エピローグ この不条理な世界はいつもパラレル
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。これで最後となります。
すごく今更なのですが、「コレ、短編小説でいいじゃん」って思いました
「えみこちゃん! えみこちゃん!」
先程から「死にたい」しか呟かないえみこに綾波が呼びかける。えみこがこんな風になった原因は死神イメルダにたった少しの『死への願望』を増幅されたからだと思う。イメルダの『暗黒完全世界』と、いうチート能力はまだ持続してるから鳴瀬にも神田にも連絡できないし、生け捕りにしろと言われたイメルダはカレーで消滅してしまったから、えみこの戻し方を聞くこともできない。さて、どうしたものか……
「一徳さん! えみこちゃんが!」
「死にたい、死にたい? 殺す殺す殺す殺す殺す――」
「なっ!?」
えみこの全身から緑色の光が噴き出す。これはまずい。もう天界カレーもないしえみこが死神になって襲ってきたら手が付けられないし助けられない。
「えみこちゃんは本当に死にたい? 人を殺したい? そんなことしたら天界にも一生行けなくなるよ!」
「死に……死?」
綾波の必死の呼びかけにえみこが反応。これはいける!と、謎の予感。
「えみこぉおおおおお! 今ここで死んだらぁあああ、それはそれは恐ろしい地獄にぃいい! 地獄に行くハメになるぞぉおおっ!」
「うぉおおおお! それはぁあああ! 嫌だぁあああっ!」
俺の熱いようで特に意味のない呼びかけが通じたのか、えみこが正気を取り戻して起き上がる。いや、多分綾波の必死な呼びかけでほとんど意識を取り戻していたのだろう。しかし、俺の呼びかけに反応してくれたことで、人助けをした気分を味わえてなんだかとても嬉しい。
「一徳さんにさっきからいい所を持っていかれてなんだか悔しいです」
膨れっ面で綾波が言う。そう思うのは無理もない。俺はちょっと走って、えみこを探して、死神にカレーぶつけて、適当なことを言っただけだ。今回えみこを助けられたのは彼女のおかげだ。
「ぐすっ、死にたいなんて言ってごめんなさい。死ななくて良かった。助けてくれてありがとう」
「えみこちゃん、ぐすっ、どういたしまして」
女二人が涙ぐんで良い雰囲気になっている。妙な疎外感。
「俺のぉおおお! カルマが芳醇の時を迎えてぇええ! パトラッシュ!」
「プッ、意味わかんない」
「一徳さん、頭大丈夫ですか?」
こんな雰囲気のせいか、綾波とえみこは俺のくだらない戯言にも笑ってくれた。車の走る音が聴こえてきた。屋上から見下ろすと、喧騒を振りまく自動車や屯田町を犬と散歩しているおじさんが見えた。死神の残していったパラレルワールドからようやく抜け出せたようだ。
「さぁ、遅くなるしそろそろ帰ろっか。えみこの家まで送っていくよ」
いつまでもここに居ると、俺と綾波はともかく、えみこが誰か見付かった時に面倒くさいし、一応親のこともある。俺たち三人は屯田南小学校を出て、えみこの家へと向かう。
「えみこちゃん……本当はもっと協力したいことがあるのだけど、私たちは天界人と雑神だから――」
特に会話も無いまま三人で歩いていると、突如悲しい表情で綾波が言った。
「わかってる。大丈夫だよレイコちゃん。人間に必要以上の干渉はしちゃ駄目なんだよね。お父さんのことはちょっと難しいかもしれないけど、絶対なんとかするよ。高校のことは新聞配達を今すぐにでもして少しでもお金を稼ぐよ。高校に入ったらすぐにバイトして、勉強も頑張ってそれから、それから――」
「えみこちゃん……」
綾波が何かを言おうとしてやめた。そして無言でえみこを抱きしめる。気持ちはわかる。手を解いてまた歩き出す。
「やっぱり、えみこちゃんは千年の逸材です。天界にきたら必ず一徳さんより出世します!」
「またそれかよ。何気にひどいな」
笑いながら俺が言う。綾波とえみこは泣いているんだか、笑っているんだかよくわからない顔をしていた。俺も目から少し変な汁が出てきそうになった。
「お父さんは大丈夫? 遅くなって怒らないか?」
屯田中央公園の近くにあるえみこの家まで着いた。俺はえみこに尋ねる。
「多分大丈夫。今日はお酒をたくさん飲んでいたし、グースカ寝てると思う。一徳さんも本当にありがとうございました」
笑顔でえみこが言った。今日初めて見た時より、なんか立派になったような気がした。
「あぁ、それじゃあまた天――」
ピピッと突然鳴り響く電子音。俺の天界式携帯通信機器、通称『タクア』が鳴っているのだ。多分鳴瀬だろう。
「もしもし」
(鳴瀬だ、一体何があった? 死神はどうなった? 生け捕りにできたのか? 怪我してないか?)
鳴瀬の質問攻め。一応心配してくれているのだろう。
「あぁ、それは――」
タクアで話している俺を綾波とえみこがじっと見ている。なんか恥ずかしい。
(いや、すまない。全部明日でいい。明日の昼位にゴットタワーに来てくれ)
空気を読んだのだろう。自分から話を切った。
「あぁ、わかった。明日の一時位に綾波と行くよ。後、俺は無傷だ。綾波は死神に腹を蹴られたけど軽傷だと思う。それじゃあ」
(そうか、ご苦労だった)
一応心配してくれているようなので、怪我の有無だけ伝えておいた。話を戻す。
「すまない。えみこ、それじゃあまたいつか天界で会えたら会おう」
「はい、一徳さんもお元気で」
「一徳さんがもうちょっと長く話してくれれば、もう少し一緒にいれたのにねー、えみこちゃん」
「ねー」
「なんだよそれ」
「それじゃあ、またね! えみこちゃん!」
「レイコちゃんも元気でね!」
俺と綾波は屯田にある江南神社に向かってゆっくりと歩き始める。天界に帰るためだ。綾波とえみこはお互いが見えなくなるまで激しく手を振り合っていた。俺も軽く手を振っておく。
この世はとても不条理で世界はいつも偶然に偶然を重ねて適当に回っている。俺が馬鹿をやって死ななかったら、俺が綾波と出会わなかったら、綾波が馬鹿な勘違いをしなかったら、俺がえみこと出会わなかったら今頃俺は何をしていただろうか。
俺はパラレルワールドとして、平行存在する天界から雑神として現世の様々人間を見てきた。そして今日初めてやってはいけない人間への干渉を偶然とはいえ行ってしまった。この偶然がこれからの俺にどう影響するかはわからない。多分神田ですらもわからないだろう。
――あぁ、この不条理な世界はいつもパラレル
急にこんな言葉を思いついた。きっと意味のない言葉なんだろうがやけに頭から離れない。それにしても眠い。疲れが溜まっている。
「そういえば、ずっと聞きそびれてたけど綾波ってなんであんなに戦えるの?」
もうすぐ江南神社に着くという所でずっと思っていた疑問を問いかける。
「そりゃもちろん、生前に戦争で外国が万が一日本に攻めてきた時のために、小さい頃から軍人の父に日々訓練されていたからですよ! まぁ、日本が占領されてから死ぬまでは何もしてなかったですけどね! で、天界に来てからその才能を買われて神田様のボディーガードを――」
「ちょっと待って、えっ? もし綾波が生きていたら今、何歳?」
「えーっと……確か昭和八年に生まれたから今は大体」
そこで綾波が口ごもる。目には怒りの炎が燃え盛る。
「レディーになにを言わせるですか! 一徳さんの馬鹿!」
俺の即頭部を狙って的確なハイキックが飛んで来る。俺は土下座をするように回避。
「ちょ、危ないって! 悪かったって!」
「うるさい、この馬鹿! 死んでしまえ!」
俺は綾波から走って逃げる。綾波が鬼の形相で追ってくる。
江南神社に着いた。今日はいろいろあったが、これでやっと天界に帰れる。今日は風呂入って、飯食って、さっさと寝よう。明日は菓子折りを持っていって綾波に謝ろう。明日は鳴瀬との約束もあるしね。そんなことを思いながら俺は現世を後にしたのだった。
この度は私の作品を読んで頂きありがとうございます。あらすじの所に書いてある通り、この作品は高校の課題研究で卒業論文として製作し、提出しました。
卒業論文がこの程度のクオリティでいいのか?と、思いましたが、完成させないと卒業できないのでこのままで提出しました。
特にこの作品の半分より後は、提出期限の一週間前で一気に書き上げましたのでとても大変でした。
本当なら加筆修正したい所はたくさんあるのですが、あくまで課題研究の発表の延長ということで、あえて提出した物と同じ形で投稿しました。初めてのことばかりで大変でしたが、とりあえず完成して良かったです。
感想、アドバイス等をしていただければ嬉しいです。