9話 三つの核
「憎しみを焚き、猛れ、紅蓮!」
俺は、満身創痍の体に最後の命令を下す。
残された力を、右腕の一点へと収束させていく。骨々が悲鳴を上げ、焼き切れた筋肉が断末魔を上げる。
皮膚が裂け、血が滲む程の熱が俺の右腕に集約し、炎が螺旋を描いて渦を巻く。
怜が示した三つの赤いマーカー。
頭、右肩、左腹部。
三つを同時に、精密に撃ち抜く。
できるか、じゃない。
やるんだ。
俺は、虚獣の巨体へと右腕を突き出す。
脳裏に浮かぶのは、俺を信じ任せてくれた順と怜の顔。
あいつらを、死なせるわけにはいかない。
「燼滅炎・速槍!!」
咆哮と共に、右腕から炎の三槍が放たれる。
夜の闇を切り裂き、三つの核へと向かう。
――まず、一本。
左腹部に突き刺さった槍が、内部で爆ぜる。巨体が大きく揺らぎ、その部位が内側から焼け崩れ落ちた。
――続けざまに、二本目。
右肩を貫いた槍が、同じく核を焼き尽くす。巨大な右腕が、だらりと力なく垂れ下がった。
あと、一つ。
頭だ。あれを貫けば終わる。
だが、それはほんの少しのところで阻まれる。
最後の槍が頭部の核に到達するコンマ数秒前。虚獣が初めて明確な防御行動を取った。
残された左腕を、盾にするように頭部へと掲げたのだ。
ドゴォォォンッ!!
炎の槍は、虚獣の左腕に突き刺さり、その腕を吹き飛ばす。
「なっ!?」
「えっ」 「防がれた」
俺たちは、絶望に目を見開いた。
最悪な事に最後の核は破壊できなかった。
全力を注ぎ込んだ一撃。残りを核を破壊する為の力は、もう残っていない。
まずい。
虚獣は吹き飛ばされた両腕を意にも介さず、念動力の全てを解放する。
周囲一帯にあるコンテナ、及び埠頭に停泊していた巨大な貨物船。全長100メートルはあろうかというその鉄の塊が俺たちの頭上に浮かび上がる。
俺たち三人を、いや、ここ一帯をまとめて圧し潰す気だ。
順の盾も、俺の炎も、あの質量の前では無力だ。
クソッ、ここまでなのか。
俺は、唇を噛み締め、迫り来る鉄の空を見上げた。
――その瞬間だった。
虚獣が念動力で浮かべていた無数のコンテナの一つを足場にして、黒い影が跳躍した。
空中で身を翻し、近くに浮いていた別のコンテナの側面を蹴る。
まるで無重力空間を駆けるように、あり得ない速度と軌道で、コンテナからコンテナへと跳び移り、虚獣へと接近していく。
なんだ、あれは。
霊対室の別の部隊か?
いや、違う。あんな動きをする隊員は見た事がない。
その姿は、黒い流線形の鎧の様なものを全身に纏った、人影。
月明かりを背に、その影は最後のコンテナを強く蹴り、弾丸となって虚獣の頭部へと肉薄する。
そのあまりに唐突で、あまりに異質な乱入者に、俺も、怜も、順も、ただ呆然と見上げるしかなかった。




