そして私は年を取る。
『新玉の 年を廿も 積み重ね 明くる日正に 我になるべし』
「で、何これ」
「やだなー、誕生日プレゼントだよ。プ、レ、ゼ、ン、ト」
「いちいち区切るな! うっとうしい」
「っが。い、いい加減怒ったらすぐに手ぇ出す癖なおしなよ」
「断る」
「……そんなんじゃハタチっぽくないぞ」
「ぐぬっ……! こ、考慮してやらんこともない」
「ぷっ」
「っ!! いま笑ったか? いま笑ったな!?」
「だって、まさかこんなに効果あるなんて思わなかったから。そんなに大人になりたいんでちゅね〜……わぁーごめん御免! 謝るから!!」
「…………」
「ほ、ホント御免ね。だからそんな涙溜めてぷるぷるふるえながら胸倉を掴まないで」
「つ、次言ったらオトすぞ」
(本当に気にしてんだなぁ。思い込みが激しいのが欠点なんだよね。ま、自分はそこが気に入ってるんだけど)
「なんか言ったか!!」
「言ってないって。……んで、いい加減話戻すけど」
「ふんっ……。……何の話してたっけ」
「誕生日プレゼント。気に入らなかったかな。こーゆーの、好きだと思ってたんだけど」
「そりゃそういう学科にはいるけども。別に一度も好きとか言った覚えないし。それに、なんで和歌?」
「むっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」
「すいませーん、お勘定」
「御免なさい、悪かったからお願い話聞いて」
「うー、メンドイ。帰りたい」
「はーなーさーなーいーよー」
「だー、分かったから腰にしがみつくな! 離せボケ」
「ちぇっ。はーい」
「ったく。……で、何で和歌」
「まぁ、そーゆー学科にいるって事が一番の理由なんだけどー。最初はね、ちゃんとした本か何かにしようと思ったんだよ。でも」
「でも?」
「本とかって、よっぽど気に入らなきゃ一回読んでポイッ、じゃん」
「気に入らなきゃ読まずにぽいっ、だな」
「でしょ。だからー、もっと手軽で、だけどいつでも側にある。そんなものをあげたかったんだよー」
「そこまで考えてて、なんで財布とかバッグとか、そっちに頭が回らないかな……」
「だってそーゆーの嫌いでしょ。とにかく人から物貰うのが嫌いなクセに」
「むぐっ……」
「それで、手軽でいつでも側にある。それでお祝いの意味も持っている。だから和歌をぷーれぜんとー、ってわけなの。いじょー」
「あーあー、はいはい。分かった分かったありがとね」
「ぶー、こころがこもってなーい」
「お前の体に直接ぶち込んでやろうか?」
「あーあー、オーケー。謝るから勢い余って心臓打ちとか撃たないでね」
「それで、どんな意味なん?」
「…………うっわ、うっそ」
「おい、なんだそのコンビニバイトを3日で辞めた奴を見るような目は」
「だって、これってアンタが今やってる課題で使う資料に載ってるやつだよ? ……もしかして、まだ手ぇつけてないの?」
「課題ぃ? ……、……、…………、あ。あーはいはいはいアレねアレ。あーうん分かった。ばっちり。問題なし」
「……素直に白状したら手伝ってあげるよ」
「ゴメンナサイ完璧忘れてました手伝ってください」
「はいはい。はぁー……」
「んで、結局和歌の意味って何なのよ」
「この唄はね……『二十年ものあいだ年を積み重ねて、私はきっと自分自身になるのだ』ってのが模範訳。親やら権力やらのしがらみの中で常に弱者だった主人公が、出世したその日に今までの不幸を嘆いて詠んだ唄、って解釈されてるね」
「んな暗いモン人に贈るなっ!!」
「痛ー! ち、違うんぶっ!! お……落ち着いて。首、クビ、極マッテル……カラ…………」
「釈明があんなら聞いてやろうじゃないか」
「ゴホッ、ケホッ……。まったく、話は最後まで聞いてってば。主人公が嘆いて詠んだ唄、って一般的には知られているけど、自分は違うと思うんだ」
「ほー、どんな風に」
「この主人公、確かに生い立ちだけをみたら常に立場は弱くて苦労ばっかりしてた。でも、その台詞の端々からはいつだって自信に溢れた不敵な雰囲気が読み取れる」
「へー。あ、そういや親に本気で殴られても泣かなかったんだよな」
「あ、ちょっとは読んでたんだ。……うん、そうだね。たった4歳のときに親に反抗して殴られてる。それでもこの主人公は泣かなかったんだよね」
「確かに、精神的に強い奴ってのは解る。それが今の話にどー繋がるんだ」
「それで、自分は一般的な解釈とは違う解釈をしたんだ」
「言ってみ」
「『二十年も年を積み重ねたのだ。(二十歳になる)明日になったら、夜が明けて朝がくるように私も太陽のようになるだろう。いや、きっとなる』」
「……お、おま。意訳の上に文法上の意味、全無視かよ!」
「そりゃ文法上の意味に従うのが正しい読み方だろうけど、そしたら模範訳みたいにガッチガチになるさ。いい、考えても見て」
「何を」
「この主人公が、親に無理やり和歌を詠まされ続けたきた主人公が、素晴らしい唄を作ってもライバルに盗まれてしまった主人公が、そんな文法ガチガチでまっとうな和歌を詠むと思う?」
「『詠むと思う?』ってお前、そりゃ詠む……か? ん、あれ。ちょっと待てよ。……え、でも……うーん……確か…………あ、そういや……うん。詠まない」
「でしょ!! だから自分はこう思うんだ。きっとこの主人公は一見文法に従った普通の唄を唄ってるけど、その裏には『この唄の本当の意味はこうだよターコ』ってゆー、正しさを否定する皮肉を込めてるんだ! って」
「まー、確かに。お前の言いたいことはわかったよ」
「んっふっふー。そー、れー、でー?」
「むー……、気に入った。…………ありがとう」
「やったー! ようやく『ありがとう』って言わせたー! 苦節二十年、ついにやってやったぞー!!」
「あーもう! 分かった分かった。分かったからもうこの店出るぞ! なんで事ある事に注目を集めるんだお前は」
「えー、いいじゃん」
「駄、目、だ! すいません、お勘定ー。今日はお前の奢りな」
「なっ、酷っ! プレゼントあげたじゃんかよー。割り勘ー、割り勘ー」
「それはソレ、これはコレだ! ほらいくぞ!」
「はーい」
カランコロンカラーン
自分の誕生日用に書いたら意外と長くなったんで投稿用に加筆修正。
全体の雰囲気からジャンルは文学にしときました。
「これは小説じゃない」って思う人もいるかもしれませんが、思うだけにしててください。んな事言われても困るので。