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「オレは千秋ちゃんに付いてくだけさ」

 最初に聞こえたのはチャイムの音だった。

 キーンコーンカーンコーン、となり響く人工の音が右耳と左耳から通過していき、今ここが自分の最も知っている世界だと実感させてくる。

 ここは──正真正銘、スフィーリアではない。

 千秋の故郷、地球だった。

 転移先が何故自分の学校のか、なんて事は問題ではない。そんなものは、時間的な問題もあるだろうし、どこの学校かに関してはシルディックで制服につけられた校章を検索すれば良いだけの話だ。

〈起きたな? 千秋ちゃん〉

 腰の辺りから聞き覚えのある声が聞こえる。

「ん……アークス?」

〈おう。ちなみに夢じゃないぞ、まぁオレがいる時点でそんな考えには至らないだろうけどな〉

「まぁね……」

 千秋は力のない声で言うと、立ち上がって梯子を下りる。千秋が今いた場所は確かに屋上であったが、正確には屋上に通じるドアの上にある水タンクの上だった。タンクの下にある、梯子も下り、ドアを通って階段を下りていく。ちなみに、屋上のドアはオートロックで、昼休みの時だけ鍵が開くシステムらしい。今の学校はどこもこんな感じのようだ。

〈どこ行くんだ?〉

「保健室……。擦り傷とかばっかりだったから向こうじゃ断ったけど、一応、ね」

〈まぁ……いつの間にやら額から血でてるからなぁ〉

 保健室は当然(かは分からないが、多分基本的には)一階にある。ここは四階+屋上なので、なんとなく疲労感のある今一番下まで下りるのは面倒なことだった。が、あのままあそこにいても仕様がないので、怪我もしているしとりあえず保健室に行く、という思考の流れをたどった訳だ。

 時間的に今は昼ご飯の時間。先程聞こえたチャイムはおそらく四時間目が終わった、というやつだろう。

 かといって廊下から誰かが出てくるような音はあまりない。弁当やおにぎりなどを学校で買う人は少ないし、教室外や屋上、中庭などで食べようとする生徒も少ない。だからなのだろうが、三階、二階に下りても生徒には誰にも会わないし誰もいない。

 が、あくまで生徒には、だ。

「ん? んなっ……!?」

 と、丁度一階に降りて来たと同時、目の間に何の偶然か、教師は二、三〇人ほどいる(一応私立)というのに、自分のクラスの担任が目の前に現れた。

「み、美薙月ぃッ!! お前この五日間どこにいたんだ!? ああ、ああ……そんな傷だらけで……うわっ! お前頭から血が!!」

「す、すいません……ちょっといろいろあって……」

(い、言えない……ちょっと異世界で事件に巻き込まれてましたなんて言えないっ)

 そんなこと言ってなど見れば、頭の心配をされて即刻病院にでも連れて行かれるのがオチだ。

「まったく! お兄さんが心配していたぞ? ……まぁ良い、事情は後で聞く。とにかくちょっと来い。保健室で処置してもらおう」

「あ、はい……」

 担任の先生は嘆息しながら保健室に向かって行った。千秋もそれに続く。

「はぁ……成績優秀で性格も良いお前のことだ、何かしらの事情はあったんだろうが、せめて家族か学校に連絡ぐらいはしなさい。クラスのみんなだって心配していたんだから」

「はい……すいません……」

【って言っても、世界間の通信なんて簡単に出来るもんじゃねーけどなー】

 念話でアークスがそんな事を言った。

 千秋は先生に付いていきながら、

【そうなの?】

【おうよ、まだ世界間通信の魔法技術は確立してねぇ。出来たって、短くて五分、長くて一〇分か一五分くらいのもんだろうよ。聞いた話じゃ、色々と研究はされてるみたいだけどなぁー】

【まぁ……古式魔法じゃ『感』と『空間』の属性しか通信系の魔法は使えないしね。新式魔法はかなり進んでるみたいだけど】

【新式は属性に縛られねぇからな。っても、その新式ですら世界間の通信は五分、一〇分なんだが】

 保健室に入り、最近赴任して来た保険医の先生、東 雲 梓(しののめあずさ)に驚かれながら、処置を始める。ちなみに担任の先生は保健室から出て行き部屋の外で待っている。

「怪我、してるところはどこ?」

「えっと……」

【額は言わずもがな。左腕の二の腕辺り、肘付近と、右腕の手首より少し後ろ。あとは腰とか足の太腿やら何やらに擦り傷があるぜ? 額以外は擦り傷しかないし、消毒とかで済むんじゃないか?】

「おでこのこれと、左腕のこことここの辺りと、右のここら辺。あと腰と足にも……」

「りょーかい。じゃあ、上、ブラウスまで脱いでくれる?」

「はい」

 言われた通りにブレザーを脱ぎ、リボンをほどいて襟から抜き取ってブラウスを脱ぐ。梓が窓のカーテンをいつの間にやら閉めていたので特に気にせずに脱いだ。

「ん、擦り傷ばっかりだし、おでこ以外は消毒ね? ちょっとしみるけど我慢ねー」

 千秋の白い肌に消毒液が落とされる。治療や処置に魔法を使わないのは、この先生がその類の魔法が扱える属性を持っていないからだ。いや、確かに無理矢理でも屁理屈をつなげれば治療系、回復系の魔法は作れるのかもしれないが、基本的にその系統の魔法は『水』か『風』、もしくは『愛』が効果が高い。

 つまり、わざわざそこまで効果のない(具現力の高さにはよるが)物を作るより、普通に処置して人間の回復力に頼った方が効率がいいのだ。

 それにしても、とアークスが、

【男子が入って来たらどうするのかねぇ】

 などと言って来た。すると特に気にした風もない千秋は、

【外にいる先生が止めてくれるよ】

【なるほど。変態扱いされないついでにそんな役割があったのか】

【なんか酷くない……? ていうか、そんなこと言ったらアークスだって……】

【人間的、動物的に言ったらオレは男なんだろうが、トライデント的に言ったらオレ達に性別なんてあってないようなもんじゃねーか】

【そりゃそうなんだろうけど……】 

 アークスははっはっは、と笑いながら、

【ま、トライデントが男なのに私の裸を見てるー、なんて言ってたら、トライデントなんて一生持てねーよ。ましてや契約型はな】

 それはそうだ、と千秋も同意する。契約型に関しては自分がトライデントを選ぶのではなく、トライデントが自分を選んでくるのだ。性別など選び様もないし、性格などもちろん選べない。

 まぁ、性格は抜きにして、アークスのように主に対してタメ口を使うトライデントというのは、契約型にしても人工型にしても非常に、それはもう極限的に珍しい物ではあるのだろうが。そこは主の受けとり方次第、受け止め方次第、考え方次第なのだろう。

 そう考えると、千秋とアークスの相性は結構良いものなのかもしれない。

 そんなどうでも良い思考に至ること1.59秒。

「はい、とりあえずこんなものねー」

 梓が処置を終える。擦り傷には消毒だけして、血が滲んでいる所には、絆創膏だと剥がすとき痛いでしょ? などとのたまわって、申し訳程度に包帯が巻いてある。非常に無駄な資源の使い方だ。

 額に関しては、血を拭き取って消毒をし、大きめの絆創膏(剥がしても痛くない! 絆創膏と箱に書いてあった。何故擦り傷の方にそれを使わなかったのかは不明)を張っておき、またもや包帯を巻く。これはちょっと激しく動いてもはがれないように、とのことらしい。

「じゃ、上着てねー」

 ところでこの先生、最近赴任したことは前述したが、千秋とは何故か親しい。それというのも、赴任して来た初日から千秋は部活の助っ人のための練習中に、ちょっとした怪我をしたからだ。その時から結構話をするようになったので、こうしてかなり軽い感じで喋ってくる。

 千秋がブラウスのボタンをはめていると、

「それにしても千秋ちゃーん?」

「ふぇ?」

「またちょっとおっきくなったんじゃない? こ・こ?」

 自分の胸元を指差しながら言う。が、

「……あーはい。そーですねー」

 と、千秋らしからぬテンションと声色で棒読みと脱力な声で言った。

「ちょっ、最近私の冗談スルーし過ぎじゃない?」

「先生の冗談は基本セクハラまがいの物ばかりなので、相手にしてたら疲れます」

「うわっ……相変わらず私に対しては冷たいわねぇ……。五日ぶりに会ったんだからちょっとくらい相手してくれても良いじゃないのよー」

「嫌ですよ……そんなのに付き合ってたら、胸触って来たりお尻触って来たり……。そっちの趣味は私にはないので、先生の冗談にはなるべく反応しない、と先々週辺りに誓いました」

「私だってそっちの趣味はないっ……とは言い切れないわね。私どっちもいけるし? そうねぇ、女の子の、特に千秋ちゃんみたいな美少女の肌って気持ちいいのよねぇー、それに甘く艶かしい喘ぎ声なんて……もう最高っ!! 男はイケメン過ぎるのも考えものよねー、あーゆーのは女たらしが多いと私は見てるし。ていうかそれが共通認識? いや、そういうのにも騙されるバカなのもいる訳だし……」

「何の話してるんですか……」

 梓は千秋を無視して続ける。

「男の子もしくは男と付き合うならやっぱり童顔か女顔が良いわねっ! 似たような物なのかもしれないけど、やっぱりカッコいいより可愛い方がいいじゃないの! そして女の子な格好させてぇ……ぶはっ、たまらん……!!」

「ちょっと……帰って来てくださーい……」

「あーっ!! 理○きゅーん! 私の愛しき○樹くーん! 私が直枝に嫁ぐから、私のお婿さん、いえ、お嫁さんになってちょうだいていうかなれよこんちくしょーっ!! なんで……なんであの男の娘は……理○くんはゲームのなかにしかいないのよーーーーーーーッッッッ!! ハッ、そうか。私がゲームの中に入れば──」

「…………」

「ああん♪ ち・あ・き・ちゃーん! そこで何か突っ込んでくれないと、私放置プレイで感じちゃう気持ちよくなっちゃぐほえッ!!」

「はいはい。もう良いです」

「ちょ、ちょっと千秋ちゃーん……? 女性の顔を蹴るのはさすがにマナー違反じゃない? ていうかお腹も同時に蹴られたんですけど……」

「先生の趣味嗜好及び性癖を一々暴露しなくても、私はもう知ってます。赴任してからそればっかり聞かされてますから。ついでに蹴ったことに関してはいい加減黙ってくれないとそろそろ先生の評判が今よりもヤバくなるかも、という私なりの善意ですから、お気になさらず」

(く、黒い……千秋ちゃん黒いぜ……)

 アークスのそんな思いもどこ吹く風と、千秋はリボンを襟に通す。

 すると梓は呻きながら崩れると、おいおいと泣き出した。

「うぅ……私の心配をしてくれるなら私と恋人同士になってよぉ……そろそろ三十路でヤバいのよぉ……」

「だから私にそっちの趣味はないですってば」

「だったら身体だけの関係でも良いからぁ……」

「そっちの方が嫌ですよ……ていうか悪化してますから……」

「お願いよ千秋ちゃぁん……早く誰か付き合ってくれて結婚してくれないと、私……私……」

 何だかちょっと可愛そうになって来た。ちょっとくらい優しい言葉をかけてあげようかなー、と思った千秋だったが──、

「私……千秋ちゃん強姦罪で捕まっちゃう!!」

「私に何しようとしてるんですかッ!!?」

「何って決まってるじゃなーい。〈ぴーーーー〉とか〈ぴーーー〉とか〈ぴぃいいいいいいいい〉などなどいっぱいあるわよ?」

「ワルクラを一八禁にする気ですか!?」

「良いのよ。責任は全部作者に行くから」

「酷ッ!!」

 千秋は思わず脱力した。……何でこんな先生と親しいんだろうか、などと思わずにはいられない。いや、今更か。

「まぁ良いわ。その内千秋ちゃんを公式に襲えるようになってみせるから」

「公式にそんな事出来るようになるわけないでしょうがっ!」

「とにかく、せんせー、終わりましたよー」

 と、梓が言うと、教室の外から担任の先生が出て来た。

「東雲先生……暴走するのは良いですが、叫ぶのはやめてください……」

「すいません先生私としたことが……てへっ♪」

「可愛く、てへっ、なんて言ったって私は騙されませんよ東雲先生」

「ちぇー、すいませーん」

 梓の適当な返事を特に気にせずに、担任の先生は千秋の方を向く。

「さて、事情を話してもらうぞ。美薙月」

 事情、と言われても、ぶっちゃけ荒唐無稽と言われても仕様がない事情しかない。頭の心配をされるだけで終わってしまう。出来ればそれは絶対に避けたい所だ。かといってどう説明すれば良いのか。

「……ちょっと整理させてください」

「分かった。話せるようになったら言ってくれ」

 ……さて。とりあえず時間は作った。あとはどう答えるかだ。

 適当に誤魔化す……というのは少し難しい。千秋はそういう嘘を考えるのも言うのも苦手だし、おそらく裏を取られて終わる可能性が高い。ならば単純な話、頭の心配をされない所だけを説明すればいい。今回の場合だと、異世界がどうとか山賊がどうとか黒龍がどうとか、そう言った物が主だろうか。

 とりあえず世紀の歯車のメンバーが担当していた事件に巻き込まれ、なんだかんだで五日間行方不明になりました。みたいな感じでいいだろう。確か蒼夜が異世界間の転移術式を聞いたと言っていたので、おそらく千秋が巻き込まれたという事は説明している可能性が高い。裏を取るために本部に連絡されても、大丈夫なはずだ。

 かといって、完璧確実、とは行かないだろうが。

【それで?】

【え?】

 突然アークスからの念話が飛んでくる。

【そんな説明して、終了するかい? 千秋ちゃんの成長物語は】

【!】

【そんな説明して、中途半端な成長で元の生活に戻るのかい? 千秋ちゃんは。それが千秋ちゃんの望んだ結     末(トゥルーエンド)なのか?】

 ──違う。そんなはずはない。

 中途半端で良いはずがない。こんな成長で良いはずがない。これではスフィーリアに行く前と同じだ。結局逃げているだけ。ただ蒼夜が帰らせてくれた、その恩を無駄に出来ない、なんて馬鹿げた言い訳をして、この日常に再びとけ込もうとしている自分に気付かないフリをしようとしているだけだ。

 そうだ。これは望んだ結末じゃない。これは正しい選択によって導き出された真実の終わり方(トゥルーエンド)じゃない。

【──違う。違うよ……そうじゃない。これは結末じゃない】

【ならどうするんだい? これが(・・・)千秋ちゃんのスタート地点(今回の終わり)じゃないなら、どうすればたどり着ける?】

【戻る】

【どこに?】

【スフィーリア。蒼夜君の所へ】

【何をしに?】

【……決まってる】

 そう。最初から分かりきっている。


【蒼夜君が勝手な理由で行動したように、私も勝手な理由で行動しにいく】


 それが答えだった。

 それが──スタート地点への道を開く鍵だった。

【──分かったよ、千秋ちゃん。君の選択に俺は従うぜ。『ライトニング・スピーダー』】

 瞬間、フッ、と千秋の姿が担任の先生の前から、梓の前から消えた。

「なっ!! み、美薙月!?」

「先生!!」

 入り口の方を向くと、そこに千秋はいた。

 もの凄い笑顔で。何かを決心したように。


「私──もう五日間行方不明になりますっ!! じゃあ!」


 担任の先生は全く言われた事が理解出来ずに、ただ千秋がこの場から走り去っていくのを呆然と見ていた。

「……は? ちょ、ちょっと待て美薙月! オイ!!」

 廊下に出る。が、千秋の姿はもうなかった。どこにも。


 向かうはあの廃工場。

 そして──スフィーリアへと、千秋は走る。

 

      *  *  *


 黒龍の討伐。それがラインズの決定だった。

 どうも、たった二人で自分たちを苦しめていた山賊達を倒した蒼夜達に勇気づけられたらしい。蒼夜的には特に凄い事をしたような気はしないが、町人達が喜び戦う意志を再び持ったのなら、特に何も言いはしない。

 今問題なのは、蒼夜の水竜の右翼が黒龍に通用するかどうかだ。蒼夜が聞いた話によると、龍種というのは対魔力能力が高いらしい。これが言われているのは基本的に自然龍種と呼ばれている龍種達で、簡単に言えば火龍や水龍と言った自然属性を司っている龍達の事なのだが、まだ他の龍に関してはあまり分かっていない。

 いや、そもそも自然龍種ですら昔の人々から言われて来た事であるため、確証がある訳ではないのだ。当然、それ以外の龍の事などあまり分かる訳もなかった。

 ……ため息をつかざるを得なかった。

(なんだって俺……龍なんて相手にしようとしてるんだろ……)

 森を町人達と歩きながらそんな事を思った。

 デビルも、中型まで(千秋を襲っていたのまでが中型)が今の蒼夜には、というか大型に一人で突っ込んでいけるのは地球だけで探しても数えるほどしかいないだろう。基本的に大型デビルと戦う時は複数人で戦うのが常なのだ。

 だというのに蒼夜は今、一人で戦おうとしている。デビルで言うなら大型デビルと。町人達も手伝ってくれるとは言え、手に持っているのはトライデントでもなんでもないただの銃器。一応アサルトライフルやらRPGやらを持っているようだが、精々使えても牽制や威嚇程度の物だろう。当たっても黒龍には痛くも痒くもないはずだ。

 つまり──倒せる可能性があるのは蒼夜だけ。

(だーーーッ! くそっ、俺はまだ中三だっつーの! 本当何考えてんだろうなぁ!)

 一瞬、頭をとある少女の顔がよぎった。

 彼が勝手な理由で故郷に送り返した、あの少女。

 どんな成長速度を持っているのか疑うほどに、強くなったあの少女。

 ──バカみたいに笑顔を振りまくあの少女。

(……ったく……千秋につられて俺もちょっと変わったか?)

 昔なら。昔の、いや、以前のと言うべきか。そのとき、蒼夜ならばあんなに勝手な事をすることはなかった。いつもなら相手の考えを無視してまでの行動を起こす事はなかったはずだ。そもそも初対面で、これから再会するかどうかすら怪しい人と必要以上に会話するような事もなかった。

 まったく、いつからどこで何が変わったのやら、と、蒼夜は周りに聞こえないほど小声で呟いた。口の端をつり上げながら。


「いたぞーッ!!」


 そんな声がどこからか聞こえて来た。それと同時に上を見る。

 そびえ立つ崖に立つ黒き龍がそこにはいた。



      *  *  *



 千秋は全速力で山を登っていた。

 目指すはあの山奥にある廃工場。そしてスフィーリア。

「アークス! 向こうの事件が終わるまでは狭間は出てるんだったよね!?」

〈おうよ。さっき説明した通り、狭間は一種のSOS信号みたいなもんだからな。向こうがまだ解決して向こうに行った奴が戻らない限りは大丈夫だ!〉

 ご都合主義と言うか何と言うか……と千秋は軽く呆れていた。いや、まぁ今回はそのご都合主義に感謝しなければならないのだが。

〈で、千秋ちゃん。向こうに行ったらまずどうすんだい? 黒龍の所に一直線?〉

「ん……そうだねぇ……」

 千秋が考えるに、あの黒龍に勝つのはかなり難しい。真正面から立ち向かって勝つのなら、魔導戦士があと二、三人は欲しい所だ。かといって増援が来る気配は全くなかったし、来るならもっと早く来ているはず。だとすると増援は期待出来ないかもしれない。

 ならばどうすれば勝てるのか。

(黒龍はもの凄く硬い。蒼夜君のウォーター・ブレイドがどれくらいの切れ味を持ってるのかは分からないけど、多分かなり良いはず。それをほんの少し切れ込みを入れさせるだけで止めるくらいには硬いんだ。だとすれば体内に……って、何凄い事考えちゃってるんだ私!?)

 いくらなんでもダメでしょ!? と、頭を振る。

 アークスは少しばかり呆れてながらそれを見ていたが、「まぁ千秋ちゃんだしな」と諦めた。自分が選んだだけあって多少なりとも彼女を理解はしているらしい。

 さて、体内に向けての攻撃は彼女の性格上無理な事は分かった。だとするならばどうするべきか。

 いや、そもそもだ。黒龍を絶対に倒さなくてはいけないという訳ではないはずだ。憶測の域をまだ出ないが、生物なのだからそれなりの思考能力はあるはず。もしかしたら龍なんて大層な物なのだから、人間と同程度の知恵や知識も持っているかもしれない。

 どちらにしてもだ。黒龍(あれ)の目的はなんなのか、それさえ分かればダメな物でない限りそれを達成させれば良い。そうすれば元の住処、白銀の遺跡に戻ってもらう事は出来るかもしれない。

「目的……目的……」

 走りながら考えるも……全く分からない。そもそも龍の考える事など分かる訳もない。

(──いや、違うな)

 もしや”龍”の視点で考えているからダメなのではないだろうか。もしも、もしもだ。黒龍が前述したように人間と同程度の知恵や知識を持っていたらどうか。ならば、”人間”の視点で考えてみれば、何か分かるかもしれない。

 ──黒龍の目的はラインズを、人を襲う事?

(いや違う。それなら最初からラインズを襲ってたはず……)

 ──黒龍の目的は千秋や蒼夜?

(多分違う。だったら隠れ家から出て来た時に本気で殺しにかかって来てたと思うし……)

 ──なら他に考えられるとすれば?

「……何か……探してる?」

〈何か探してるって、飯でも探してたってーのか? 龍属はそこらにある自然力食って生活してるんだぜ? それにそこまで好きじゃない明るい場所にまで出て来て、いらん食料探すかね〉

「ご飯はない、か……じゃあ……」

 わざわざ明るい場所にまで出てくるほどの目的。物探しの路線で行くとするならば──、

「ねぇアークス。────────────ってありえる?」

〈あぁん? そうだなぁ……まぁ確かにあるっちゃあるぜ。黒龍は上位っちゃ上位だけど、一応普通の龍属だからな〉

「それって、普通じゃないのもあるってこと?〉

〈まぁそう言う訳だけど──っと、そろそろみたいだぜ?〉

 木々の隙間から光が漏れ出した。その光の先に見える廃工場。全ての始まりの場所。

 千秋は廃工場の前に立つと、家の鍵を持っていたネコを追いかけた時と同じように、大体二メートルくらいの柵をよじ上って中に入る。単調な音を響かせて着地すると、辺りを見回し始めた。

「確か……」

 小走りに目的の場所に向かう。

「あった!」

 入り口から左に少し進んだ所に、半径一メートルくらいの渦のような物があった。紫や赤、青などが混じった空間を捻る渦、狭間。アークスの言った通り、まだ存在していた。

 千秋は躊躇いなど一瞬も見せずにその中に飛び込む。と、いうよりは触れた瞬間に引っ張られるみたいに吸い込まれた。


 千秋は再び、非日常(戦 場)に戻る。









 私的に、最近のワルクラはグダグダしているような気がしてならない今日この頃。


 どうも、結城葵でーす! そこまで長くないような気がする文章に一ヶ月もかけて来ましたー!

 ぶっちゃけ頑張れば一週間くらいで書ける! と、ふざけた事を思わないでもないですが、まぁそこまで集中力が続けば苦労はない訳で……。

 一応、毎日執筆時間を作ろうと頑張って入るんですけどね……。


 えー、基本千秋中心ですが、今回は特に千秋中心だったと思います。だって蒼夜ほとんど出てないし。

 あと思いつきの梓先生登場。彼女はきっとまだまだ出番があります。まぁ多分この序章のスフィーリア編にはもうない可能性が高いですが。

 ていうか最後の戻るまでの所……あまりうまく書けた気がしないですけど大丈夫ですかねぇ? 全然自信がないんですけど。


 何かアドバイスとか感想あったらお願いします! 出来ればアドバイスが欲しいです。なかなか自分じゃ気付けないような弱点と言うか、悪い所とかもあると思うのでどうかよろしくお願いします!


 それではまた次回、お会いしましょう。

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