表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

ACT 04ー4 休日にまつわるエトセトラ

 病院からの帰り道、街中で見たことのある人物を目にした。

 とはいえ、こちらが一方的に見たことのあるだけであッて、名前も知らねえ人物である。


 それだけなら、特に気に留めるような事ではなかっただろうよ。


 だが、それは事と次第によっては、大きく変わってくる。


 その人物の退路を阻むように、見るからに柄の悪そうな男が三人、囲むようにして立ッているからだ。


 その人物。女は、やはりと言うべきだろうか。

 とても困った表情を浮かべていた。


 男達と女は知り合い――ではないことぐらい、見れば誰だって分かる筈だろう。


 しかし、誰一人としてその女を助ける素振りを見せようとはしない。


 そりゃあそうだ、誰だッて面倒事は御免だろうよ。


 俺だってそうだ、栞との約束もある。


 ここで喧嘩なんかしたら、次は口を聞いてくれなくなるんじゃねえか?


 ――だから、他の奴らみたいに、見て見ぬフリをすればいい。

 それがきっと、一番の選択肢なんだろうよ。


「わりィ、わりィ。用事があッて遅れちまッた――ほらッ、ぼさッとするな、さッさと行くぞ!」


 その女の腕を掴むと、強引に男達から引き離すように、こちら側に引き寄せた。


 何も、一番な選択肢が、俺にとッて正しい選択肢だなんて話ではないだろ?

 二番目だろうが、三番目だろうが、俺は納得のいく選択をするまでだ。


 ――何だかなあ。

 いつから俺は、こんなお人好しのようなことをするようになッたんだ?

 歩夢の馬鹿に影響でもされたんかよ?


「あのー、どちら様でしょうか?」


「んなッ――お前なァ! ちッとは状況理解してんのかよッ!」

 

 女は、ぽかんとした表情を浮かべながら、俺の顔を窺ッている。


「ハッハッハッ。だとよ兄ちゃん。威勢が良くてカッコいいなぁ――もう、いいからさあ。俺等の邪魔しないでくれねえかなぁ?」


 男達の注目が、女から俺の方に変わったのが分かッた。


 当初の予定とは大分変わッちまッたが……。


 さで、どうすッかなあ?


「まあ、そうイキるなよ、三馬鹿トリオ。群れてないと何も出来ないのか? 女子の連れションかよ。お可愛いことで」


「アアッ?! んだとテメェ!」


「調子に乗ってやがるぜ、コイツ」


「どうやら、ボコボコにされてえらしいなぁ」


 挑発に乗った男達が、こちらに歩み寄ってきた。


 ハハッ、ホント単純で実に助かるわ。

 これなら後は、女から距離を離せばいいだけだな。


 それで、当初の目的は達成されるだろうよ。


「いいぜ、かかッてこいよ。代わりに俺が遊んでやるぜ」

 

 小馬鹿にした態度でさらに煽ると、顔を真ッ赤にした男達が、闘牛の如く、こちらに突進してきた。


 喧嘩が出来ない今、ホントに相手になどする訳ねえだろ。


 このままその場から逃げるように離れてから、男共を撒けばいいだけだ。


 男達に背を向け、走り出すと、背後から足音が追いかけてきた。


「テメェ! 逃げてんじゃねえぞォ!」


(おッ、来てるな、来てるなァ)


「バーカ。相手は三人もいるんだ、まともに相手にするわけねえだろが。そんぐらい分かれよ、単細胞共が!」


 お生憎様、体力だけは誰にも負ける気がしねェんだわ。

 飽きるまでとことん付き合ッてやるよ。


──────


 その後、男達と街中を駆けずり回る事になッた俺は、日の傾きだした空を背に、ようやく自宅に着く事が出来た。


 全く、今日は散々だッたな……。


 愚痴りながら家の中に入ると、部屋の中には誰も居なかッた。


 おやじはともかく、おふくろまでいないのが気になるが――まあ、そのうち帰ッて来るだろう。


 と、その時。

 ポケットに入れていたスマートフォンが鳴り出した。


 着信元を確認すると、どうやらおやじからみたいだ。


 珍しいな。おふくろからならともかく、おやじからなんて、滅多な事でもなきャ、かけてこねえからなあ。


「あー、もしもし。どうしたおやじ? 何か要か?」


『…………薫。今、何処にいる?』

 

 いつもと違う雰囲気の低い声に、若干の違和感があった。


「何処ッて、さッき家に着いたばかりだけど。そういや、おふくろどこ行ッたか知らないか?」


『そうか。椿さんなら、今私と一緒にいる。今日は自宅には帰れそうにないから、こうして連絡をしている』


「なんだ、おふくろも一緒なのかよ――んで、帰れそうにないッて何だよ? 今、何処に居るんだ?」


『……病院だ』


 その発言に、真っ先に頭の中に過ったのは、栞の事であった。


「――なんで、おやじやおふくろが……病院にいるんだよ?」


 一抹の不安を振り払うように問う。


「栞の容体が悪化した。ついさっき病院から連絡があってな、事態は急を要するらしい」


「……はッ?」


 言葉が理解出来なかった。

 いや、言葉の理解を拒んでいた。


 容態がなんだって? いや……そりャあ、おかしいだろ……俺がさッきまで会っていた栞は……確かに元気にしていたぞ。


 前兆がどこかにあッたのか?


 ――分からねえ。あの時だッて、俺は何も気付いてやれなかッた。


 ――またなのか? いったい何やってんだよ俺はッ!


「薫はそのまま家に居てくれ。何かあれば、また一報入れる」


「……ああ……分かッた」


 その後、親父が何か話していたと思うが、何を言ッてんのか、全く頭に入ッて来なかッた。


 ただただ、無力な自分が、どうしようもなく許せなかッた。


 もしかしたら、栞はもう――なんて最悪の事態が浮かび上がる瞬間――。

 それを否定するように、額で家の柱を叩いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ