ACT 04ー3 休日にまつわるエトセトラ
おさないころから、体が弱かった。
すぐに体調を悪くするから、お父さんも、お母さんも、わたしのことを、よく心配していたと思う。
お外では遊ぶことがむずかしかったので、しぜんとお家の中で過ごすことが多かったです。
そんなわたしに、お母さんは、よく本を読み聞かせてくれていました。
お話にむちゅうになって、何度もお母さんに、また読んでとねだっては、こまらせていた気がします。
お父さんは、わたしにたくさんの本をプレゼントしてくれました。
いろんなお話にふれることが出来て、とてもワクワクしていたと思います。
そんな、お父さんと、お母さんに、何かお礼がしたくて、がんばってにがおえを描いて渡しました。
上手にはかけませんでしたが、お父さんも、お母さんも、とてもよろこんでくれたのを覚えています。
わたしが大きくなるにつれて、お母さんも、お父さんと同じようにしそがしそうにしていました。
しだいにお兄ちゃんが、代わりにわたしと遊んでくれることが多くなった気がします。
お兄ちゃんは、よくお外で遊んでいましたが、わたしは外では遊べなかったので、かわりに本を読んでくれました。
むずかしい漢字には、ふりがなを書いて、なれないながらも、わたしのためにがんばって読んでいたと思います。
お絵描きも、前よりずっと上手に描けるようになりました。
ほめてもらえるのがうれしくて、笑顔を見るのが好きで、いっしょうけんめい描いていました。
――でも、あの日の出来事をきっかけに、わたしは絵を描かなくなりました。
──────
病院の扉が、雑に音を立てて開け放たれる。
ベッドで横になっていた私の意識は、音の鳴る方へと向かう。
振り向くと、手提げバッグを持っている、お兄ちゃんの姿がそこにあった。
「よッ、栞。本、届けに来たぞ」
「兄さん! 入る時はノックぐらいしてよね!」
「わりィ、わりィ。次は気を付けるからさ、怒らないでくれよ」
ペコペコと頭を下げて謝るお兄ちゃん。
「もうっ! その言葉は信用なりません!」
「――えー、俺ッてそんな信用ないのか? つれェわ……」
肩を落とし、とぼとぼと病室を歩きながら、持ってきた荷物を机の上に置いている。
「頼まれてた本は、ココに置いておくからな」
手提げバッグから取り出された本が、十冊積み上げられていく。
「えっ……どうして?」
ある筈のない一冊が、本の中にある。
その本は、あの日に無くしたものだから――。
「ん。どうしたよ? もしかして、本を間違えていたか?」
「ううん……違うの。合ってるよ。でも、どうやって探してくれたの?」
「途中までは、歩夢にも手伝ッてもらッたよ。んで、残りの一冊はそこら辺の書店を片ッ端から見て回ッた。そのせいで遅くなッちまッたけど、見つかッて良かッたわ」
「……もしかして、分かっていたの? 本が家に無いこと」
恐る恐る、お兄ちゃんに尋ねてみた。
「ああ、栞あの本好きだッたろ。俺もよく読んでやったもんな」
覚えていてくれていたんだ。私の好きだった本。
「……知ってたよ、私。あの本が家に無いの――怒ってないの? 私のこと……」
「怒る? なんでさ? 栞は俺に本を頼んだだけだろ。それが家に有るかなんて、特に言っていなかッたしな」
「そうだけど……そんなの屁理屈だよ――ごめんなさい。ありがとう、兄さん」
「おう。さっさと良くなれよ。なんかあったらすぐに飛んで来てやるからな」
「うん」
お兄ちゃんは、本を届けるとすぐに帰っていった。
私は積み重なった本の中から、一冊の本を手に取る。
『かもめが飛んだ日』
その本をギュッと抱きしめて、込み上げる気持ちに思いを馳せていた。




