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「カッコつけたらつけ通す!!」

 ズダダダダダダダダダダダダダッッ!! と、轟く銃声が聞こえると共に、黒龍の黒い身体に火花が散る。確実に傷すらもつけられていないだろうそれは、ただ単にこちらに出来るだけ気を引くための物だ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 黒龍の真上から急降下し、勢いを殺さずに水竜の右翼(ドラグーン・ライト)を叩き付ける。

 ドッッシャアアアアアアアアア!! と轟音が響く。

 水竜の右翼は黒龍の左肩を抉った。が、それ止まりだ。傷は浅いし、少し呻いただけで怯みもしない。

 やはり持っていたらしい対魔力能力が水竜の右翼に対抗し、その拮抗に蒼夜の方が耐えられなかったのだ。見た所かなり高い、というほどの物でもないようだが、今の蒼夜がこれに対するならばEASで出来る分だけ具現力を強化しなければならないだろう。それでも勝てるかどうかはやってみなければ分からないが。

 まだまだ余裕らしい黒龍が抉られた方の腕を蒼夜に向けて振るう。

 腕自体は避けられたが、それによって生み出された風圧に煽られて吹き飛ばされバランスが崩れる。

「チッ……!」

 何とか体勢を立て直しながら、射撃魔法『アクア・ブラスター』で牽制する。当然、ただ当たっただけでダメージなど全くないだろが、あくまで牽制。特に気にしない。

 それに、蒼夜でさえも今は囮でしかない(・・・・・・)のだ。倒せればそれで良いが、わざわざ無理に倒しにいく事はない。一五分。それだけ持ちこたえる事が出来れば良いのだ。

〈蒼夜様、あと一〇分です〉

「やっと三分の一かよ……! 無駄に長い、一〇分、だっ!!」

 上昇し降下し旋回し突っ込み退がる。あっちに飛んだりこっちに飛んだり下りたり上がったりをして黒龍の攻撃を避ける。風圧が煽ってくるが、一撃がこちらの戦闘不能へと繋がっているだろう事を考えると絶対に当たってはやれない。牽制し隙があれば攻撃しつつ、確実に黒龍の攻撃は避けていく。

 蒼夜はEASを二本抜き取りつつ、黒龍が開けた巨大な口の中にアクア・ブラスターを撃ち込む。中はどうも対魔力能力が弱いのか、直撃すると同時に轟音としか言いようのない悲鳴を上げ、少し怯む。

 その隙にEASをシルディックに差し込みロードさせ、水竜の右翼をさらに具現化させる。すると、翼が身の丈の二倍以上の大きさになった。だが、これはあくまで現実空間に具現化出来る魔法の効力が何倍かになっただけだ。対魔力に勝つ確実性を求めるならば更に一工夫をしなければならない。

 飛びながら蒼夜は巨大化した水竜の右翼を身の丈ほどの大きさまで、魔力を圧縮して縮めた。更に、基本的に相手へぶつける翼の下半分の方へ魔力を多めにし、上半分は飛べる最低限の魔力だけを残した。下に魔力をやった事で少し下に大きくなったが、そこは再び魔力を圧縮して元の大きさに戻す。

 巨大な尻尾が蒼夜に向けて振るわれた。当然蒼夜は上昇して避ける。が、それを狙うように黒龍はその巨体からは考えられない速度で、尻尾のためにひねった身体を蒼夜の方に戻しながら殴り掛かって来た。

 蒼夜は翼の下で斜めに受けつつ後方に流した。その過程で前に押し出された身体の速度を緩めず、さらに速度を上げながら顔面に一気に近づく。

「はああああああああああぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 ブワァ! と黒龍が翼を使って後ろに下がって起きた風圧が蒼夜を襲う。直感的な物か、黒龍は当たったら危険だと判断したようだ。

 だがそんなものを蒼夜は気にしない。向こうが下がるのが少し遅かった。水竜の右翼は既に振り下ろしている。


 翼の先端付近が黒龍の右目を削り取った。


 黒龍が下がったせいで直撃こそしなかったが、確実に消滅させた。対魔力能力を無視出来た。

(行ける──!!)

 黒龍が悲鳴を上げる中、消された右目から鮮血が吹き出す。

 痛さからか、よろけて後退する黒龍に追い討ちをかけるように水竜の右翼を振るう。狙うは頭。正確には額の部分にある黒い黒曜石のような石。龍の核石だ。

 生体になった龍属を倒すにはただ腕や足を落としたり頭や腹を吹き飛ばすだけではダメだ。子供を倒すならそれで十分だが、今目の前にいるようなのを倒すには核石を破壊するしかない。

 龍属の生命力は凄まじい。

 たとえ腕を落としてもすぐ様再生するほどだ。今さっき抉った右目も再生が既に始まり、血はもう止まっている。目はさすがにすぐには治らないようだが、一日、いや半日と数時間もあれば完全に治るだろう。人間では考えられない事も龍属は可能にしてくる。

 だが、核石を壊されればそうはいかない。

 核石を壊された龍属は再生も出来ぬまま即死し、塵となって消える。龍属にとってただ一つの急所だ。

 ……まぁ、それでも何十年何百年と経てば、その核石は自然力によって再構成され復活するのだが。

 話を戻そう。

 振り下ろした水竜の右翼は黒龍が暴れたせいで核石には当たらずに左目の下辺りを抉るだけで留まった。が、痛い物はやはり痛いらしく、悲鳴を上げる。目の前にいる蒼夜は、その被害をもろに受けている。今にも鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどだ。

 そんな考えも、黒龍の行動で吹き飛ぶ。唐突に飛び上がり始めたのだ。

 黒龍はその巨大な翼をはばたかせて空へと舞い上がる。

「クソっ、逃げる気か!?」

〈いえ。どうやら違うようです〉

 なに? と、蒼夜はシルディックに視線を移す。

〈黒龍体内からの魔力反応急激増大。前面及び黒龍を包むように展開していきます。どうも──〉

 じれったくなるような一瞬をシルディックは開け……告げた。


 ──バカでかい一撃を撃ってくるようです。

 

「ッ!!?」

 思わず黒龍の方へ視線を戻す。

 薄く見える”水色の流れ”が黒龍の顔の前を流れ、更にオーラのようにその巨体を包んでいる。顔の前を流れる”水色の流れ”は急激に濃くなっていき、集束していく。ついにはその集束した”水色の流れ“の前面に、黒龍の身体半分くらいの大きさはある魔法陣が出現する。

 ──聞いた事がある。

 黒龍を含む龍属というのは、核石を通じてその身に宿す強大な魔力を現実空間に干渉可能な物へと変化させる事が出来る──と。

 もし。もしもその話が本当だとしたら。

 もし。もしも今見えるあの”水色の流れ“が黒龍の膨大な魔力(・・・・・)だとしたら……。

「に、逃げ、ろ……」

 焦りで口がまわらない。届く事も怪しい。だが叫ばずにはいられなかった。思うように動かない口を無理矢理に動かし、叫んだ。


「みんな逃げろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッ!!」


 瞬間。

 ズッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッッ!! と、蒼き破壊の光が轟音を放つ。

 魔法陣を通った黒龍の集束した魔力は、ドーム状に広がって自分の下にある物を破壊した。範囲はおそらく半径一〇〇メートル前後。完全に町人達がいた場所をカバーしている。たとえ黒龍が魔力を放出してるのに気付いた瞬間から逃げ出していたとしても全員が助かる、という事は確実にない。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 全身をナイフで突き刺されるような激痛に蒼夜は思わず地面を転がる。

 一瞬で地面に叩き付けられた蒼夜が水竜の右翼で防御出来たのもほんの数秒。いや、その数秒が命をつなぎ止めたと言うべきか。水竜の右翼を破られて黒龍の一撃を受けたのは一秒にも満たないほんの一瞬だった。おかげで身体が吹き飛ぶ事もなく、五体満足でいられた。

 だがダメージが相当大きいのも事実だ。

 ただ腕を動かそうとしただけで少し痛む。立ち上がろうとすれば骨がきしみ、全身に痛みが走る。

 まだこれだけで済んでいるのだからマシというのもだろう。もしあれが拡散ではなく集束した物をそのまま撃ち込まれていたらたかが(・・・)半径一〇〇メートル程度じゃ済まなかったはずだ。全力でもし撃ち込まれでもしたら、下手すると一国が半壊するほどの威力を持っている可能性だってあるのだ。

「くそっ……!」

 魔力はもうほとんど持っていかれた。水竜の右翼は作れても精々飛ぶためだけの物程度しか出来ない。

 本来ならばたかだか一回や二回全力で戦っても使える魔力が尽きるほど蒼夜は弱くない。それに蒼夜は周りよりもかなり多い魔力を持っている。が、山賊戦や一度目のこく竜泉などの連戦に告ぐ連戦で魔力は結構消費していた。一度町長邸で休んだ時には少しだけ回復したが、『少し』止まりだった。

 その上でかなり全力の水 竜 の 右 翼(ドラグーン・ライト)を使ったし、更に防御の為に即席の障壁も使った。使用可能魔力が底をつきかけるのも無理はない。

 そんな中、無情にも黒龍は次の一撃を放とうとしていた。

「ちっ……くしょう……んな所で死ねるか……ッ! シルディック! さっさと水竜の右翼を再構成しろ!!」

〈本来の効果は──〉

「出来ねぇのは分かってるからさっさとやれ!!」

〈了解。術式急速構築〉

 蒼夜の背中に再び水竜の右翼が構築されていく。

 黒龍の口元には魔法陣が出現する。さっきのに比べてかなり小さな。おそらく今度は広範囲ではなくピンポイントに狙うタイプなのだろう。

 パシン、と音がすると共に水竜の右翼が完成する。

 瞬間、魔法陣を黒龍の魔力球が通過した。

 ズドオオオオオン!! という爆音と共に青白く細長い閃光が蒼夜に目掛けて飛ぶ。

(間に合うか……ッ!!?)

「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 同じように蒼く輝く翼を全力ではばたかせる。翼の周りを切った空気が吹き荒れ、大きく砂埃を立てたが三度。

 地面に背中を引きずりながら後ろへと下がる。石やら枝がぶつかって痛いのを無視し、ただ自分に迫る光を見ながら。

 少し背中が浮いた瞬間、着弾した。──靴をかすめて。

 空へと飛び上がりながら蒼夜は思わず安堵の息を吐いた。直後に崖へと衝突したが。

「うごっ!? くそっ……締まらねぇなぁ……」

 言って蒼夜は同じフィールド()にいる黒龍を見る。

 満身創痍。疲労困憊。魔力切れ寸前の上、黒龍の硬い鱗を通り抜けさせれるほどの攻撃手段も正直無いに等しい。が、それでも蒼夜はシルディックを握る手に力を入れる。

 正直もう黒龍に勝てるとか勝てないとかどうでもよかった。蒼夜の身体を動かしているのはそんな勝利願望などではない。

 ただ単純に、カッコつけたなら最後までカッコつけたい。それだけだ。

 ──実は負けず嫌いな蒼夜が逃げずに黒龍と戦っているのはそんなくだらない理由。

「さぁ行くぞ。敗率九九パーセントの第二ラウンドだ」


      *  *  *


 廃墟群。最初に視界に入って来て浮かんだ単語はこれだった。

 人の気配の全くしない建物が並ぶ町。その建物達はツタが上っていたり草だらけだったり天井がなかったりと、様々な物がある。が、元の形自体は全て同じような物らしく、四角い形のした単純な物ばかり。少なくとも千秋の視界に入った建物に四角い物意外はない(崩れている物以外だが)。

 周りは崖で覆われ、崖の上には森が広がっている。

 周りを見渡すと、丁度後ろ。少し離れた所に、見覚えのある一際大きな建物があった。四角形を重ねたような建物で、柱や門、入り口付近に天使みたいな形をした人形の彫刻の彫られた建物。言うなれば神殿と言った物だろうか。

 それを見た瞬間に、いろいろあって記憶の奥に沈んでいたものが浮かび上がって来た。

 白銀の遺跡。

 黒龍が棲んでいるとされていた、第二遺跡地帯ポイントB三エリア全てを占める巨大な遺跡だ。

「前こっちに来た時と出る場所が違う……?」

〈出る場所は基本的にランダムだよ、千秋ちゃん〉

 へぇ、と呟きながら千秋は神殿へと向かう。

「もし……もしも私の考えが正しいなら、あれに黒龍を止めるための答えがあるはず……」

 特別自信がある訳ではない。正直、直感による所が多い。が、それでも千秋はこれを答えとして選んだ。

 だから向かうのだ。神殿に。神殿の奥、黒龍がいたであろう広間に。

 千秋は神殿内部に入ると、何の躊躇いもなく真っすぐに進む。数分歩き曲がり角も通り過ぎ、更に進んでいくと外の光が千秋の目に飛び込んでくる。

 入り口付近には池があり、部屋の中心には大きな瓦礫が積み重なっていてその天井には大きな穴があいている。前に来た時と何の違いもない。千秋はその部屋の中心、瓦礫が積み重なった所まで歩いていき、部屋全体を見渡す。

「アークス。分かる?」

〈んー、ちょっと待ってくれ……部屋、にはねーな。ただ立体的に見た場合だとこの部屋の少し下の方になんかの反応がある。これじゃねーか?〉

「どう行けば良いの?」

〈ふむ……瓦礫の下だな。この瓦礫をふっとばしゃ良い〉

「なるほど……分かった。じゃあこうして、っと」

 むむむ……、と唸りながらボールを持つようにしながら、両手に力を入れて魔力を外に流す。空気制御の力によって千秋の制御下に置かれたエメラルドグリーンの風が、千秋の両手に集まり圧縮されていく。

 しばらくそうして、これくらいかな? いやこれくらい? と試行錯誤すること二、三分。

「よし……はぁっ!!」

 ブワァッ! ガラガラガラドンガラガッシャーン!! と、圧縮された風が一気に前面に解放されて文字通り暴風が吹き荒れ、瓦礫を思いきり吹き飛ばして壁を突き破る。どうも壁の外はそこまで高くない崖になっていたらしく、数メートルほど飛んだ後下に落ちていった。

〈千秋ちゃん、それだそれ〉

 瓦礫の下にあったのは穴だった。秘密基地にでも繋がってそうな穴だ。大きさ自体は千秋は入れる、蒼夜もおそらく、でもアレックスやイグリアは無理だろう、というくらいのものだ。見ると奥の方に繋がっており、奥の方から少しだけ光が漏れている所を見ると、壁の向こうにあった崖の下にでも繋がっているのかもしれない。

 千秋は数秒目を閉じて耳を澄ませ、そしてゆっくりと目を開ける。

「よし、飛び込むよ!」

〈おう! 行ったれ!!〉

 何の躊躇いもなく千秋は穴の中に入っていった。


 瞬間、ズルっと、滑り落ちた。滑り台みたいに。


「ひゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

〈そういうドジっぽいのは変わんねぇんだなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!〉

 一人と一つは、そのまま奥へと入って(落ちて)いった。


      *  *  *


 蒼夜と黒龍の第二ラウンドはそこまで複雑な物ではない。

 黒龍が攻撃し蒼夜が避ける。ただこれだけだ。

 蒼夜が攻撃しないのは、戦いに集中して忘れていたがそもそも囮だからだ。つまり時間稼ぎ。あれから結構時間が経ってあと二、三分。それだけ耐えれば良いのだ。故に無理して通らない攻撃をする必要もない。さっきの攻撃でその必要もなくなったのでは、と思うかもしれないが、ちょうど飛び上がって黒龍の攻撃を避けたときに耳につけたインコムから町人の声が聞こえて来たのだ。作戦は続行中、時間にも間に合う、と。

 というわけで未だに囮をやっているのだが……だからといってただただ避けていれば良いという訳ではない。確実に黒龍の気を引いておくためには結構いろいろとやっていなければならないのだ。基本的に近くで。

 例えば、黒龍の近くで飛び回り、たまにだが確実に通らないことが分かりきっている攻撃をしたり、眼球はまだ再生していない右目の方へ行って完全な死角に行く事で振り向かせてみたり。正直心臓に悪い事しかやっていないが、その分黒龍の気は引けているからここでやめる訳にも行かない。

〈蒼夜様下から。次は右、更に左、おっと今度は右斜め上からです〉

「でかい図体してるくせに動きはなんでこんなに速いんだよ!?」

〈単純に魔力で強化してるのではないでしょうか。意外と器用なようですからおっとまさかの後ろから〉

「うおおおおぅ!!? 危ねぇっ!!」

〈ハエみたいに飛び回るからいい加減蒼夜様の事が鬱陶しいんじゃないですか更に前方と真上から攻撃が来てます〉

「普通に指示しろよ! 冗談まで混ぜる必要ねぇから、よぉ!!」

 上へ下へ右へ左へ斜め下へ上へ後ろへバク転トルネードなどなどしながら次々に避ける。正直黒龍が攻撃するたびに生まれる風圧が半端じゃないのだが、全く持って構っていられない。

 と、インコムに通信が入る。セシアからだ。

『準備は完了。蒼夜さん、黒龍を今の一からなるべくずらさないでください』

「りょう……かいっ! うおっと!」

 視界の端に捕らえた待っていた物。被害のない森に置かれているとある機械。

 『鉱石発掘用洞窟製作用超大型ドリル』というやけに長ったらしい名前のでかいドリルだ。大きさは高さが一〇メートル、幅が四、五メートルくらいだろうか。赤と白のカラーリングのそれはロケットのような形をしており、ドリルの反対側にはブースターがつけられている。

 魔力は使ってないから対魔力能力は聞かないし、魔法加工されてダイヤモンドよりも硬いドリルを使っているから基本的に掘れない物はない。これを黒龍に撃ち込むのだ。

 効かないのでは、と思った人も町人はいたが、元々武器として作られる予定だったのかドリル部分がパイルバンカーのような機能を持つ。

 これは連続でガンガンと行く事は出来ないが、内部に新式魔法が刻まれており命中すると同時に、マシンガン並みの速度で同程度の威力の一撃が五秒続けられる。ちなみに一秒につき五〇回だから、五秒ということは二五〇回も打たれる。しかも一センチのずれもない所に打つのだ。これでぶち破れない物はほとんどないと推定されるほどの威力らしい。何故武器として使われなかったのか非常に気になる一品だ。

 ちなみに余談だが、キャッチフレーズは『龍の鱗もイチコロ♪』だったりする。

『蒼夜さん、発射まであと五、四、三、二、一──』

 ゼロ、とセシアが言うと同時、バアンッ!! という音共に何かがこちらに爆音を響かせながら近づいてくる。しかも相当なスピードで。

 黒龍は何の音だとびっくりして一瞬動きが止まった。止めてしまった。

 今頃気付いてももう遅い。

 ズッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド────────ッ!! と、爆発音が連続で黒龍の背中から響いた。

 そして──何かの高速回転音と共に黒龍の腹から巨大なドリルが出て来た。


 はずだった。


 ズッドオオオオオオオン!! と、突然ドリルが爆発したのだ。黒龍を貫通する前に。

「なっ!!?」

 青い光が黒龍の背中に集まっていき、穴があいた背中を修復していく。

〈爆発の瞬間魔力が放出されるのを感知しました。おそらく魔力で押しつぶしたのではないかと〉

「んなデタラメな事出来んのか龍属ってのは!?」

〈まぁ目の前でやっている訳ですし〉

「くそっ……どうする……ッ!!?」

 魔力はこれ以上使えない、攻撃は通じない、ドリルはもうない、町人も蒼夜も満身創痍、疲労困憊。

 戦いを続けるだけ無駄、という結論しか出てこない。が、今更逃げられるだろうか。逃げるのをこの黒龍は許すだろうか。

 何かが空気を切る音がした。

 それに蒼夜は動揺からか反応出来なかった。

「しまっ……!!」

 ゴッ!! と、黒龍の巨大な腕が蒼夜を捕らえた。

 身体から力が抜ける。

 水竜の右翼はまだ維持されているが空に居続ける気力も体力もない。


 ──終わった、そう感じた蒼夜を何かが優しく捕らえた。


「ぅ……あ……?」

 それは人ではなく、エメラルドグリーンに輝く涼しい何か。そのまま身を委ねてしまいたくなるほどにそこは心地良い。

 それを見た瞬間、意識がハッキリしていくのを感じた。

「ま……さか……」

〈……どうも、そうみたいですね。ほら、あそこ〉



「蒼夜君ッ!!」


 聞き覚えのある声が崖の上から聞こえた。

 見覚えのある姿が崖の上に立っていた。

 自分が地球に帰したはず(・・)の少女がそこには立っていた。

 美薙月 千秋(みなつきちあき)が。






 ……最近、効果音を使い過ぎな気がする今日この頃です。

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