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ACT 01ー1 タネも仕掛けも無いマジック

 数ある作品の中から、目を止めていただきまして、感謝申し上げます。


 はじめましての方は、はじめまして。


 前作の『夢ならばどれほどよかったでしょう 〜未だにあの日のことを夢にみる〜』を、ご覧になられた方は、お久しぶりでございます。


 どうか今作もお付き合い頂けると幸いです。


 では、ごゆるりとご一読下さい。

 ――夢をみた。変わった夢だった。


 夢と言ったが、将来実現させたいと思っている願いとは違うと、まずは言っておこう。


 調べてみると、どうやら夢というのは、睡眠中に起こる体感現象の一種であり、睡眠中に起こる、知覚現象を通して、現実でない仮想的な体験を体感する現象のことだというらしい。


 そう書いてあったので、まあ、そういうことなのだろう。


 なので、果たして夢にまともなものがあるのかと聞かれたら、それは疑問が残る。


 僕も、普段は夢のことについて、いちいち気に留めたりなどはしない。

 それは変わった夢をみるという現象が、今回が初めてなどではなく、これまで幾度となく経験してきたからに他ならないからである。

 さらに言ってしまえば、所詮は夢の出来事なので、いちいち気に留めていたら、それこそキリがないだろう。


 では、どうしてそんなものに、今になって意識を向ける必要があるのか?


 それは、今回に限り、その現象について問題が発生したからに他ならないからである。


 ――まずは、このような現象を何と言えばいいのだろうか?


 予知夢?  正夢?


 ……うん。この際、そんなことはどうでもいいか。


 とにかくだ。

 その問題というのは、変わった夢を何度も繰り返し見た、ということである。


 こうなるといつもとは違い、とりわけ話も変わってくるというものだ。

 これまでにそういった経験はしたことがなかったからである。


 初めは、こんなことも、まあ、偶にはあるだろう。という、些細なものであったのだが、二度あることは三度あるという諺の通り。実際、今朝がその三度目だったのだ。

 本当、諺とはよく言われてきたものだ。全くもって侮れない……。


 果たして、これはお告げか、はたまた警告なのだろうか?

 だとしたら、それは一体何のだろうか?


 ――という事で、流石に気味が悪いという感想も抱くというものである。


 僕はこれでも、世間的に言う、ごく普通な人間の部類の方だと、自負はしているつもりだ。


 しかし、知人からの印象は、どうやらそうではないらしい。


 というのも、困っている人を見て見ぬ振りが出来ない質の為か、大多数の知人からは、お人好しが過ぎる。と言われていたりもするのだ。

 僕にとっては、それがされど当然の事だと思っているので、特にお人好しだとかは思ってはいないんだけどなあ……。


──────


 それは、静寂に包まれた静かな夜だった。


 辺りは、見渡す限り樹木だけが生い茂り、外灯らしきものは何もない。

 暗闇の中、唯一の灯りとなるものは、見上げた空の遥か彼方に存在する、命無き満月の輝きと、星々の煌めきだけである。


 ――ここは、いったいどこなのだろう?


 闇雲に探索していると、遠方に樹の生えてない、開けた空間を見つけた。

 思わず駆け寄って行くと、その空間を作り出していたのは、小さな池であった。

 水面には、この場所から見える空の風景を投影したかのように、もう一つの小さな空を作り出している。


 一陣の風が辺りを吹き抜けていった。

 

 枝が揺れ、葉の擦れ合う音が響き渡ると、入り乱れた枝から葉が宙を舞う。

 一部の葉が風に乗ると、池に落ちては、それらが水面に小さな波紋を作り出していった。


 揺れた水面は、小さな空を少しずつ歪ませていく。


 風が運んで来たのだろうか。

 

 遠方から姿を現した雲が、ゆっくりと頭上に流れ込んでくる。

 満月が雲に飲み込まれるように陰ると、水面に沈んだ虚像の月は、その姿を消失とさせた。


 水面に映った風景、その中に見える月でさえも、全て虚像であることには変わりない。


 それは、一刻の時しか認められない存在であり。


 互いは、決して相容れることなど許されないのだろう。


 ――二つの月が、隣に並ぶことなど、決してないように。


 その姿を、一時の儚い幻をみるかのように、空に浮かぶ満月は、孤独に世界を照らし続けていた。


──────


 現在、教室の窓際にある席に座り、夢の事柄について再度思い返していたのだが、前述の件で寝不足のせいだろうか、身体が怠く、思考も冴えないでいた。


 仕方がない、一時中断しよう。


 気分でも変えるように、外を眺めてみた。


 窓からは咲き散る桜の花。梢が風で揺れるたびに花びらが宙を舞っていく。


 確か桜の花びらの落ちるスピードっていうのが、秒速五センチメートルだとか、とある本の記述で見たことがあるが、あれは果たして本当なのだろうか?

 などと、新たな疑問を抱いたところで、頭が痛くなってきたので、僕は考えるのをやめた。


 校門からは、校舎に向かって走っている生徒がちらほらと見える。どうやら登校終了を知らせるチャイムがもうすぐ鳴るのだろう。そんなことを思っていても、やはり頭の片隅では、夢の事柄がノイズのように残って、離れようとはしてくれない。


 そんなもやもやした気分を、これは所詮は夢の出来事だと割り切ることで、今は決着をつけることにした。

 分からないものを、どれだけ必死に考えたとしても、結局の所、分からないものは、やっぱり分からないものなのだ。

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