14話 雷轟、帰還す
紫電響也は、気絶した銀髪の少女を肩に担ぎ、夜の闇へと駆け出していた。
仙台の市街地を抜け、高速道路を、常識ではあり得ない速度で疾走する。彼の周囲には常に金色の電光が迸り、その姿を正確に捉えることは誰にもできない。まさに、雷光そのものだった。
『――ライブの途中に呼び出しちゃって、悪かったな、救ちゃん』
響也は、耳に装着したインカムに、軽い口調で話しかける。その通信の相手は、奏斗の応急処置を終え、再びド派手なワゴン車に乗り込みライブ会場へと戻っていく薬師寺救。
『いいんです! 響也様のお願いを無視するなんて、そんなバチ当たりなことできませんから! それに、アンコールまでには全然間に合いますので!』
スピーカーの向こうから、救の明るく弾んだ声が返ってくる。
響也は、その声に苦笑を浮かべた。
『そりゃ良かった。……それで、あいつら、どうしてた?』
『元気、なかったですね~。特に怜ちゃんは、私にちくちくでしたよぉ』
救の報告に、響也は「そうか」と短く応える。脳裏に浮かぶのは、絶望的な状況下で、それでもなお戦うことをやめなかった、あの三人の姿。
『嫌な役回りをさせちまって、悪かったな』
『全然! 大丈夫ですよ~。ああいうところが、怜ちゃんの可愛いところですから! それに、ちゃんと前を向こうとしてました。きっと、大丈夫です』
その根拠のない、しかし力強い言葉に、響也の口元がわずかに緩んだ。
『フッ、そうだな。あいつらが精神的にも、戦闘力的にも本当に強くなるのはこれからだ。今は休んでもらわねえとな。あいつら、特に奏斗は放っておくとすぐに生き急ぐ』
『そうですね~、奏斗くんはがんばりやさんですからね』
話しているうちに、響也の視界の先に、東京の摩天楼が見え始めていた。仙台からここまで、わずか数十分。
『っと、悪いな、救ちゃん。俺、もう本部に着いちまう』
『えっ、もう!? 響也様、流石です! はっやーい!』
『それじゃ、またな。ライブ、無理せず楽しめよ』
『はい! 響也様、やさしい! 救、感激です! うるうる! 今度、最前列のチケット送りますねー!』
救の最後の言葉を聞きながら、響也は通信を切った。
霊対室の本部――表向きは、都心にそびえるただの超高層ビル。その地下深くに、日本の霊災対策を司る心臓部が存在する。
響也は、厳重なセキュリティゲートを顔認証一つで通過し、少しの減速もなく、最深部にある総司令室を目指す。
やがて、重厚な扉の前にたどり着くと、彼は担いでいた少女を降ろし、軽く息を整えた。
そして、扉をノックする。
「入りたまえ」
中から、威厳のある低い声が響いた。
響也は扉を開け、敬礼と共に中へと入る。
「――紫電響也、ただいま帰還しました」
総司令室。
そこは、華美な装飾が一切ない、実用性のみを追求した空間だった。壁一面に、日本各地の骸粒子の濃度を示すモニターが並び、その中央で、一人の老人が静かに茶をすすっていた。
古武士のような風格。鋭く、しかし、全てを見通すような深い瞳。
彼こそが、霊災対策室・総司令、六神鬼・筆頭。産土神 厳十郎。
老人は、ゆっくりと湯呑を置くと、穏やかな笑みを浮かべて響也を見た。
「久しぶりだな。響也くん」




