5話 無謀な突撃
刃金の鉄のドームに亀裂が走り、外側へと崩れ落ちる。中から現れたのは、血を流し、息も絶え絶えの生存者三人。怒りと絶望にまみれた表情だった。
「……ミカ!……タケシ!」
音波使いの女が、コンテナに潰された2人の墓標を見て膝から崩れ落ちる。
刃金の顔からは傲慢な余裕は消え、獣のような表情が浮かんでいた。
「貴様ァ、よくも、俺の部下をッ!!」
理性のタガが外れた。
刃金は咆哮し、虚獣に向かって駆け出す。残る重力使いの男も、絶叫しながらその後に続いた。もはや作戦も連携もない。仲間を殺された怒りだけが、二人を突き動かしていた。
『まって! 虚獣の骸粒子パターンが変化! 活性化したわ! 完全に目を覚ました!』
怜の切迫した声がインカムに響く。
その言葉を裏付けるように、微動だにしなかった虚獣の巨体が、ギシリ、と動く。
ゆっくりと、その意識は刃金たちへと向けられる。
「死ねええええええッ!!」
刃金が残った鉄骨をかき集め、巨大な槍へと変え、虚獣へと突き出す。
だが、その槍が虚獣に届くことはなかった。
鉄の槍が、虚獣の目前で、不可視の壁に阻まれたようにピタリと停止した。
刃金がどれだけ力を込めようと、槍は一ミリも動かない。
「なっ……!?」
驚愕に目を見開く刃金と、その後ろにいた重力使い。
二人の体が、ふわり、と宙に浮いた。虚獣の念動力によって、強制的に「浮かされた」のだ。
「ぐ、動け!!」
「クソッ、やめろぉ!」
二人は空中で必死にもがくが、見えない力に全身を拘束され、能力も発動できずに居た。
虚獣は、膝をついていた音波使いの女も同じように空へと浮かび上がらせる。そして三人を自身の目の高さまで移動させ、じっくりと観察する。
「やめ、やめろ……!」
刃金の表情が純粋な死への恐怖で歪んでいく。
虚獣は興味を失ったかのように、三人を拘束していた念動力を解除する。
三人は真下へと落下する。
「「「ぎゃああああああああああああああああああッッッ!!!」」」
三つの断末魔が重なる。
三人の体は地面へと叩きつけられた。
ぐしゃり、と、嫌な音が、俺たちのいる場所まで届く。
一瞬だった。
A級部隊が、反撃らしい反撃もできずに壊滅した。
「えっ……」
隣で、順がかすれた声を漏らす。顔は真っ青になり、小刻みに震えていた。
『応答願います! こちら紅莉隊! A級第3部隊、全滅! 敵は、想定を遥かに超える……!』
怜が必死に呼びかけるが、返ってくるのはノイズだけ。
「くそっ、繋がらないわ!」
俺たちは、完全に孤立した。
「奏斗サン、もう、こうなったら」
順の震える声が、俺の背中に突き刺さる。
「……そうだな。この場にいたA隊員は全員死亡。残るは後方支援の為にいたC級の俺たちだけ。やる事はただ一つだ」
俺の中で答えは一つしかない。虚獣を目の前にして逃げるなんて事は、俺が俺を許せなくなる。二人もきっと同じ考えのはずだ。
「俺たちで、あの虚獣ぶっ倒す」
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