている。奥手も良い所だ。

 

「ちゃんと見せてないけど、ユーマ奥手が直るまで100年くらい掛かったから。私から誘わないとしなかったし。……でもまぁ、お互い不老なんだしこれから気長に調きょ……ゲフンゲフン」

「何言おうとしたし!? え、どゆこと!?」

「気長に調教して行けば良いんじゃない?」

「ぶちまけたよこの奥さんっ!?」

 

 それにしてもこの嫁ノリノリである。

 いや、この天使みたいな子もソレはソレは初心であったのだが。

 ……どうしてこうなったかはかつての勇者のせいだろう。無自覚に焦らす勇者が悪い。

 

「じゃ、これからどうしよっか」

「……何が?」

「もう家でする事無いしぃ――……私の事襲っちゃう?」

「ねぇ何処が気長ですか。ねぇ何処がですか!?」

「喧しいなぁっ!」

「んぐぅ!!??」

 

 喧しい口は口で塞ぐ、と言わんばかりに優の口は閉じられた。

 襲う以前に襲われる。これ如何に。

 

 食事が終わり、家の外観に似合わぬ純和風のようなその部屋。

 男は押し倒され、女は押し倒していた。

 

 ――――任せて。

 ――――……はい。

 

 二人の夜は長い。

 昼過ぎからが彼等の夜だった。

 夜明けまで実に12時間以上である。

 

 

 

 

「――というわけで。ルシリア先生の魔法教室はっじまーるよー」

「はーい! ……寝起きのテンションたけぇなー!」

 

 翌日の昼過ぎ。

 早寝早起きなんて言葉は二人の辞書には無かった。寝たのはお天道様が出てからである。

 ……疲れぎみの優は目の前のルシリアに合わせてテンションを無理やり上げている。

 テンションの高いルシリアは真っ裸で翼を広げ、何処からとも無く眼鏡を取り出し掛けている。ちなみに伊達だ。

 ……すっかりシッポリとヤっちゃったせいか、ルシリア先生の肌は卵肌。

 対して生徒の優は真っ白……と思いきや元気溌剌だ。

 いやはや不老不死の体力は恐ろしい。

 

 ――そんな下世話な夜の話は置いとくとして。

 魔法教室なるものを唐突にやろうと言う事になったのは、優に使った記憶が無いため、実質初めて魔法を使うことになるためである。

 ルシリアが後処理に魔法を使っていたのでお願いしたわけだ。

 ただし、真っ裸でやる必要性は皆無だろうと思う。

 

「先生服を着てください」

「つまりそういうプレイがお好きなの?」

「あ、それは……いや、誰もそんな事言って無いんですが?!」

 

 でもちょっと興味があるのは男の性だ。致し方ない。

 

「ま、服着てからにシよっか」

「絶対字が違う。……絶対」

 

 服を着る最中は何も無かった。

 

 

「じゃ、改めまして魔法についてです」

「あい」

 

 いけないビデオとかに出てくる教師みたいなエロいスーツでも、裸に白衣だなんて格好でもない。

 現在ルシリアの服装は初対面(優にとって)の時の格好だ。

 ちなみに、ルシリアの基本服はゆったりとしたワンピースのような服である。

 胸元が開け、腕と背中から生えている翼以外は隠されているが、エロい印象があるのは全て、谷間を作っている乳のせいだろう。乳が悪い。

 

「まず勇者さんの基礎能力として『魔力消費の100パーセントカット』に『魔法の創造能力』があります」

「は?」

 

 優は固まった。

 

「魔力消費云々は文字通りなので説明を省きますが、『魔法の創造』です。イメージの想像ではありません」

「うん、ん?」

「望めばその魔法が作れる、と言う能力です」

 

 それでも思考を無理やり動かすも、やはり聞き間違いではない。

 

「今まで勇者さんが作ってきた魔法は無限の剣せ」

「ストーップ!」

 

 それ以上はいけない、と言わんばかりに優はそこから先の言葉を遮った。

 何処かから世界が壊れそうな音がしたのは気のせいでは無いだろう。

 

「ゴホン。……時空次元系の魔法を初めとした『何それチート』と言うようなものばかりです。厨二ですね」

「なぁ、絶対ルシリア俺の世界に来た事あるだろう」

「私達の新婚旅行で行きました。……その時の記憶見せて無かったけ?」

「……初耳なんですが」

「まぁ残念な事に地球は核戦争と温暖化で生物の住めない星になってるみたいだけど」

「……あぁそう」

 

 優はちょっと予想していただけに驚きも少なかった。

 記憶に残る最後の年は異常気象が多かったので想像くらいつく。

 

 小休止。

 

「で、わかった?」

「……お前にSっ気があるのは良く理解しました」

「きゃ、お前だなんて…!」

 

 手を合わせて片足を上げ、体を捻る。

 そして揺れる。

 

「『きゃ』じゃないよ『きゃ』じゃ。……で、無詠唱だっけか」

「うん、意味のある言葉を言わないといけないから出来ない」

「……そっか」

 

 ちょっと残念そうな優はちょっとした野望があった。

『馬鹿な、無詠唱だと!?』と敵に言わせたかったのである。厨二ですね。

 

「……でもそれ以外は基本自由にできるんだよな」

「うん。…………え、目が恐いんだけど」

 

 目をギラつかせる優にはギラついた復讐心があった。

 

「じゃあこう言う事も出来るわけだ。……『ウッドバインド』『マインドコントロール』」

「く、苦しっ! な、なに?!」

 

 強固な魔力の不透明な蔦が肢体に絡みつき締め上げる。

 蔦の間からはむっちりとした肉が零れ落ちそうである。

 

「厨二厨二と言いやがる悪い奥さんにちょっとしたお仕置きです」

「え、やだ?! にゃにこれぇ…!?」

 

 催眠術に近い魔法で感覚は鋭敏化され、蔦は優の意思に従いうごめく。

 さわりさわりとその溢れそうな肢体を、

 

「ひぅっ! やめ、てぇっ?!」

 

 (くすぐ)った。

 

 

「あはははははははははは♪ やらぁああああああ!」

 

 

 それは子供のような優のいたずらではあったが、擽りという行為は拷問の一種だ。

 それに30分持ったのは彼女の精神力の賜物だろう。

 

「ゆるしゃない…! ぜったい! じぇったいゆるしゃないから……ふー! ふー!」

 

 30分後、色々と体液に塗れた彼女の姿が。

 頬を上気させ、息を荒げている。呂律が回っていない様子を見れば分かるだろうが、『擽り』が残虐極まりないのは一目瞭然だ。

 それに加え、何かを問う拷問とは違い途中で止めて貰う(すべ)は無い。

 擽る者が満足するまでである。

 

「……やりすぎたかもしれん」

 

 気づいてからでは遅いのだ。

 結果、数時間後復活した彼女に優は喰われた。

 因果応報というべきか、ルシリアが元気と言うべきか。

 その時『夜の記憶』を少しだけ思い出したのは優にとって怪我の功名であった。

 

 ……いや、それでいいのか元勇者。


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