ACT 04ー2 休日にまつわるエトセトラ
総合病院という事もあって、建物も従来の病院よりも比較的大きく、設備も充実しているので、様々な患者の要求に対応できるようになっている。
この辺りの住人は、何かがあればこの病院にお世話になることになるであろう。
受付にお見舞いの趣旨を伝え、部屋の場所を教えてもらっている。
その間、セレナは早速購入した白のワンピースに着替えたいと言っていたので、化粧室で着替えてくるように促した。
しばらくすると、白のワンピースを着たセレナが姿を現した。
着替えてくると言っていたのだから当然だろう。と、思うかもしれないが、自分が選んだ服を着てくれるのは、思いのほか心が弾むようである。
「済ませてきたわ」
「やっぱり、セレナは白い服が良く似合っているな」
「簡易的な服ではあるけれど。まあ、悪くはないわね」
「気に入ったなら、何よりだ。じゃあ、行こうか」
八代栞と書かれたネームプレートを見つけ、病室のドアをノックすると、「はーい」と言う栞ちゃんの声が聴こえてくる。
声を確認した僕は、ドアに手をかけ開いた。
内部はプライバシーに配慮した個室である。
これはきっと、気を使わないでゆっくり休養してもらう為の、両親からの配慮なのだろう。
大きさは六畳程だろうか、壁も床も天井も白で統一されているので、なんだか妙に広く感じられる。
「歩夢さん。来てくれたんですね」
元気な声で、嬉しそうに話す栞ちゃんを見て、少しホッとした。
「近くに来る用事があったからね。薫に話を聞いた時は心配したけれど、元気そうで安心したよ」
「そうなんですね。わざわざありがとうございます」
ペコりと頭を下げる栞、実に謙虚で礼儀正しい、よくできたいい子だ。
本当に、あの薫の妹なのか? と思ったことが、これまでにどれ程あっただろうか。
反面教師? うむ、確かにそれなら納得だ。
「さっき町で薫を見かけたんだけれど、病院にはもう来たかな?」
「いえ、まだ来てないです」
いつものことですから。といった様子で、栞ちゃんは慣れた感じであった。
「いやね、昨日薫に頼まれて、一緒に本を探してたんだけど、薫の奴、棚を倒して本に埋もれていたよ。そのせいで片づけるのに手間はかかるし、本がどこにあるか分からなくなるしで、もう大変で――」
「――えっ」
話を聞いていた栞ちゃんの表情が、驚いた様相を示す。
「どうしたの、栞ちゃん?」
「歩夢さんも……本を探してくれて……いたんですか?」
明らかに、栞ちゃんの様子がおかしかった。
何かあるのだろうか?
「うん。そうだけど、それがどうかしたの?」
あまり栞ちゃんを刺激しないように、柔らかい口調で質疑を求めた。
「本……見つかりましたか……?」
「あの後、片付けながら探したんだけど、全部は見つけられなかったな」
「ご……ごめんなさい!」
栞ちゃんが、僕に頭を下げていた。
「どっ……どうしたの?」
突然の予想外の行動に、意味までは把握出来ずにいた。
とりあえず理由を聞いてみる他ないだろう。
「訳を聞いてもいいかな?」
僕の言葉に、栞ちゃんは首を縦に振って答えた。
「実は……無いんです。一冊……頼んでいたのに……知っていたのに」
ゆっくりと、絞るように。
後悔を言葉に変換するように、栞ちゃんは話してくれた。
納得がいった。
昨日探していた本が全て見つからなかったのは、元々無かったのだ。
通りで探しても見つけられないわけである。
「ごめんなさい……歩夢さんまで探してくれてるなんて……思わなかったから……ごめんなさい」
「話してくれてありがとう。僕は用事があって最後まで探していたわけじゃないし、そんなに気にしなくてもいいよ」
ここまでの話を聞いて、ちょっとだけ気になっていた部分が、きっちり繋がった気がした。
「それに、心配しなくてもいいんじゃないかな」
「どうして……ですか?」
「それは――伊達にお兄ちゃんしていないって事だよ」
──────
あんまり長居しても迷惑になってしまうので、僕達も病室を後にすることにした。
ドアを閉め、廊下を歩こうと一歩、二歩と歩くが、セレナはドアの前で突っ立っていた。
「何してるんだ? 置いていくぞ」
声をかけると、こちらに歩いてきた。何か気にかかることでもあったのだろうか?
まあ、それは定かではないが、気にする程の事ではないだろう。
受付近くに設置されている、待つための座席広間を通り過ぎようとした時、何やら見覚えのある人物に出会った。
いや――出会ってしまったみたいだ。
「おやぁ? 歩夢君に、命君じゃあないか。奇遇だね」
疑問系をやたらと強調した感じで、梔先輩が話しかけてきた。
格好はブラウスのノースリーブにダメージ加工の施されたタイトなデニムといった格好である。
そのデニムが結構きわどいとこまで破れていて、そこから肌が覗くように顔を見せていた。
露出している腕や足には、包帯が巻かれており、自己主張している。
「どうも。それでは――」
とりあえず挨拶をするが――しかし、何です? その面白いものを見つけたみたいな表情は……。
厄介ごとは面倒なので、早々に立ち去ろうとした。
「まあまあ、待ちたまえよ。それにしてもどうしたんだい、二人揃って――ふむふむ、ほほう。そういう関係か」
顎に指を掛け、独り言を呟きだす梔先輩。
「もしかしてデートかい?」
「違います!」「違うわよ!」
またしても息ピッタリな発言。という事は。
「ただの――」
セレナが言おうとする事を全力で阻止するべく、口を手で塞ぎ、何とか発言を妨害することが出来た。
「くぅー焼けるねぇ~。それにしても場所のチョイスがマニアック過ぎやしないかい?」
「違いますからね! それに病院っていったら、もっと他に目的があるじゃないですか?」
「うーん……」と、梔先輩。考える事数秒。
「ナース観察?」
それは、梔先輩の趣味か何かでしょうか!?
「お見舞いですよ! お・み・ま・い!」
「そうそう、最近はパステルカラーのナース服も珍しくないが、私としては白衣の天使たる者、純白の衣を纏わずしてなんたるものかと思うのだが、どう思うかね?」
「……心底、どうでもいいですね」
「どうでもいいとは何だね! ナイチンゲールだって泣いているぞ、きっと」
「そりゃあ、こんな話題の引き合いに引っ張りだされたら、草葉の陰で泣いてるでしょうね……とりあえず、ナースの話題から離れましょうか」
梔先輩はがっかりした表情を浮かべているが、本気で言っていたのだろうか?
「と、まあ。冗談は置いといてだ」
「ほんとに冗談ですよね?」
この人に関しては、十分に冗談じゃない可能性があるだろ。
「ほら、あんまり熱くなるものだから、皆の注目度がアップしてしまったではないか」
周りを見ると「なになに?」「どうかしたの?」と言った疑問視が、脚光の如く浴びせられていた。
「とまあ、私は面倒事に巻き込まれるのは嫌なので、退散する事にしよう。では、さらば」
「ちょっと待った――」
声をかけた時には、既に雲隠れした後であった。てか、面倒事になった原因は、梔先輩のせいでしょうが!
「もう、そう騒がないでよ。常識外れでしょう」
セレナに常識を唱えられるとは、思いもしなかったよ……。
まあ、正論なので返す言葉も無いです。はい。




