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「ここ……どこ?」

 ぼやけた目で千秋が見つめたのは、所々が木々で覆われた青空だった。

 その隙間から流れていく白い雲を眺めていると、自動的に心がのんびりしだして、再び意識を落とそうとしてくる。背中に感じる柔らかい草の感触が、それを後押しする。

「ん……」

 それに対抗するように、冷たい風が身体をなでてくる。少し震えた身体を抱きしめながら、ゆっくりと起き上がってみた。

「?」

 視界に移るのは木ばかり。視線を右に向けても左に向けても前にも後ろにも向けても、木ばかり。どうやら森の中にいるらしい。確か千秋の町にはこんな森は無かったはずだ。少なくとも、記憶にはない。思い出すのは、鍵を盗んだネコと、さっきまでいた化け物のことだけだ。

「!!?」

 ばっ! と、千秋は再度周りを見回す。……特に何もない。木しか無い。

 それを完全に確認すると、思わず胸を撫で下ろした。

「よかったぁ……本当に夢だったんだね……」

 夢じゃなかったらどうしようかと思っていた。現代、西暦二〇七五年の今では、『魔法』なんてものが普通に存在している。一応、彼女には使えるはずなのだが、何故か使えない。そんな状況で、いつあんなものに出会うか知れない町を歩きたくはなかった。

 と、そんな安心感と共に、千秋はある可能性にたどり着いてしまった。

「……もしかして。私って、あんなマンガみたいな夢を見るほどイタイ頭なの!?」

 謎の化け物に襲われる→カッコいい少年に助けられる→なんか物語が進む。

 ベタなようなそうでもないような展開だった。

「あああぁぁぁぁ……どうしようどうしようどうしよう……。確かにお兄ちゃんの影響でマンガは読んだりするけど夢にまで見るほど影響されてたなんて……こんなの友達に言えないよぉ……」

 言わなければいい。というところまではたどり着かないらしい。千秋はまるで、受験に落ちていたらどうしようという恐怖から合否の通知を見られない人みたいに頭を抱えていた。どうも彼女にとっては、相当な問題のようで、背後に近寄られても全く気付かなかった。

「……何してんだ?」

「うにゃあっ!?」

「うおっ」

 驚いて飛び上がった千秋は、反射的に背後の男(声的に判断)に蹴りをお見舞いする。さすがに予想外だったのか、モロに受けた男は「〜〜〜〜ッ!!?」と声にならないうめき声を上げて倒れた。

「……あれ?」

 自分が蹴った相手をよく見てみると……。

 夢の中にいた少年だった。

「…………」

 ダラダラと汗を垂れ流す。

 ──まさか……。

「いっててて……ったく、何なんだ?」

「いいいいぃぃぃぃぃぃぃやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

「ぐはっ!? うごっ?! ひぎゃっ!! ちょっとまってぃべっ!!?」

「お願いします消えてくださいあなたは夢の中の住人なんですこの世にはいないんです私の幻覚なんですせめて出てくるなら夢だけにしてくださいお願いしますお願いしますとりあえず何でもするんで消えてなくなってくださいっていうか消えろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ────ッ!!」

「あぎゃはっ! ぐへふ! あべし! ずはっ!! だからむぐぉっ!? 待てっていぎぃ?! ま、マジで待ってくれ痛いからマジで痛いからッ!!」

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ私のイタイ頭と共に消えろ消えろ消えろ」

「怖っ! ごふっ!!」

 それから会話もまともにしたことの無い少年をDVのごとく蹴り続けて約五分。精神的疲労からか、息を切らしながらボコボコに蹴られた少年を見下ろす。

「はぁ……はぁ……はぁ……くっ、消えない……」

「うぐっ……人散々蹴っといて謝りもしないのかよ……。一応命の恩人なんだけどな……」

「夢の中で死んでも現実の私は生きます」

「夢って……」

〈まぁ、確かに夢っぽくはありますが〉

 ちゃき、と、少年が腰の辺りから黒光りする拳銃を取り出した。

「ひぃっ!? 拳銃!?」

「トライデント。待機形状が銃なだけ」

「あー、なるほど。じゃあさっき喋ったのって……」

「そ。俺の相棒らしい、シルディック・アインだ」

〈らしいは余計です。どうぞよろしく〉

「は、はぁ……」

 お辞儀されたので(少年が手首を動かしただけだが)、お辞儀し返した。

「……って、夢の中の人によろしくって言われても……」

「夢じゃないぞ」

「何言ってるんですか? あんなマンガの中にしかないようなのがいるわけないじゃないですか」

 一応、初対面だからか敬語で喋る千秋。

「魔法はあるのに?」

「うっ、それを言われるとキツいですけど……でもでも、あんなのがいるなんて分かってたら、もっと騒ぎになってると思いますよ?」

「隠蔽されてるかもよ? パニックになるかもだし」

「それは……一理ありますけど……」

 自分自身パニックになっていたからか、そう言われると弱かった。

「第一、いくら魔法なんて物があるからって、夢の中の住人を蹴れるわけないだろ」

「うっ……まあ、確かに……」

 さすがに頭が冷えてきたのか、正常な思考回路が戻ってきていた。よくよく考えてみれば、夢の中の住人が見えているということは、幻覚な訳で。その幻覚は形なんてあったもんじゃないのだから、蹴れる訳も無い。よく考えることも無いことだが。

 それを察したのかどうか、少年は大きくため息をついた。

「とにかく自己紹介がまだだ。話はその後」

 少年は、こちらに手を差し出して、

「俺は神射蒼夜。神を射る蒼い夜で、かみいそうやだ」

〈私の名前は、先程ご紹介された通り、シルディック・アインと申します〉

 その手を握り返しながら、

「えっと、美薙月千秋です。あの……その……」

「いいよ、気にしてないから。『めちゃくちゃ』痛かっただけだし」

「うぅ……」

 思いきり気にしていた。心無しか握手している手に力を入れている気がする。

「あぁ、あと。見たところ同い年だし敬語じゃなくっていいぞ。堅苦しいし。名前も蒼夜でいい」

〈私のことはとりあえずシルディとでも呼んでください。蒼夜様は呼んでくれないので〉

「えっと、うん。蒼夜……君と、シルディだね」

 頬を紅潮させたのは、別に蒼夜がカッコいいとかではなく、単純に男性の名前を呼ぶ経験が無いためだ。しかしどうとったのか、シルディックが「ひゅーひゅー」などと言っている。蒼夜は一瞬手元を睨んだが、無視して話を続ける。

「……とりあえず、さっぱり何も分かってないようだから状況説明してやる」

「お願いします」

「ん。まずだ。ここは日本じゃない」

「は?」

「ついでに言うと、アメリカでも中国でもロシアでもイギリスでもイタリアでもどこでもない」

「あのー、どういうことですか?」

「まぁ簡単に言うとだな」

 蒼夜は一間空けて、


「ここは異世界だ」


「……………………。………………。…………。……は?」

 千秋は一瞬、どころではなく全く言われた意味が分からなかった。

「だから、ここは異世界」

「いせかい? 伊勢エビの貝?」

「違う! 異なる世界で異世界だ! てかなんだよ伊勢エビの貝って!?」

「んーと、えっと……伊勢エビガイが入ってた貝?」

「伊勢エビガイ!? 苦し過ぎるだろう! そんな奴いないし!」

「うぅ……」

 とりあえず仕切りなおすことに。

「とにかく。ここは異世界なんだ。世界名スフィーリア、でかい都市も無い代わりにでかい遺跡とか伝説残る田舎だ」

「えっと……それが本当だとして、なんでそんなところに?」

「ちょっとした現象が起こっててな」

〈World Mixture Phenomenon。直訳すると世界混合現象〉

「とかいうのが起きてんだ」

〈簡単に言ってしまえば、どうやら多数ある異世界同士が合体しようとしているようなのです〉

「がったい?」

「詳しいことはよく分からない。今のところは何が起きてるって訳でもないしな。精々あの化け物、デビルと狭間が出てくるようになったくらいだ」

 それは十分問題だと思うが。

「狭間?」

「異世界間を繋ぐ道だ。突然現れる謎のワープゲート」

〈先程千秋さんが吸い込まれたあれです〉

「あー……ん?」

「どうした?」

 何か思い出したような顔をした千秋を、訝しげに見る。

「いや、そういえばあのとき誰かに足引っ張られた気がして……」

「うっ……き、気のせいじゃねーか?」

「引っ張ったとしたら……蒼夜君?」

 図星だった。

「そ、そそそそそそんなバカな! な、なんでそんな事しなきゃなんないんだよ?」

「……なら良いんだけど」

 蒼夜は安堵の息を吐いた。「とにかく」と、説明を続ける。

「調査はしてるけど、詳しいことはさっぱりだ。『世界が終わる』とか、『別のものになる』とか、いろいろと説はあるけどな。うちは結構のんびりしてるよ」

〈まぁ、本部の方はともかく、SGSは学校ですからね〉

「そういうことだ」

 センチュリーズ・ギア・スクール。通称SGS。

 現在日本を、いや世界を管理している組織『世紀の歯車』が開いた小中高一貫校だ。『世紀の歯車』の本部が日本にあるからか、日本に建てられた。いわゆる魔法学校だ(魔法学校自体はSGSだけではない)。

 とはいえ、この学校は推薦でしか入れない。しかもSGSからの推薦だけだ。どこから情報を仕入れるのか(世界を管理しているからその程度は簡単なのだろうか)、磨けば光るであろう原石を発見し、入らないか、と直接出向いてまで誘う。大抵断る人はいないが、推薦されただけでも名誉らしい。

 まぁ、千秋は前述の通り魔法が何故か使えないので来る訳も無かったが。

「まぁ、何故こんなところにいるのかっていう説明はこれで終了だ。分かったか?」

「なんとなく……」

「そうか、じゃあ今度は、これからのお話だ」

「うん」

「さっき何でもしてくれる、って言ってたよな?」

「え?」

「俺を蹴ってる時だよ、覚えてないのか?」

「い、言った気は──するけど」

「じゃあとりあえずだなぁ」

 ジロジロと千秋を見る蒼夜。

「ま、まさか……」

「おう、俺の手伝いを──」


「助けてもらっておいて蹴ったお返しに身体で返せとか言うの!?」


「なんでそうなるんだよ!?」

「うぅ……だってジロジロいやらしく見てた!」

「見るかぁッ!!」

「男の子ってやっぱり頭の中そういうことばっかりなんだ!」

「おい、話を聞け」

「ひぁ! 言うこと聞けなんて! やっぱり!!」

「お前の耳には台詞改竄装置(せりふかいざんそうち)でも装備されてんのか!!?」

「男の子恐い!!」

「俺はお前が恐いよッ!!」

〈蒼夜様蒼夜様〉

 と、どうでもよさそうにシルディックが割って入った。

「何だよ!?」

〈口論してて良いんですか?〉

「はぁ? ……!!」

「ど、どうしたの?」

「囲まれてる」

「え?」

 はっ、と千秋は気付いた。

 周りを見てみれば、木の影からこちらを覗き込む人影が周りを囲んでいた。どうも全員男らしいが、それにしてはなんだか全員有りがちな格好をしている。なんというか、いわゆる盗賊っぽい格好を。当然、頭にはバンダナ装備だ。

「千秋。お前魔法は?」

「使えるはずだけど使えない、って言われた」

「……なるほど。ちょっとお前のこと分かってきた」

「え?」


「俺の後ろに隠れてろ。ぱぱっと蹴散らしてやる」











台詞ばっかかも……。


今回は基本的に設定語りとギャグだったつもりです

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