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燼滅のプロメテウス  作者: 漣リラ


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12話 問題児軍団

「うおーい! 奏斗! 死ぬな! 起きろ!」


 先程、少女を一瞬にして制圧した男――雷轟らいごう紫電しでん響也きょうやは、気絶した奏斗の頭をしゃがみながら無造作に小突いていた。


「響也さん、何してるんですか」


 先程少女に蹴り飛ばされた奏斗を追いかけ、ようやくたどり着いた怜と順は。予想だにしていなかった光景に衝撃を受けた。


「ん、おお。ひさしぶりだなァ、お前ら」


 二人に気づいた響也は、奏斗を小突くのを止め、二人の方を向いて立ち上がる。


「相変わらず、無茶ばっかしてるみてえだな。この問題児軍団は」


 その軽薄な口調と、どこか気の抜けるような雰囲気に、極限まで張り詰めていた俺たちの緊張の糸が、わずかに緩む。


「な、なんで、響也さんが、こんなところに?」

 順がが声を絞り出す。


 響也は、やれやれと肩をすくめながら言う。


「A級部隊からの定時連絡が、プッツリ途絶えたんでな。最悪の事態を想定して、一番近くにいた俺がすっ飛んできたってわけだ。……それと、もう一つ」


 響也の目が、気絶している銀髪の少女へと向けられる。


「最近、妙な噂があってな。霊対室の管轄外で、正体不明の何者かが虚獣を殺して回ってる、と。その目撃情報が、ここ仙台で多発してた」


「そんな話、私たちは、何も聞いていません」

 怜が反論すると、響也は「あたり前だろ」と鼻で笑った。


「お前ら、特にそこの馬鹿にそんな情報教えたら、どうなるか。火を見るより明らかだろ。明らかに異質な虚獣だ、情報求めて突っ込んでいくに決まってる」


 ぐうの音も出ない。

 響也は、周囲を一瞥すると、厳しい声色で問う。


「……で。 何があった。A級部隊、刃金たちはどこだ。簡潔に話せ」


 順と怜は、顔を見合わせた後、覚悟を決めて、起きたことの全てを正直に話した。

 A級部隊が為す術もなく瞬く間に全滅したこと。俺たちが、命令を無視して独断で戦闘を開始したこと。そして、謎の少女が現れ、虚獣にトドメを刺したこと。


 黙って聞いていた響也は、順と怜の話が終わると、深いため息をついた。


「……後方支援を命じられていたC級部隊が、A級部隊が処理を命じられていた敵に挑んだ、と。今回は命があって本当に良かったが……このバカ共が。この被害規模、S級に分類されてもおかしくねぇんだぞ。それなのに……」


 その声は、呆れと、そして、ほんの少しの怒りが混じっていた。


「ルールは、組織の規律のためだけにあるんじゃねえ。お前らみたいな、未熟なガキを守るためにもあるんだ。司令も増援も待たず、独断で突っ込むとは、問題児軍団、ここに極まれりだな」


 響也の視線が、俺たちを射抜く。


「あの一件があってから、何のためにお前らを東京本部から、この仙台支部に飛ばしたと思ってる。……比較的虚獣の発生が少なく、レベルも低いこの場所で、一度頭を冷やし、新しい戦い方を見つけるなり、これからの身の振り方を考えるなり、そのための時間を与えてやったつもりだったんだがな」


 説教。だが、その言葉の一つ一つが、胸に重く突き刺さる。

 返す言葉もなかった。順と怜は、ただ俯くことしかできない。


「「……すみません」」


 二人が絞り出した謝罪に、響也は、再び大きなため息をついた。


「……まあ、お前らも奏斗のこの状態を見て、何かしら思う所と、反省もあるだろう。これ以上言っても仕方ねぇ。きっかけは、十中八九、このくたばってる奏斗バカだってのも何となくわかる」


 黙り込む二人。自分たちも二つ返事で乗ってしまったことを思い出す。もっと本気で奏斗を止めていれば良かった。もしかしたら、取り返しのつかない事になっていたかもしれない。と悔しさを滲ませる。


「……まあいい。とりあえず、俺はこの女を本部まで連れて帰る」


「えっ、なんで本部に?」


 順が、驚いて問いかける。

 響也は、銀髪の少女を軽々と担ぎ上げ、言う。


「こいつは、虚獣でありながら、虚獣を殺して回ってた。それに今までの目撃情報の内容を聞く限り、人は一人も殺してねえ。今回はこの奏斗バカが変に攻撃するから応戦しただけで、殺すつもりは無かっただろうな」


「たしかに、先に手を出したのは奏斗だった様な……」


「それに……これは俺の推測だが、コイツがお偉いさん方に会いたがってたって話を鑑みるに、一度でも人殺しをやるとそのテーブルに付けないと考えたんだろう。こいつには、そういう判断をできる理性と知能があるかもしれない。今までの虚獣とは、明らかに何かが違う。情報を引き出す価値がある」


「なるほど、そこまで考えて……」


 感心する怜。

 続けて、響也は二人に命令を告げる。


「あ。あと、お前ら。今回の件の処分だが、服務規程違反で当分の間、謹慎な。んで、そこのバカが自力で歩けるようになったら、全員で本部まで来い」


 響也は、ニヤリと意地悪く笑う。


「あとそん時は、荷物全部まとめて来いよ」


「えっ……? それって、どういう……」


 順と怜が、その言葉の真意を問いただそうとするより早く、響也の体から金色の電光が迸った。


「じゃあな、問題児ども。せいぜい反省しとけ」


 その言葉を残し、響也は少女を担いだまま、一筋の雷光となって闇の中へと消えていった。

 あまりに一方的な、嵐のような来訪。


 呆然と立ち尽くす二人の耳に、遠くから、響也の声が届いた。


「あー! あと、ここに『救ちゃん』呼んであるから! そのバカ、とっとと治させろよ〜!」


「あっ、行っちゃった……」

「行ったわね……」


「ねぇ、怜、俺ら、クビかなぁ……」

「それも、覚悟しておいた方が良さそうね……」


 瓦礫の山が残る埠頭は、二人のため息と夜の波の音だけが響いていた。

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