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燼滅のプロメテウス  作者: 漣リラ


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17話 目覚め

 消毒液の匂いが、鼻をついた。

 ゆっくりと瞼を開けると、目に飛び込んできたのは、見慣れた霊対室仙台支部の、医務室の白い天井だった。


「ここ、は……?」


 掠れた声が、自分の口から漏れる。

 上半身を起こそうとしたが、全身に鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめた。


「――奏斗サン! 気がついたんすか!」


 ベッドの脇で、椅子に座ったままゆらゆらと眠気と戦っていた順が、俺の声に気づき、勢いよく飛び起きた。その顔には、安堵と疲労の色が濃く浮かんでいる。


「……順か。俺は、どれくらい寝てた?」

「丸々二週間っすよ! もう、マジで心配したんすからね!」

「そうか、心配かけたな」


 二週間。

 あの埠頭での死闘から、そんなに時間が経っていたのか。

 俺は、ぼんやりとした頭で、あの日の出来事を思い出す。A級部隊の全滅。そして、あの銀髪の少女に屈辱的な敗北を喫したこと。


「体はそりゃ痛たいけど思ったよりだな。もっとズタボロだった記憶だけど」


 骨が折れ、内臓もやられていたはずの体が、今は鈍い痛みこそあれ、動かすことに支障はない。

 順は、ニッと笑って親指を立てた。


「きゅーちゃんのおかげっすよ! 薬師寺救ちゃんが、治療に来てくれてたんすよ。すごくないすか!? あの国民的アイドルのきゅーちゃんが!」


「そうか。救ちゃんも来てたのか。また借り作っちまったな」


「救ちゃん、一週間前までは毎日来てくれてたんですけど、大きめのライブがあるとかで、東京に帰っちゃいました。奏斗サンが目覚めたら、連絡してね〜って言われてます」


「そうか、分かった」


 その時、医務室のドアが静かに開き、怜が顔を覗かせた。

 俺が目覚めていることに気づくと、彼女は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻る。


「……目が覚めたのね。ちょうど良かった」

「怜。お前にも、心配かけたな」

「気にしなくていいわよ。別にあなたがあれで死ぬとは思ってない」


 口ではそう言いながらも、その声がわずかに震えているのを、俺は聞き逃さなかった。

 怜は、俺のベッドの横まで来ると、一枚の書類をサイドテーブルに置いた。


「本部からの通達よ」


「内容は?」


「まず、私たち紅莉隊は、今回の仙台埠頭における服務規程違反により、無期限の謹慎処分を受けてる」


 C級の俺らが勝手にA級任務を遂行しようとした件でか。まあ、そうだろうな。覚悟していた処分に、俺は静かに頷いた。


「そして、もう一つ」


 怜は、一呼吸置いて、続けた。


「紅莉隊は、隊長が回復後、東京本部への出頭を命ずる。とのことよ」

「本部? なんでだよ」


「実は……」


 順と怜が、俺が意識を失った後の出来事を説明してくれた。響也さんが乱入し少女を連れ帰った事、救ちゃんが言っていた俺の怪我の具合まで。


「『荷物全部まとめて来いよ』、か」


 ただの謹慎では済まされない、二人が言う通り確かにその可能性はある。


「俺ら、クビになっちゃうんすかね……」

 順が、不安そうに俯く。


 俺たちが仙台支部に来てから、一年。ようやく、新しい戦い方を確立してきたところだった。ここで部隊解散、解雇は悔いが残る所の話じゃない。


「ま、なるようにしか、ならねえよ」


 だが、今そんなことを考えても仕方がない。

 俺は、ベッドからゆっくりと上半身を起こした。

 まだ、全身の関節が軋む。だが、不思議と心は晴れやかだった。


「クビならクビで、次考えないとな。まー、そうだな、非公認で虚獣ぶっ潰し日本ツアーでもするか」


「そんなのバレたら今より大変な事になるわよ。ホント馬鹿なんじゃないの? 考えて物言いなさいよ」

 怜が間髪入れずツッコミを入れてくる。


「ああ!? んだと!?」


 いつもの、言い合い。

 それを見て、順が「まあまあ」と、困ったように笑う。


「でもよ、クビの可能性は低いんじゃないのか?。本部に呼ばれてるのも、クビ宣告ってより事実確認のためだろう」


「なるほど! 奏斗サン、前向きッスね」


「順、お前がネガティブすぎんだよ」


「私も奏斗と同意見。あの後色々考えたけど、クビはない。……あと順はネガティブ」


「みんなして酷くないすか!?」


 ああ。

 謹慎だの、クビかもしれないと言われているのに、気分は少しも落ち込まない。やっぱりこいつらと部隊を組んで良かった。


「とにかく、まずは腹ごしらえだな。順、なんか食いもん持ってこい。カツ丼がいい」

「病人なんだから、おかゆとかにしてくださいよ!」

「うるせえ。俺はカツ丼が食いたいんだ」


 久しぶりに、三人の笑い声が、医務室に響いた。

 どんな処分が下されようと、この二人と一緒なら、まあ、何とかなるだろう。

 窓から差し込む太陽の光は、俺たち三人を照らしていた。

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