11話 終局
「お前ら全員、ここで殺す」
ハッタリではない。こいつは本気だ。
そしてそれを実行できてしまう実力も兼ね備えている。
その時、ザアアアアアアッ、と俺たちの会話を遮るように、空から轟音が降り注ぐ。
見上げると、虚獣の念動力から解放された、比較的小さな瓦礫や鉄骨が、一斉に落下を開始していた。
「奏斗サン! 怜サン! 伏せて!」
順が、俺と怜の前に飛び出し、亀裂の入ったタワーシールドを構える。
埠頭は再び、地獄のような轟音に包まれる。
ガンッ、ガギンッ、と耳障りな金属音が響き、順の盾が全ての瓦礫を弾ききった。
土煙がゆっくりと晴れていく。
その中心に、少女は立っていた。腕を組み、涼しい顔で俺たちを値踏みするように見ている。
「防ぎきったか。まあ、そこそこって所だな」
何なんだ、こいつは。見た目は完全に人間。
だが人間にしては雰囲気が異常だ。もしかして、あの気配と、あの殺気まさか。
「奏斗、順、落ち着いて聞いて。今私たちの目の前にいる、人間にしか見えないあの女の子……、骨、筋肉、臓器の発達具合は私たち能力者と一緒。でも……心臓が、心臓だけが虚獣の核と全く一緒」
怜が声を震わせながら言う。
「あなた、虚獣なの?」
「……探知系にしては中々の精度だな。あーあ、人間としてやり過ごそうと思っていたが無理だったか」
少女は鋭い目つきのまま、やれやれと両の手のひらを空に向けている。
やはり虚獣なのか。それなら話は早い。
「まあ私が虚獣かどうかなどをどうでも良い。さっさと偉いやつのところに――」
「――黙れ」
俺の口から、地を這うような低い声が漏れる。
少女が、訝しげに眉をひそめる。
「あ?」
「黙れっつってんだよ。虚獣が」
疲労困憊のはずの俺の体に、新たな力が湧き上がってくる。
憎悪。
俺の力の源泉。この感情だけは、決して尽きることがない。
俺の全身から、紅蓮の炎が噴き上がった。
満身創痍の体が、内側から焼き切れるような激痛に悲鳴を上げるが、知ったことではない。
俺から滾る純粋な憎悪の炎を見た少女の瞳が、初めて色を変えた。
無機質な赤い瞳に、少しの興味が浮かぶ。
「ふーん。おもしろ。憎しみを喰らって燃え盛る炎ね」
俺は、目の前の虚獣を睨みつける。
「俺が今、お前をここで殺してやるよ」
返答を待たず、俺は地面を蹴った。
炎を纏った拳を、少女の顔面へと叩き込む。
だが、その拳が届くことはなかった。
少女は、俺の全力の踏み込みを、半歩身を引くだけで完全に回避する。
そして、俺の腹部に、カウンターの蹴りを叩き込んできた。
「ぐっ、は……!?」
衝撃。
まるで、鉄骨で殴られたかのような一撃。
俺の体はくの字に折れ曲がり、数メートル後方まで吹き飛ばされた。
「……よくその身体で動けるな。これ以上やったら死ぬぞ」
さっき吹き飛ばされたはずなのに、少女は俺の元まで一瞬でたどり着き、俺を見下ろしている。
クソッ!
俺は、地面に手をつき、必死に立ち上がろうとするが、体は言うことを聞かない。
「奏斗、待って! 今のあなたじゃ……!」
「奏斗サン! やめましょう!」
怜と順の制止の声が、遠くに聞こえる。
「諦めて私の言うことを聞け。お前は、私を殺すには疲弊し過ぎだ」
少女は、片足を上げ、黒い鎧を纏わせ始めた。それは大きなドリルの形に変形した。人を殺す為の形。その殺意は俺に向けられる。
「お前への最後の命令だ。私を偉いやつのところに案内しろ」
「うるせぇ、虚獣の言うことなんか聞いてたまるか」
「そうか、じゃあ続きはあの二人でやるとしよう」
黒いドリルが俺に向かってくる。
ここで終わるわけにはいかない。
俺は、残された最後の力を、右腕の一点に集約させ極限まで圧縮していく。
この一撃で、こいつを倒すしかない。
「『燼滅炎・終極』――」
俺の最終奥義、全身全霊をかけて敵を焼き尽くすための炎を放とうとした、その時。
――バチッ! という衝撃音と共に、夜空を切り裂く一筋の雷光が少女の背後に突き刺さる。
「ハイハーイ、そこでストップストップ」
それと同時に少女の背後から、飄々とした男の声が響く。
少女は、その声に反応し、驚愕の表情で振り返る。そして、黒い鎧を瞬時に展開し、巨大な拳として攻撃を放つ。
だが、少女の一撃は空を切る。
攻撃を外した、と少女が認識するよりも前に、男は雷光の如き速さで動き、少女の真横に位置していた。そして、雷を帯びた拳を何十発も顔、腹に叩き込む。
何が起きたのか分からないまま、少女は意識を失い、糸が切れた人形のようにその場に倒れこむ。
男は、地面に横たわる俺と、周囲に瓦礫群が広がる惨劇を見渡しながらため息をつく。
「……ったく。反応を受けて全速力で来てみれば……。奏斗。何が起きたのか、説明してもらおうか」
目も開かず霞んでよく見えない、そして朦朧として遠のいてゆく意識の中で、俺はその男の正体に気づく。
この人、俺の知ってる人だ。
霊災対策室の最高戦力『六神鬼』雷轟・紫電響也。
「なん、で……あんたが……」
最高戦力が参戦し、目の前の虚獣による脅威が抑えられたという安堵もあり、俺の意識はそこで途切れた。
「え? あ、おい死んだ!? おい奏斗! 起きろ! まだ死ぬにははえーぞ!」




