表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
燼滅のプロメテウス  作者: 漣リラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/21

16話 兵器廠

「それで、総司令。アリスを呼んだ要件は何? こいつの顔、1秒も見たくないんだけど」


 アリスは、響也を睨みつけながら、総司令のデスクの前に置かれたソファにどかりと腰を下ろした。その小さな体躯とは裏腹に、態度は全く可愛げがない。


「おいアリス、また今度、最新式の人型兵器をトレーニングに貸してくれよ。いい加減、俺のスピードについてこれるやつ、作ったんだろ?」


「やだよ。響也に貸すと、3分でスクラップにされるんだもん。アリスの大事な子供たちを、あんたみたいな脳筋ゴリラに二度と貸すもんか」


 軽口を叩き合う二人。この少女、九十九アリスは、14歳にして霊対室の研究開発部門のトップに君臨する天才だ。彼女が自ら開発した無数の自律機動兵器に、対虚獣用の特殊エネルギーを付与して遠隔操作する能力『兵器廠へいきしょう』は、一人で一個師団に匹敵する火力を誇る。その功績と特筆した戦力から、最年少で六神鬼の陸席に名を連ねる、正真正銘の怪物だった。


「まあ、そう邪険にせんことだ」


 厳十郎が、穏やかに会話を遮る。


「アリスくん。今日は君に、頼みたいことがある」

「頼み?」


 アリスは、タブレットから顔を上げ、訝しげに厳十郎を見た。普段、総司令が彼女に依頼するのは、新型兵器の開発や、既存装備のアップデートがほとんどだ。わざわざ本部まで呼びつけるからには、よほどのことなのだろう。


 厳十郎は、部屋の隅で気絶している銀髪の少女を、静かに指差した。


「そこの少女をしばらくの間、見張っていて欲しい」


「はあ? 何それ。アリス、シッターじゃないんだけど。ていうか、誰よその子」


 心底面倒くさそうに、アリスは少女を一瞥する。

 響也が、代わりに答えた。


「正体不明の虚獣だ。だが、知性がある。もしかしたら、『原罪』に繋がる、重要な情報源かもしれねえ」

「……!」


 その単語が出た瞬間、アリスの表情から、子供っぽさが消えた。

 霊対室が、その存在を極秘とし、最重要警戒対象としている虚獣『原罪』。その名を知る者は、霊対室の中でもごく一部に限られる。


「これから、この少女の素性を徹底的に調査する。だが、その過程で、彼女が目を覚まし、暴れだす可能性も十分にある」


 厳十郎が、本題を切り出した。


「その際の、万が一の備えが欲しい。アリスくん、君の『兵器廠へいきしょう』の、戦力の半分を、この少女の監視と護衛に割いてもらいたい」

「――は?」


 アリスは、目を丸くした。

 彼女の表情は、「何を言っているんだ、この爺さんは」と、雄弁に物語っている。


「……半分? 戦力の半分ですって? 総司令、正気? それだけの戦力があれば、並のA級虚獣なら1分で粉々にできるんだけど。なんで、たかが虚獣一体の監視に、そんな大げさな戦力が必要なわけ?」


 アリスの疑問は、もっともだった。

 彼女の戦力は、霊対室の、いや、日本の防衛における重要な柱の一つだ。それを、半分も、一人の少女の監視に割くなど、常軌を逸している。


「それほどの事案だということだ」


 響也が、静かに、しかし重い声で言った。


「こいつは、A級上位相当の虚獣を、無傷で仕留めた。俺が駆けつけた時も、紅莉隊の連中を完全に圧倒してた。正直、俺が奇襲をかけなけりゃ、どうなってたか分からねえ」


「……あんたがそこまで言うなんて」


 アリスの顔に、初めて緊張の色が浮かぶ。

 響也の実力を、彼女は誰よりも知っている。その彼が、手放しで危険性を認める相手。


「万が一、この少女が、研究員を含め戦闘員以外も多くいる本部で暴れてしまえば、被害は甚大となる。それだけは避けたい。」


 厳十郎の言葉が、その場の空気を凍てつかせた。


「ふーん。なるほどね。状況は、理解したけどさぁ」


 アリスは、タブレットを数回タップすると、深く、深いため息をついた。

 そして、面倒くさそうに、しかし、六神鬼の一員としての覚悟を決めた顔で、厳十郎を見た。


「総司令の頼みなら分かったよ。アリスの子供たちの半分、貸してあげる。その代わり、この子で取れたデータは、全部アリスに渡しなさいよ。こんな面白いサンプル、滅多にないんだから」


 マッドサイエンティストとしての好奇心が、面倒くささを上回ったらしい。

 その返答に、厳十郎は、満足そうに頷いた。


「うむ。感謝する、アリスくん」


 こうして、一人の少女の処遇は、霊対室の最高戦力三人を巻き込み、国家レベルの厳戒態勢の下で、決定されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ