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「ときめきがー蒼夜様にも、訪れるー。五七五です」

 数は一五人ほど。

 盗賊(の格好をした連中)達は、一人一人違う武器を持っていた。

 長めの片手剣ブロードソード。剣を折るためにある(くし)状の部位を持つ剣ソードブレイカー。湾曲した刀身を持つショーテル。三角の穂先先端に左右対象の突起を持つパルチザンなどなど。

「シルディック・アイン。ウェイクアップ」

 蒼夜の声と同時、拳銃の状態だったシルディックの銃身が上に持ち上がり、柄に変化する。さらに、銃口だった部分から鍔が飛び出し、鍔から巨大な剣身が展開される。

「シルディック、剣身の攻撃を非殺傷設定にしろ」

〈了解〉

 ぞろぞろと木の影から盗賊達が出てくる。

 その内の大柄な男が一人、前に出てきた。スキンヘッドで、サングラスをかけたその姿は、なかなかに恐怖を煽る。

「ふむ。山賊だ。金目のものを置いていけば、何もされないですむぞ」

「ただの学生がんなもん持ってるわけねーだろ」

「そのトライデントがある」

「こいつは契約型だ。人工型じゃないから、無理だな」

 トライデントは契約型と人工型がある。契約型は、何十何百何千年も前に、どこかで作られていたトライデントだ。このトライデント達は、空間と異空間の狭間に存在しており、それぞれが自意識を持ち、自分に相応しい契約者を捜している。そして、相応しいと判断した使用者と契約し、パートナーとなるのだ。その契約者以外の者はこのトライデントを使えない。

 対して人工型は、契約型のトライデントを真似て作った物だ。性能は契約型と少しばかり劣るが、働き自体は何の問題も無い。人工型も、同じく自意識を持つ。

「ふむ……ならその女を置いていけ」

「ふぇっ?」

「そのくらいの上玉なら結構な値段で売れる」

「ええええええええええええええええええええええええええ!?」

「ふん……確かスフィーリアにも人身売買の法はあったはずだよな?」

「ふむ。山賊がそんなものを守ると思うか? それにこんな田舎世界でも売れるものは売れる」

 何だかよく分からないが、どうも自分が狙われ始めているらしいことを千秋は察した。さっきはデビルとか言う化け物に追われた。今度は山賊。何なんだろう、今日はよく狙われる日なのだろうか。

 それともう一つ。異世界の存在というのは周知の事実なのだろうか。この大柄な男の言い方はそんな風に聞こえる。だとすると、千秋の世界だけが誰も(世界の歯車と、多分SGSの生徒教師以外)知らないということになる。

 それを察したのか、蒼夜が、

「世界名『地球』以外の、世紀の歯車が見つけた世界はみんな異世界のことは知ってるんだよ。どーも、見つけた世界のほとんどが、異世界に渡る技術を持ってたらしくて」

 「なんでかは知らないけどな」と、蒼夜は付け足した。

「まぁ、なんにしてもだ。シルディックを渡す気もないし、千秋も渡す気もない」

 大柄な男はしばらく間を置いて、

「ふむ。あくまで抵抗するなら容赦はしないぞ」

 大柄な男がそういうと、周りの盗賊達がそれぞれの武器を構える。大柄の男は、鎖付きのモーニングスターを手にぶら下げたまま動かさない。対して蒼夜は、水属性加速系魔法ウォーター・スライドを発動し、シルディックを下斜めに構える。

 「かかれ!」と大柄な男が叫ぶ。それと同時、山賊達が蒼夜達に向かって突っ込んできた。

 フッ、と蒼夜の身体が消えた。そう千秋が理解した瞬間に、蒼夜の周りにいた山賊達が身体をくの字に折りながら前後左右に吹き飛ばされた。その山賊達の何人かが千秋の横を通り抜けると、今度は千秋の後ろ周りにいた山賊達が、そして側面から迫っていた山賊達が、同じように吹き飛ばされた。

「ふむ」

 大柄な男は、数秒ほど考えるような素振りを見せると、甲高く大きい口笛を吹いた。すると、よろよろと山賊達が立ち上がった。

 いつの間にか千秋の前に戻っていた蒼夜をじっと見つめ、

「SGSなんて魔法学校がどんなものかは知らんが、ふむ、それなりに強い奴もいるようだ。なかなか興味深い」

「アンタみたいな厳ついおっさんに興味もたれても嬉しくねーぞ」

「戦ってみたくなったということだ」

 大柄な男が、短い息と共に走り出した。

「はあッ!!」

 その太い腕と共に、モーニングスターの鎖でつながれた棘の鉄球が弧を描いて右側面から蒼夜を襲う。

 蒼夜がそれをシルディックで防ごうと剣身の面をそれに向け──、


「蒼夜君ダメッ!」


 がっ、と蒼夜の身体が真後ろから押し倒された。空気を切る凄まじい音と共に、鉄球が真上を通り過ぎる。

「いってぇ……何すんだ千秋!」

「新式魔法!」

「はぁ?」

「あの鉄球新式魔法の術式が刻まれてる! うっすらと光ってたの見えなかったの!?」

 千秋が言うと同時、振り切られて飛んでいった鉄球が一本の木に当たった。

 瞬間、その木が当たった部分から引き千切れた。

「…………」

「多分……何かに当たった時に衝撃強化の魔法だね。鉄球が振り回されて発動……じゃ遅いか。走る時の短い息か、振り回す時の大声か……で、当たると同時、発動時に溜め込んだ自然力を一気に放出、みたいな感じかな」

「……よく分かるな」

「魔法が使えない分、勉強はしたからね」

 すっと立ち上がる。いつの間にか手元に戻した鉄球を持っている大柄な男は、口元に笑みを浮かべていた。

「ふむ。その通りだ。いい目をしている」

「当たっただけで木が千切れるなんて魔法は限られます。新式魔法なら尚更」

 魔法には古式魔法と新式魔法の二つがある。たまに、古式魔法を魔法、新式魔法を魔術などと呼ばれることもあるが。

 古式魔法とは、トライデントを通して使うような魔法のこと。別に必ず通さなければならないという訳でもないが、その方が使いやすいので今ではトライデント無しで古式魔法を使う人は少ない。

 古式魔法には、いくつか種類があるが、それはまた別に機会に。

 対して新式魔法は、トライデントは必要ない。それどころか魔力も具現力も必要がない。新式魔法は、いわゆる魔法陣を書いたり、物に術式を刻んだりする。それを自然の中に眠っている力、自然力を使用することで発動するのだ。自然力自体は使用されても元に戻るので、そういった面では新式魔法のほうが便利といえる。

「ふむ……、しかし、今の一撃で決めるつもりだったこちらとしては分が悪い。私のからくりがバレてしまっては対応もされてしまうだろうしな。仕方が無い」

 大柄の男は一度区切り、

「ふむ。全員、術式の発動を許可する。一斉攻撃!」

『ヤーーーーー!』

 瞬間。周りの山賊達が持っていた武器に、ぽうっと、文字が浮かび上がった。新式魔法の術式が発動されたのだ。

 大柄な男以外の全員が自分の持つ武器を天に掲げた。すると、武器に刻まれた術式同士が薄い紫色の線で結ばれていく。一五人の術式が、一本ずつ線を出し、誰かと繋がっていく。そうしていると、一五本で作られた模様が出来た。無秩序で、単に一五本の線を適当につなげたような模様は、中心に千秋達を置いたまま、徐々に光を強めていく。

「こいつは……!?」

「長い術式を分割して、発動を多人数で行うことによって長文術式の携帯を可能にした部隊型術式!?」

 新式魔法は主に魔法陣や術式を物に刻んで発動する、と前述したが、どちらの方が使われているかといえば魔法陣の方である。

 魔法陣は、簡単に言うと術式を凝縮して詰め込んだ物だ。その分手間はかかる。が、多少手間がかかっても、大きさ自体は発動には関係ない(もちろん効果や威力のことについて言うなら大きい方がいい)ので携帯もしやすい。紙媒体でもいいのだから、複数持つことも出来る。

 逆に術式の方は、前の通り魔法の詳細のような物だ。それがどのような手順で発動されるのか、発動後はどうなるのか、などを記したもの。しかし、正直言って、長い。

 何度も言うが、術式は魔法の詳細のような物。当然、細かく書かれている。これが新式魔法に取って面倒なのだ。

 古式魔法の場合はトライデントを通して(使わない人は自力で)術式を構築するので、書いたりする必要は無い。が、新式魔法の場合は、何かしらに書いたり刻まなくてはならない。それだけならまだしも、長い物は馬鹿みたいに長いので、持っていくのに不便だし、そうなると使いたい魔法が使いたい場面で使えない何て事が起きる。

 それを解決するために作られたのが、部隊型術式だ。

『部隊型術式『魔力滅殺(デストロイヤ)』発動!』

 瞬間。体中からフッと、力が抜けた。いや、『消え失せた』と表現した方が正しいかもしれない。

 がくっ、と意識が一瞬消えた。

 二〇一五年に発見された魔力というのは、生命力の片割れのような物だと判明している。それが消滅させられたのだ。おそらく全てが持っていかれた訳ではなく、生きるのに最低限必要な分だけ残るようになっていた(あるいはわざと残された)のだろう。でなければ死にかけているはずだ。

 まぁ。普通の魔力量ならば、だが。

「ふむ。意識は完全に途切れたようだな」

 確かに二人の意識は消えた。

 だが、それも一瞬のことだ。


 既に片方は目が覚めている。


「ふむ。さっさとこの女を連れて帰るぞ男は殺しておけ」

『ヤーーーー!』

 大柄な男が背を向けると同時、山賊達が千秋達に近寄った。

 その目を覚ました方には分かっている。

 過去にそういうことがあったから。

 似たような状況があったから。

 恐怖に煽られる心に呼応するように、胸が熱くなる。

 山賊の手が彼女の方に触れようとした。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」


 そのとき、蒼夜はその声に目を覚まされ、ぼやけた目で見た。そしてシルディックは『トライデント的視線』で見た。

 千秋の周りに魔力が大量に放出された。その魔力が一瞬で変換されて風に干渉し融合した。融合した風が一瞬で凝縮され、さらに放出された魔力が変換され、風に干渉し融合し凝縮され、さらに放出された魔力が変換されて風に干渉し融合して、と繰り返されることわずか三秒。


 その風が鋭い刃のように周りの山賊達を斬り裂いた。


 肉を切る音など無い。それどころか何の音すらもならなかった。

 ただ、緑色に輝くその風が山賊達の身体に振れ、細胞すら傷つけずに断ち切り、達人のごとく綺麗に裂かれた傷口から紅き鮮血がまき散らされるだけ。しかも、その風はまき散らされた血すらも斬り飛ばした。まるで千秋に返り血を浴びせないようにしているかのように。

 どさり、と、それだけの音を立てて山賊達は倒れた。

 シルディックと千秋以外には、何が起こったかなど分からなかっただろう。ただ緑色に輝く何かが山賊に触れ、そして斬り裂いた、としか理解のしようがなかったはずだ。

「な……な、んだ……? なに、を……」

 大柄な男の表情は、サングラスをかけていても分かるほどに動揺し、恐怖していた。

「魔法……じゃない。千秋、お前何をした……?」

 蒼夜の表情は、恐怖もあったが、困惑の方が勝っていた。

 大柄な男は、しばらく呆然としていたが、はっと我に返ると、懐から紙の束を取り出して倒れた山賊達に投げつけた。真っすぐに全員に行き渡って、山賊達の真上に魔法陣が現れて山賊達を消した。転送系の術式なのだろう。

 そのまま大柄な男もそれを使って逃げた。


 残ったのは、山賊達の血と千秋達だけだった。



      *  *  *



 森の中をゆっくりと移動していく。

 蒼夜はまだふらついているので、千秋が肩を貸す形での移動となった。

「大丈夫……?」

「どうってことない。その内回復するよ」

〈それは結構ですね。今回みたいに千秋さんに助けられてちゃ、SGSの生徒として恥ずかしいと思います〉

「お前は心配の影すら見せないな……」

「ん、それならいいんだけどね……」

 千秋は苦笑しながら言った。

(……幼稚園以来かな)

 あの時もさっきのように風が、『空気制御(エアリアル)』によって起こされた風がいじめっ子達を斬り裂いていった。どうも千秋が成長するに連れて『空気制御』自体も成長しているらしく、ああして暴走(実際は暴走なのかは分からないが、とりあえずこう呼んでいる)でもしなければ広範囲には届かなかったが、今では結構な距離まで届くようになった。

 ──死んでたりしない、かな……。

 そう思っていたのが分かったのか、蒼夜が千秋の方を見ずに、

「大丈夫だろ」

「え?」

「あーゆー連中はしぶといもんだ。手足が飛んでた訳じゃないし、見たところ急所にも入ってない。十分アイツらでも対処出来るだろ」

「そ、そう、かな……」

〈新式魔法が使えるなら治療系のもあるかと。部隊型を使えるのですから尚更です。魔法を勉強していたなら、治療系魔法が使えないと新式は無理だ、ってことくらい分かるはずです〉

 治療系魔法は新式魔法の土台だ。つまりは基礎。他のは全て応用のようなものなので、これが出来なければ新式魔法は使えない。

「……そう、だね。うん、きっと大丈夫」

 初めて蒼夜の前で笑った。

 屈託の無い、笑顔だった。

 ……蒼夜が一瞬見とれてしまったのはまた別の話。



    











大変だった……。設定をいれつつ戦闘シーン、難しいですねーやっぱり。


ていうか展開が速過ぎたかも……。

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