13話 星の光の救急アイドル
これからどうなるのだろう、と、重いため息が二人の口から漏れた、その時。
遠くからけたたましいエンジン音と、それに負けないくらい甲高いブレーキ音が響き渡った。
「順、伏せて!」
「えっ、なんすか!?」
怜が咄嗟に叫び、二人は身構える。だが、暗闇からヘッドライトに照らされて現れたのは、敵意とは無縁の、派手なラッピングが施された一台のワゴン車だった。
その側面には、可愛らしい文字でこう書かれている。
――『Starlight Cure!』
順と怜が呆気に取られていると、スライドドアが勢いよく開き、中から一人の少女が飛び出してきた。
フリフリのアイドル衣装に、ツインテール。その姿は、テレビや雑誌で嫌というほど目にする、国民的アイドルグループの不動のセンター。彼女こそ、響也が言っていた『救ちゃん』だ。
「おっ待たせ~! みんなの心にレスキュー! Starlight Cure! のポーション天使担当、きゅーちゃんこと、薬師寺救だよっ☆」
彼女――薬師寺救は、二人の前でビシッと決めポーズを取る。
「……」
渋い顔をしながら黙る怜。
「怜ちゃん、ひさしぶり〜、やほ〜⤴⤴」
「相変わらず元気そうね」
「ん〜!元気だよー」
「え、なな、なんでこんな所に『Starlight Cure!』の不動のセンター、薬師寺救ちゃんが!?」
突然の出来事に開いた口が塞がらない順。霊対室にこの国民的アイドルが所属しているという噂は聞いていたが、本当に居るとは思わず、衝撃を受けていた。
「なんでかって? フッフッフ……じつは、響也様に呼ばれたのー! 救、嬉しくて仙台でライブ途中だったけど抜けてきちゃった☆」
薬師寺救は、気絶している奏斗を見るなり「あら~」と声を上げた。
「ま〜た派手にやっちゃったんだねぇ、奏斗くん! でも、もう大丈夫! このきゅーちゃんが助けに来たよー!」
そう言うと、彼女は奏斗のそばに駆け寄り、その傷だらけの体に優しく触れる。
「いくよー! きゅーちゃんの愛で、みんなに癒しをデリバリー!」
救がそう叫ぶと、彼女の両掌から、キラキラとした温かい光があふれ出した。その光は、まるで星屑のように周囲に舞い、奏斗の体を優しく包み込んでいく。
「『星の光』、オンステージ!」
決め台詞と共に、本格的な治療が始まった。光に包まれた奏斗の体から、痛々しい傷がみるみるうちに塞がっていく。常識ではあり得ない光景。これこそが、霊対室でも数少ない、治癒師の能力だった。
「それで〜」
治療を続けながら、救はキラキラした笑顔のまま、二人に問いかけた。
「今回のやらかしの原因は、また奏斗きゅんの暴走? んー、青春だねぇ!」
二人は、救に事の経緯を説明する。A級部隊の全滅、そして、謎の虚獣の少女の出現について。
「そっか、満身創痍とはいえあの奏斗くんが、手も足も出ずにやられちゃったんだ」
治療を続ける救は、奏斗をじっくりと見ながら言う。
「それにしても、ひどい状態だね、これ。肋骨、胸椎骨折、全身の筋繊維の損傷……。能力で体温上がりすぎちゃったのか、内臓もかなりダメージ受けてて、腎機能が特にヤバいかも。救の到着がもう数分遅れてたら、本当に手遅れだったかもよ?」
「そんなに、ひどかったんすか……」
順が、息を飲む。
怜は、無言で唇を噛み締めた。
「ま、手遅れじゃなかったし、命に別状は無いから大丈夫だよ〜! 奏斗くんならすぐ復帰だね☆」
二人の重苦しい空気を感じ、フォローする救。
「救、あなた、なんでそんなに明るく振る舞えるの? 刃金さんたちは全員殉職、奏斗もこんな状態で……」
怜が、低い声で尋ねる。
「ん〜?」
「不謹慎じゃないの、って言ってるのよ。仲間がこんな無惨に殺されて、悲しくないの?」
怜の言葉には、明らかに棘があった。
「ちょ、ちょっと、怜さん。突然どうしたんすか」
怜をなだめる順。
だが、救は全く意に介していなかった。
「も~、怜ちゃんは相変わらず厳しいんだから~! でもそんな所が、怜ちゃんらしくてかわいいぞっ☆」
そう言ってウインクすると、彼女はふっと真顔になった。
「……悲しいよ、もちろん。気を悪くしたなら謝るわ。でもね怜ちゃん、これは私のお師匠さんの受け売りだけど、『私たち霊対室の人間は、仲間が死んでもその屍を踏み越えて前に進まなきゃいけない』と思うの」
「……」
突然の救の態度に黙り込む怜。
「これもね、別に死んだ人を蔑ろにする言葉じゃないの。私たちの至上命題は、虚獣を殲滅し、民間人の被害の未然防止を図ること。メンバーはその共通目的を持って活動している。そう考えた時、死んだ人が1番望むことって、なんだと思う?」
「……その目的の絶え間ない遂行」
「そう。私も、どんなに惨たらしい死を迎えても、仲間にはそれを求めたい。だから、極端に悲しんで立ち止まる事は許されないし、私自身も許さない」
「それが、あなたのさっきまでの態度に繋がるの?」
「うん。悔しいけど、私の能力は、虚獣を直接倒せる能力じゃない。でも、虚獣を倒せる人を、救うことは出来る。私の能力で肉体的に元気を、そして私のいっぱいの明るさと笑顔で精神的にも元気を与えれたらなって思ってる。そしてそれは目的の遂行に間接的にだけど繋がっていると思うの」
「救さん、かっこいいっす」
目に涙を浮かべながらジーンとしている順。
「……」
下に目線を向けながら、何かを考えている怜。
「怜ちゃんも知ってると思うけど、私は虚獣に襲われ、家族と、たった一人の親友を殺された。怜ちゃん、あなたのお姉さんよ。そして、その時誓ったの、どんなに辛くても笑顔で生きるって。家族のためにも、瑠衣のためにも生き抜くって」
「……そう。理由は、わかったわ。突っかかって悪かったわね」
「ううん、いいの。だから私は霊対室の薬師寺救として、そしてStarlight Cure!の救ちゃんとして――」
救は、真面目な表情から、一瞬でさっきまでの笑顔に戻り、言う。、
「みんなに元気を届けちゃうぞ〜☆⤴⤴」
救の能力『星の光』は、対象者の肉体の治癒を行うシンプルな能力。治癒能力は、非常にエネルギーを消費するため、一日の回復に限度量があるものが多い。
だが救はその突出した才能により、今回の奏斗のケガに対しては、骨は粉砕骨折していた部分をひび割れ程度に修復、筋繊維は断裂を起こしていた部分を復元、内臓も機能を損なわないレベルまで回復させていた。
やがて、奏斗を包んでいた光が、ゆっくりと収まっていく。奏斗の呼吸は、穏やかになっていた。
「ふぅ、そうこうしている間にある程度の治療は完了! あとは病院の先生に診てもらって、絶・対・安・静ね!」
「救ちゃん、あざっす!!」
「ありがとう、救」
救は、「いいのいいの」と額の汗を拭うと、ポンと手を叩いた。
「あ、そういえば、響也様が『あんのくそバカ問題児集団、謹慎だ』って言ってたけど、もしかしてC級がA級任務を勝手に行った服務規程違反??」
その言葉に、順と怜の間に、重い沈黙が落ちる。
「あんた、察し良いくせにそんな事聞くの、実は性格悪いわよね」
救をやれやれといった表情で見る怜。
隣にはずーんと肩を落としている順。
「んふふ。さっきのちくちく発言の仕返し☆ ま、それはそれとして!」
重い空気を吹き飛ばすように、救は満面の笑みで言った。
「見て見て! 今の私の衣装、超キラキラしてて可愛いでしょ!? 『星の光』とも相まってちょーーーキラキラ!! 二人とも今度ライブにも遊びに来てね!」
「……今は、そういう気分じゃない」
「ひどーい!」
瓦礫の山が残る絶望的な埠頭に、彼女の明るい声だけが、場違いに響いていた。
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